火の輪の外
夜だというのに火の大地は、うだるような熱さを持っている。
宿を探したが、存在せず。一同は宿場の代わりに、荷を引く家畜の小屋を借りていた。
屋根はあるものの外の気温と変わらず、ミムラスは溶け切っている。
「熱い〜。どうしてこんなに熱いのさ!」
「イカズが見守っている、だから熱い。」
「は?何それデカブツ。」
ラガルが返事を返すと、ミムラスは聞き返す。
空を見上げるとラガルは目を細めた。
「あの天幕の向こうに座す、我らが赤き月ソルスラ。」
「はぁ、そういうお伽話?」
「本当のことだ。」
それから、しばらくの間は沈黙が流れた。
そうしているとここ数日の事が思い起こされる。
シーナはウラガフという男の襲撃から火の大地に至るまでのことを考えていた。
そのキッカケとなったであろう、ラガルに聞きたいことは山程ある。
しかし、踏み込んで良いものか迷いが生まれ、シーナは聞けない。
他の面々を見てみると、ミムラス以外は同じようにラガルを気にしていた。
誰が切り出してもおかしくはなかった。
メフェルが口を開きかけたとき、それよりも早くイーヴァが声を上げる。
「……ラガル、お前俺たちになんか言うこととかないのか?」
「言うこととはなんだ。」
「しらばっくれるなよ、あの襲撃者だ。
どう見てもお前の知り合いだろ。」
聞きたいことを聞いてくれてシーナとメフェルはどこか、ホッとしたような顔を見せる。
そして、張り詰めたような空気が場を支配するのは同時だった。
「ウラガフのことか。
ウレラムを出てくるとは思わなかった。」
「どういう関係で、どうして追われてたか……気になるのはそこよ。ラガル。」
どうにも場の緊張感が伝わってない彼に、メフェルはため息を吐きかける。
紫の瞳はどこも捉えずにただ一点、小屋の壁を見つめていた。
「……身の上を語るほど他者を信用しておらぬ。」
「ここまで一緒に旅をしてきて、それはないだろ。」
イーヴァが苛立ったように頭を掻く。
一拍置いて彼は盛大なため息を吐いた。
「血の宝珠とか言ってたな、やはりお前と関係あるんじゃ。リィマの件もそうだ、お前なんか隠してるだろ。」
「特に――。」
ラガルの言葉が止まる。
紫の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……言えば、お前たちが巻き込まれる。」
それだけ言って、彼は視線を逸らす。
ラガルが言い終えたところで、外から悲鳴が聞こえた。
何やら町が騒がしい。
メフェルが一番最初に杖を持って立ち上がった。
続いてミムラスが、銃を持ってゆっくり外の様子を見に行く。
「前にもあったね、こんなこと。」
そこでは男たちが火を灯し、何かを騒いでいた。
「なんて言ってるの?」
ミムラスがイーヴァの方を見る。
イーヴァは身を乗り出しながら答えた。
「火がないと喰われると言っている。」
「喰われるですか?何に?」
シーナは眉を顰め、暗闇の中に灯る明かりの向こうをじっと見つめた。
けれどそこには闇が広がるばかりで何も見えない。
子供を抱えて走る母が見えた。
そんなに状況は危機迫っているのだろうか。
「近い……。」
ラガルがそう呟いた。
彼は仲間の中でも魔獣の気配に聡い。
そう言うのであればすぐ側にいるのだろうと、シーナは身構える。
明かりの影から暗がりが動き出した。




