描けた魂の側で
シーナはラガルの部屋を訪れていた。
というのも、グレイにラガルを信じるなと言われてから、ラガルの事が気になってしかたなかったからだ。
そこには糸の切れた人形のようなラガルの姿があった。
ただ何も言わずに、呼吸だけを繰り返している。
「ラガルさん、具合どうですか?」
「……。」
沈黙だけがあたりを包む。
シーナは返事を待っていたが、返って来ない事を悟った。
仲良くなれたと思ってただけに、最近のラガルの変化には傷つくものがある。
(イーヴァさんは魂の面が違うって言ってたけど……。)
シーナに難しいことはわからない。
ただラガルの見た目は変わらないのに何かが違うことだけは感じていた。
「ラガルさん、どこ見てるんですか?」
焦点が一向に合わないラガルの視線の行先、それを本人に尋ねてみる。返事が来なくても数回に渡ってしつこく尋ね続けた。
するとややあって、ようやくラガルの口が動く。
「お前はなぜ、話しかける。」
「ラガルさんと話がしたかったからです。」
「何用だ。」
「用ってほどじゃないですけど、話したくて。」
シーナは僅かに、はにかんだ。
少しでも話せたことが嬉しい。
けれど一つ気になることがあって、つい聞いてしまう。
「前は名前で呼んでくれてたじゃないですか。また戻っちゃったんですか?」
出来心だった。
いつもの彼なら困ったように逡巡して、照れながらでも呼んでくれるはずだった。
「呼ぶ必要がない。」
答えはすぐに返ってくる。
シーナは返答に顔を強張らせた。
胸の奥が、すとんと音を立てて落ちた気がする。
「必要?」
「名を呼ぶとは、心を寄せる者のすること。俺の……今の我が内には、その情が、ひと欠片も動かぬ。」
ラガルはハッキリと答える。
言葉を探すように、喉がひくりと動いた。
それはどこか言いにくそうでもある。
そのときイーヴァの言葉をもう一度シーナは思い出す。
魂の面が変わったという言葉の意味がようやく腑に落ちた。
だが。
(ラガルさんは変わってない。)
不器用なところが前と同じだった。
顔色を伺うように僅かに瞳が揺れたのを、シーナは見逃さなかった。
(不器用で優しいラガルさんのままだ。)
形は変わってしまっても。
本当は、怖い。
だけど――ラガルさんに怖いなんて思いたくない。
だからシーナは、笑った。
泣いたら壊れてしまう気がする。
だからシーナは笑うしかなかった。
シーナはそっと微笑む。
その笑顔にラガルは首を傾げた。
シーナがラガルの存在を確認しているときだった。
扉が叩かれる。
ラガルが低く、入れと言うと巫女とメフェルがやってきた。
巫女の姿を見たメフェルの瞳の奥がわずかに揺れた。
怒りとも怯えともつかない影が、ほんの一瞬だけ。
「気分はいかがですか、ラガル。」
巫女が通りのいい声で尋ねる。
ラガルはそれにすら答えなかったが、巫女は気にせず続けた。
「検診です。神殿へ至急来てください。」
巫女が足を踏み入れた瞬間、ラガルの呪紋が微かに疼く。彼の瞳から、ひとつ呼吸が抜け落ちたようだった。




