王の目に映る影
騒がしい街並み、人通りの中にその影はあった。
フードを被った大男が街ゆく人々を眺めている。
それは誰か人を探しているようでもあった。
亜人だと示す銅板を首から下げて、指で弄っている。
人々はそんな男を少し見ては視線を逸らす。
フード越しにでもわかるほどの鋭い睨み。
稲妻のように光を帯びたその目を見れば誰もが避けて通った。
衛兵が姿を現すと、サッと男は路地裏に入る。
そして兵士がいなくなった後に大通りへとまた戻ってきた。
「ここは外れか。」
男が顔を上げる、先には船着場があった。
王都には三つの船着場がある。
空船と海洋を行く二種類の船だ。
そのうちの一つ、海の船着場に彼はいた。
見張りを続けていると、同じようにフードを被った男がこちらへ近づいてきた。
どうやら“彼の部下”らしい。
「ご報告がございます。部下が奴の姿を見つけました。」
「それはどこだ。」
最初に船着場にいた男、泣きぼくろに黒と紫の瞳を持つ男性が、すぐに尋ねる。
「東の船着場です。例の“標的”が、小人の国へ向かう船に乗ろうとしているとのことです。」
「銀の大地で魔族は目立つ、逃さないぞ。全員集めろ、直ちに出発する。」
男が踵を返す、それに合わせてローブが揺れた。
一瞬強い風が吹いてフードが外れる。
毒の川のような紫の髪が顕になった。
「っ!」
急いで男はフードを被り直す。
けれどそれを遠くから見ている影があった。
それは、エイシュ一族を束ねる王ウォリケの使い鴉だった。
空の上でカァと一声鳴く。
その声だけで銀の王宮に報せが伝わった。
*
ウォリケは座していた。
地上の様子を眼帯の下、映らない片目に映しながら。
遍く世界を眺めている。
銀の大地に病める影がないか、謀反の気はないか。
そして黒き王、エンルフを探すために。
使いの鴉から報せが送られてくる。
王都に怪しい影ありとのことだった。
ウォリケは瞳に映る景色に集中する。
そこは西の船着場、人の世界と神の庭を繋ぐ場所。
強い風が吹き抜けて、怪しいフードの男の顔が顕になる。
瞬間、ウォリケは唾を飲んだ。
――探し求めていた人物がいた。
切れ長の瞳に紫の髪。
その輪郭、刃のように鋭い気配、ウォリケの記憶に焼き付いた“黒王エンルフ”をいやでも思い起こさせた。
ウォリケの背筋に電撃のような戦慄が走る。
(間違いない──あれを見間違えるはずがない。あれこそがエンルフの生まれ変わりだ。何を企んでいるか知らないが、王都にまで侵入していたとは……。)
手の届く位置に奴がいるということは好都合であった。
すぐに一族を呼びつける。
「「呼びましたか、お父様。」」
一番に駆け付けたのは双子の王子と王女、第二王子のフリードと第一王女のフリーデだった。
息の揃った声で、王の前に跪く。
ウォリケは説明する暇もなく、二人に告げる。
「エンルフが見つかった。ただちに後を追い、首を攫え!」
白亜の王宮に声が響く。
(千年の禍……ついに終わらせる。)
この日、歴史は動き出した。
それが黒い運命に繋がるのかどうかはまだわからない。
ただ砂時計の砂は、一つずつ着実に落ちていっていた。




