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イーヴァの帰郷

 王都は一目見ただけでも素晴らしいところだった。

 銀の世界樹を囲むように白い建物が並び、光り輝いている。あちこちに銀の飾りが施されており美しい。


 地面は歩きやすいように塗装されており、等間隔で月光を跳ね返すための白い石が埋め込まれていた。


「ここが……王都。」


 いつもの格好に着替えたシーナが呟く。

 見上げたまま立ち止まった彼の背に、淡い光が反射する。初めて見る景色に胸が高鳴り、曲がっていた機嫌もいつの間にか解けていた。


「うわぁ、見て。綺麗な人がたくさん!」


 ミムラスが指を指す。船から降りてきた乗客たちの他に、身なりのいい人影が多く見える。


「ここは中層街だからな、金持ちが多く集まるんだ。」


 イーヴァははしゃぐミムラスの頭を二度叩くと、乗組員から荷物を受け取った。


「観光なら下町、低層街がいいぞ。あそこは賑やかでいい。」

「へぇ、行きたいですね。ラガルさん。」


「あとでな。」


 何気なくラガルはメフェルを見る。

 彼女は視線が合うとすぐに避けた。

 ラガルも同じように目を逸らす。


 その一瞬の空気の乱れを、シーナだけが見逃さなかった。

 ふたりの間に走ったわずかな影が、旅の疲れとは違う種類の緊張に思えた。


 メフェルは普段通り接しようとする一方で、ティーソエルとの一件から微妙に気まずくなっていた。

 ラガルには全く心当たりがない。ただの気のせいだろうと彼は思う。


「よぅし、早速だがお前ら観光は程々にして、このイーヴァ様のお願いを聞く時間だぞ。」


 パンパンとイーヴァは手を叩く。

 それだけで全員の視線が彼に向いた。

 ミムラスはまだ少し落ち着かない動きをしていたが彼女もイーヴァを見る。


「私も用事があるからできるだけ手軽だといいのだけど。」


 メフェルが彼に言う。

 イーヴァはちょっと困った顔をして、申し訳なさそうにメフェルを見ると言った。


「実はなぁ。」


 ――実家に一緒に来て欲しい。


 それがイーヴァの頼み事であった。


 四人は何と反応していいかわからず微妙な返事をする。

 しかし、船に乗せてもらった以上断るわけにはいかない。


 イーヴァの声の揺れに、なにか訳があると気づきながらも誰も踏み込めなかった。

 ただ背中についていく以外、選択肢がなかった。


「実家くらい一人で帰りなさいよ。」


 ミムラスがイーヴァに言う。

 彼は、“ははは”と笑うと、ぼそっと呟いた。


「あんま好きじゃないんだよなぁ。」

「大人が情けないと思わないの?」


 小さな蹴りをミムラスはお見舞いする。

 それを横目で見ていたラガルは彼の言動に引っ掛かりを覚えていた。


(魔族なのに実家が銀の大地にある? しかも王都に?)


 彼の言葉を信じるなら、どちらかが嘘になる。

 亜人だとしても王都に住んで、金持ちの家というのが想像できなかった。


「お前、本当は何者だ。」


 ラガルは少し言葉を強めつつ尋ねる。

 これから行く先が厄介ごとの巣窟であるような気がして、胸の奥がざわついた。


 イーヴァは疑問に答えず、先を進む。

 閑静でありつつも華やかな中層街の中心を抜けて、奥へ奥へと進んでいく。


「第三王子の酔狂王子が近頃、王都に戻ってくるらしい。」

「それは大変心強いね、ところで君これから用事はあるかい。」


 その道中、聞こえてきた会話にシーナは関心する。


(さすがお金持ちになると話題もなんだか頭が良くなるんだ。)


 そんな馬鹿くさいことを考えていると、イーヴァは大きな門の前で立ち止まった。


 その門の奥には厳重に閉められた扉が見える。

 傍にいた兵士が一同を見ると、槍を門の前に構えたがイーヴァが懐から何か証書のようなものを見せた途端、慌てて槍を引き下げた。


「この道って……。」


 メフェルが何かに気づいたようにイーヴァを見る。

 すると彼は口元に指を添えて、片目を閉じた。

 彼女は何かを察するように口を閉じるが、その雰囲気は先程までとは明らかに違う。


 胸の奥からこぼれる緊張が、彼女の仕草に滲んでいた。


「私、やっぱり。」

「駄目だ、約束しただろう。悪いようにはしないさ。」


 その言葉にメフェルは瞳を曇らせる。

 一同は彼女の表情を見て、なぜだか不安になった。


 門を通り、重い扉を開いて中に入っていく。

 そこは小さな台があるだけの部屋だった。


「こ、ここで何を?」


 シーナが問いかけるより早く、イーヴァが中央に集まるよう指示し、台に手をかざす。


 すると地面が持ち上がった。


「ひぁ!なんですかこれ。」

「昇降機だ。安心しろ、上に移動するだけだ。」


 シーナが悲鳴をあげるとイーヴァが説明した。


 やがて地上に五人は辿り着く。

 そこは楽園と見紛うほど美しい庭だった。

 四季折々の花が季節関係なく咲き誇り、蝶が舞っている。


 そして何より目を引いたのが。


 一同は息を止めた。

 視界の奥、天を覆うようにそびえる巨大な影――。


 一同の目の前にある(・・・・・・)世界樹(ぎんのとう)だった。

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