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闇の序曲
――赤く黒く、深く、熱く。
その結晶はまるで生きてるかのようだった。
廃屋となった小屋の下、薄暗い地下室に男は居た。
枯れ枝のように細い腕、痛み茶色く汚れた薄いローブ、窪んだ眼孔には赤く血走った目が何かを探すように動いている。
男が捨て置かれた箱の錠を開けると中にはそれがあった。
――赤く黒く、深く、熱く。
血をそのまま閉じ込めたような生命の結晶。
それを手に取ると男はしばらく、息をするのも忘れたように見つめていた。
そして、不意に笑い出した。
「これで、これで俺は返り咲ける!」
誰も知らない夜の中、物語が始まる。
男の笑い声が夜闇に沈んでいった。




