閉幕:竜退治
今はもう何もない洞窟の中で1人の少年が花を添えていた。名をシーナ・バルデンス――竜殺しの英雄ジーク・バルデンスの一人息子にして忘形見。
今は亡き父に、母に、仇たる竜へ手向けるように花をそっと置き、両手を握りしめる。
土に触れた手に今はないはずの竜の熱が伝わった。血と灰の匂いが蘇る。それが父の血の熱と同じものに思えて、シーナは目を閉じた。
どうかエイシュ様の元、戦の中で散った英霊として迎え入れられてることを願いながらシーナは涙した。死んだ父を、後を追って竜に挑んだ母を想う。
祖父と祖母はどれだけ傷ついただろうか。
物心ついた頃にはもういなかった両親。それに代わって自分を育ててくれた祖父母に感謝をする。
仇を取ることは出来なかったが、その最期を見届けることは出来た。これがシーナなりの仇打ちであった。
(安らかに眠れますように。)
しかし少年は竜の死後を想い、祈りを込める。どうか世界樹の元に還り、その命が巡るよう、願いを込めた。天井から差し込む光が優しく花を照らす。
それは慰めのようでもあり、竜の消えた洞窟にそっと降り注いだ。
「シーナ、もう行くわよ。」
メフェルの声が聞こえる。その奥にラガルの姿も見えた。後ろ髪を惹かれつつ声の元に向かった。
供えられた白い花が風のない中、ただ揺れる。
洞窟の奥で、雫の音がひとつ落ちた。
*
「んー!お腹すいたわ。」
メフェルが大きく伸びをしてそう言った。それだけの言葉が洞窟の余韻を壊す。シーナは思わず笑った。
(道は続いていくんだ。)
シーナは直感的にそう思う。
開けた空は青く広がっていた。
「なにか食べに行きましょう。」
シーナの声が明るく響く。
3人は街に向かって歩き出した。
その背に黒い羽が舞い落ちる。
一羽のカラスが行き先を見ていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。読後に何かが残ったなら、それが“星”です。
どうか、この大地にひとつ落としていってください。
励みになります。
3人の旅はまだまだ続きます。どうぞよろしくお願いいたします。




