痛みの中で
泣き腫らした顔でメフェルは部屋に立つ。
王城は変わらず白く、美しく、そして――冷たかった。
まだ心の整理がつかない。
胸の奥に、先ほどの出来事が重く沈み込んでいる。
ラガルの変化。
王の命令と呪紋。
エンルフ討伐の強制。
そして、彼の“人格が崩れた”理由。
全部が一度に襲いかかり、誰も追いつけていなかった。
「……整理しよう。」
メフェルは深く息を吸い、静かに呟いた。
これは自分のためであり、同時にラガルとシーナ、そして仲間たちのためでもあった。
王都に入る少し前――
地の宝珠を“闇の一族ノフサル”が狙っていることが発覚した。
それがラガルとどう関係があるのかはわからない。
けれど、ノフサルの狼は彼を見ると抱きついて離れなかった。
思えばあの時から、彼は限界に来ていたのかもしれない。
そして王都に着いたとき。
イーヴァの案内で王城へ通され、すべてが狂い始めた。
――ラガルは王の前で、“エンルフを殺せ”という命令を強制的に刻まれた。
ただの奴隷紋ではない。
もっと深く、王族と巫女の命令に逆らえない呪紋。
命令を破れば痛みが走り、従えば心が軽くなる。
まるで魂が“従属に依存するよう”組まれた魔術。
結果として――
彼の心の底にあった“別の層”が引きずり出された。
イーヴァ――いや、グロード王子曰く、人格が壊れたのではなく、
“隠れていたほう”が表に出てきただけだという。
メフェルから見れば、その“もう一人のラガル”は、
記憶も感情も希薄で、ただ命令と合理だけで動いているようだった。
だから彼は、メフェルにも、シーナにも――誰にも心を見せなかった。
(王は黒き王、エンルフを恐れている……。)
ウォリケの異様な態度が脳裏に蘇る。
(彼の呪紋は……今のままじゃ外せないわ。)
イーヴァが言う“アルダ”もしくはエンルフと同程度の火魔法の使い手との接触。
簡単に動ける状況ではない。
第二王子や第一王子の不審な視線。
そして迷宮のように複雑な王都の人間関係。
考えるだけで胃が痛くなった。
(ヘレーの鏡も見つかってない……。あれだけが手掛かりなのに。)
メフェルは悔しげに唇を噛む。
――すべての問題が、この王都で一気に表面化した。
ラガル。
シーナ。
エンルフ。
呪紋。
宝珠。
そして自分自身の祈りまで。
全部が絡まり合って、ほどけなくなっていく。
「……全部、必ず取り戻すから。」
その言葉だけが、確かな熱を持っていた。




