正直に答えよ
フリードが去った後、男はひたすら真っ直ぐ歩いていた。
胸の痛みは歩けば歩くほど強くなっていく。
まるでもう一つの心臓が生えて、爪で抉られてるみたいに痛んだ。
(痛い……だが声に従ってる間は楽だった。)
男は先ほどのフリードとのやり取りを考察する。恐らく、この紋は命令を遂行した場合に快楽を与えるものだ。
それが報酬となって、刻まれたものを従順な奴隷に変えていく禁術の類だろう。
(この痛みは、エンルフを殺せという命を達していないせい。)
男は状況を理解する。
そしてしばらく胸の痛みを確かめるように目を閉じた。
動けないほどではないが、立ち続けられるほどでもない。
ただ、男は持ち前の精神力で耐えているだけだ。
(情報が足りない、この王宮の力関係はどうなっている。)
彼は静かに目を開ける。
自分が成すべきことを見つけた目をしていた。
(調べる、今はそれが最優先だ。)
彼は歩いていく、白亜の廊下を。
最初に選んだ行き先は神殿だった。
そこは他と同じく真っ白な空間、天井からは光が差し込み、神聖な空間を照らしていた。
穏やかな空気のその場所は、暖かく心地よい。
真ん中には大きな巨人の像が立っており、その眼差しが見下ろしていた。
(エイシュ一族の始祖、エイシュ。その像だな。)
男は像を見上げると考える。
そして視線を下す。
(――いた。)
像の下で覆面の女が祈りを捧げている。
彼の目的はその女だった。
後ろで祈りが終わるのをじっと待つ。
やがて祈りが終わった。
女は静かに立ち上がり、白い布を整える。
そこで――ようやく、彼女は後ろの気配に気づいた。
「あなた……雰囲気が変わりましたか?」
巫女は男に尋ねる。
しかし彼は質問に答えずに、質問を重ねた。
「質問がある。巫女と王族についてだ。」
「なんでしょう。それを聞く事に意味があるのですか。」
「ある、状況の判断材料になる。」
男は変わらない顔のまま巫女に尋ねる。
「一つ、巫女とはなんだ。」
「世界樹の巫女です。この世界樹の管理を行なっています。」
「二つ、王族について教えを乞う。」
「ウォリケ王。第一王子、グレイ様。第二王子、フリード様。第三王子、グロード様。王妃のネイス様にフリード様の双子の妹のフリーデ様。」
「三つ、その中で一番力が強いのは。」
「ウォリケ王を除くならグレイ様です。彼は一番、王宮内で発言を持っております。しかしあまり王子たちに差はないかと。」
満足したのか男は質問をやめた。
その様子を見て巫女が尋ねる。
「あなたの目的はなんですか?」
「目的……今は状況を整理したい。命令の遂行の為にも。」
男が静かにそう答える。
巫女は覆面の下で目を細めた。
しかしそれは悟られない。
「随分と素直なのですね。メフェルの命が掛かっているからですか?」
「関係ない、命令があるなら命令に従う。ただそれだけだ。」
「従順ですこと、魔族にしておくのが勿体無いですね。」
巫女は男を眺めるとそう言った。
それは心からの言葉だ。
「では、行く。」
短く男が切り上げようとしたときだった。
「待ちなさい。──“正直に”答えなさい。あの娘をどう思っている。お前にとってメフェルは何?」
巫女から命令が飛ぶ。
男の体は強張り、口が動き出した。
「ただの器だ。都合よく動く足であり、必要なら切り捨てるだけの道具だ。名前を呼ぶ価値もない。」
その言葉に巫女はしばらく固まる。
行っていいと言われたのはそれからすぐのことだった。




