赤い陸影
「皆さん!」
シーナは声を張り上げた。
少し上擦った声が戦場に響く。
駆け抜ける背中を見て、すぐに狼が狙いを定めた。
だがイーヴァがその敵の腹に蹴りを入れると、狼がひっくり返る。
「シーナに続け!」
イーヴァが指示を出しながら、駆け抜けていく。
すぐにメフェルが後に続いた。
少し迷ってラガル、迫る敵に銃を放ちながらミムラスがやってくる。
無我夢中で走った。
狼の群れの足音に混じって、影が揺らめく。
黒い影の斬撃が飛び出してきたところで、メフェルの杖が光を放った。
影が相殺され、霧散していく。
遠くから舌打ちの音が聞こえたのと同時に、メフェルは背後に火を放った。
森が焼けるのも気にせず、走り抜ける。
息が切れて、体中に枝の傷がついた。
それでも一同は前だけを目指して進んだ。
灰の匂いが遠のき、雨が降り始めた頃になっても追跡は続く。
足を止めることなく、一夜が明け、森を抜けた。
ついた先は浜辺。
目の前には淀んだ海が広がる。
もうこれ以上進む道がないと、シーナは足を止めかけたが、イーヴァが指差す先に小さな港があった。
寂れた船橋には、一隻の小舟が浮かんでいる。
船頭は船の上で網を広げていたが、一同に気づくと船を結ぶ綱に目線を落とし、そして次にシーナを見つめた。
そして何も言わずに、帆を張り、綱を切ると船を出す。
その仕草を見て、イーヴァはシーナとメフェルを持ち上げると、一思いに船に飛び乗った。
ラガルとミムラスも遅れて船に着地する。
接近していた狼のうち一匹が、飛び込もうとしてくるのをイーヴァは剣で叩き落とす。
浜辺で立ち尽くす敵を見つめながら、船は陸を離れる。
一同は肩で息をしながら、間一髪逃げおおせたことに胸を撫で下ろした。
「はぁ……よくやったぞ。シーナ。」
イーヴァはそう言うと剣を下ろす。
ようやく敵の姿が見えなくなったところでメフェルも杖の構えを解いた。
「ありがとう、船を出してくれなかったら、どうなってたか。」
メフェルが船頭にそう言うと、彼は横目で彼女を見ただけで何も言わなかった。
「サンオドアルでいいな。」
代わりに船頭の口からは低い声で、船の行き先だけが返ってくる。
もう、一同には行き先の選択肢は残っていなかった。
ひとまず、敵から離れられるのであればどこでもいい。
唐突な海原の旅は三日続いた。
徐々に周囲の気候が熱くなり始め、陸から吹く風が土の匂いを運んでくる。
ようやくサンオドアルの赤い陸が見えてきた頃には、一同はクタクタだった。
「少し歩けば町があるはずだ。」
お礼の船賃を渡すと船頭はそう言い残して去っていく。
その背中を見送りつつシーナたちは、サンオドアルの乾いた大地を踏みしめた。
「もうヘトヘトだよぉ!」
ミムラスがそう言いながら地面にへたり込みかける。
彼女は今にも横になってしまいそうだ。
「想定外の旅路ね。誰か土地に明るかったりする?」
メフェルが辺りを見渡す。
赤と茶の縞模様の丘と赤い石の岩壁が広がっていた。
「俺は知らぬ。」
ラガルは服の袖を捲りながら答えた。
そして視線をイーヴァにやる。
「赤髪、お前は“知っている側”だろう。」
「うん?まあ……確かに知らんこともないが詳しくはないぞ。」
イーヴァは髪を弄ると、自身の太ももを叩いた。
「うし、じゃあまずは船頭の言ってた。町に行くぞ。
話はそれからだ。」
そう言ったイーヴァ自身が、一歩目で砂に足を取られた。
「……クソ、暑いな。」




