揺れる灯
シーナは一人で考えていた。
この頃、考えることが重なり、思考が鈍っている。
少しの間滞在することが許されたネスフィリの里。
用意された客室の外、小さなベンチに座って灯りを眺める。
光はどこか寂しく、揺らいでいた。
(ラガルさんは危ない人なのかもしれない。でも……。)
ラガルと少し仲良くなれたと思えた日々。
他愛ない会話や、共に冒険した記憶が胸を締めつける。
王子、グレイに彼を信じるなと言われたときのことを思う。
あのときは絶対に裏切らないと思ったのに、今はどうだ。少しずつシーナの心は陰りを見せていた。
(信じたいな……ラガルさんのこと。)
薄紅の瞳が睫毛に隠れる。
(信じさせてください。ラガルさん。)
シーナは祈るように心の中で呟いた。
そのとき背後から、誰かが近づく気配がする。
振り返った先に、当の本人が立っていた。
彼は何を考えているか、わからない表情でシーナを見つめている。
リィマの件があったばかりだから、仲間の誰もがラガルに対して接し方に戸惑いがあった。
けれど彼はそれを気にした様子もない。
黙ったまま見つめてくるラガルにシーナは、不安げに眉根を寄せる。
「なんですか……?」
信じたいと心で言ったばかりだが、本当は少し距離を取りたかった。
このままではラガルの危うい面ばかり、見続けてしまって不安になる。
そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、ラガルは更に距離を詰めてシーナに問いを投げかけた。
「優しさとはなんだ?」
「え?なんですか、急に。」
突飛すぎる質問に、シーナは聞き返す。
ラガルは少し間を置くとリィマのいる部屋の扉を振り返って、口を開いた。
「あの術を施したネスフィリが優しくなくなった、と学者が言っていた。」
シーナは首を傾げるラガルが残酷だと思った。
幼子が蟻を潰し、動かなくなった理由を不思議がるような。
目の前にいる男の神経を疑った。
けれど恐らく、そんな事を訴えても彼には意味がない。
シーナは少し考えて言葉を発した。
「……優しさって、誰かを守ろうとする気持ちだと思います。たとえば胸の内に生まれた暖かいものを、外へ渡そうとすることです。」
「では虫の魔獣から、庇ったのはお前の優しさか?」
そう問われてシーナは里に入る前、初めて倒した魔獣のことを思い出す。
頷くのは恥ずかしかったが、無言でシーナは首を縦に動かした。
「それは、あの魔術師の女もなのか?
首輪が外れたとき、危ういのを承知で近づいてきた。」
「そ、そうです。ラガルさんが心配だったからです。」
「俺は……あの女に触れられると温かくなる。」
その言葉を聞いてシーナは動きを鈍らせた。
(それは――。)
シーナは続きの言葉を思い浮かべようとしたが、今はラガルとの会話に集中したかった。
「それを、返したくなった時が、優しさですよ。」
「……どうすれば、そうなる。」
シーナは少し困ったように笑う。
「その問いを、持ち続けること。
それ自体が、もう答えなんじゃないですか。」
ラガルは考え込んだあと、思い立ったようにどこかへ歩いていく。
納得したのかどうかは、わからない。
それでもシーナは、静かに息を吐いた。




