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従属の嘲笑

 男は重い足取りで廊下を歩いていた。

 先ほどから後ろに監視役と思われる人物がついて回ってる事に彼は気づいていたが、何も言わない。

 

 白い廊下は光輝き景色を反射している。

 空気は重く、けれど済んでいた。

 芳しい花の香りが辺りに漂う。


 彼は一歩ずつ進むごとに鼓動が強くなっていくのを感じていた。

 息をするのもつらく、視界が霞む。

 

 原因はわからないが――何かをなさなければいけないという気持ちだけがあった。


 そのとき、廊下の角の先から供を連れた男が現れる。

 くるくるとした短い灰色の髪に同じ瞳を持った快活そうな男だ。

 

 ふと、晩餐会の記憶が脳裏に過ぎる。

 それはラガルと呼ばれた男の記憶だった。

 空気も感情も伴わないただの情報の中、同じ顔の男がいた事を思い出す。


 (第二王子のフリードだ。)


 フリードは魔族を見ると瞳を開く、男は魔族流のお辞儀をするとそのまま過ぎ去ろうとした。

 だが、フリードはすれ違う刹那、その結ばれた口を開き声をかける。


「待て、魔族!」


 短く大きい声。

 その瞬間、男の体が止まる。

 意思とは違う動きをした体に彼は困惑した。


 (体が……動かない。)


「そこに跪け。」


 命じられた瞬間、体が動き出す。

 それは長年染みついた動きのように自然に、膝を床につく。

 男は屈辱に顔を歪めるでもなく、困惑を顔に出すわけでもなく。ただ、思考をしていた。


 (そうだ、紋だ。)


 ここ数日の記憶が頭に浮かぶ。

 ウォリケ王に紋を刻まれ、自らは王族とその巫女に逆らうことができなくなった。


 そして。


 (命令を聞いてる間は痛みが和らぐ。)


 その事に気づく。

 その事実に気づいた瞬間、彼は悟った。


(これは使える。)

 

 命じられることには慣れていた。

 痛みなど些細な事にすぎない。

 ならば、銀の目一族(エイシュ)であろうと、指示に従うことに抵抗はなかった。


「顔を上げろ。」


 命じられるままに、男は顔を上げる。

 フリードは男を舐め回すように見ると愉悦の笑みを浮かべた。

 そして、その悪い笑みを浮かべたまま彼に命じる。

 


「笑え。」

 


 そう命じられると口角が僅かに持ち上がる。その笑みは不自然なものであったが、確かに微笑みであった。ただ、男の瞳はどこも捉えず、宙を見ている。


 フリードは顔を歪ませながら言った。


「気色悪い。」


 けれど顔に浮かべている表情は快楽を示す笑いで、フリードは男で遊ぶ事に快感を見出していた。


「怒ってみろ。」


 男の目が吊り上がり、口が強く結ばれる。

 しかし怒りの感情は湧き上がっておらず、ただ言われた事に従うだけだった。


「本当に命令に従うのだな、今の気持ちを言え!悔しいか?恥ずかしいか?」


 フリードは意地悪く微笑むと、声量を上げて男に問い詰めた。

 男は考える暇もなく、言葉を紡いでいく。


「何も感じない。命令されることには慣れている。次の指示を待つ。」


 静かに言い切るとフリードの顔が沈む。そして興味を失ったかのように視線を逸らすと口を開いた。


 

「行ってよし。お前は案外つまらない!」


 男の体が動き出す。

 フリードはその背中を見送るように見ていたが、やがて完全にどうでも良くなったのか歩きだした。


 

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