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銀の大地-死者に会える鏡を求めて-  作者: すけろくこぞう
開幕:欠落に触れる調律
116/132

成功

「っ……。」


 猿轡をしたリィマの口から、小さな悲鳴があがるのと同時に、手首に赤い染みが滲み出てくる。

 ラガルはそれを愛おしそうに指で撫でると、腕へなぞり上げていく。


 ぞわぞわとリィマの背中が粟立つ。


 リィマは息を深く吸った。

 恐怖を紛らわすために。


「血は巡る。」


 甘い声が響く。

 ラガルの毛先の紫がより濃く滲んだ。

 風もないのにリィマとラガルの髪が揺れる。


 飲みかけの茶の水面が、理由もなくゆらりと揺れ、一瞬だけ、青の煌めく景色を映し出した。


 シーナは息を呑み、見間違いかと目を擦る。

 

「魔は血に宿る。」


 リィマの腕に霜が降りた。

 腕の血痕を伝って、血液は氷へと変わる。


「っ!」


 仰反るリィマの頭にラガルは片手を添える。

 そして腕を掴んだ手を強く握ると魔力を流し込んだ。


 瞬間、リィマの体に激痛が走る。


 内側から裂かれるような、言葉にできない痛みに体が勝手に跳ね回る。

 ラガルは倒れ込むように床にリィマを寝かせると、そのまま術を続けた。


 冷たい魔力が自身の心臓まで迫り上がっているのが、リィマにはわかった。

 なのに血は沸騰して、ぐつぐつと今にも溢れてしまいそうなほど熱い。


 額の石が深く輝く。


 胸が裂けそうなほど痛かった。

 口に力が入る。

 喉の奥から叫んだ。


 目が飛び出すくらい、見開いた。

 しかしラガルは術を止めない。


 まるで踊るように手を取って、暴れるリィマに体重をかける。


 一層強くリィマが暴れたあと、フッとその力が抜ける。

 ラガルはそれまで薄く微笑んでいた唇を、真横に結ぶと再びリィマの手首を撫でて言った。


「……終わった。」


 伏せた瞳をラガルが上げると、アルラがすぐに駆け寄った。

 動かないリィマを見て、叫び声をあげそうになる。

 猿轡を外して、その肩を揺さぶった。


「う……ん……。」


 リィマは生きていた。

 汗だらけの額にある石は弱弱しく輝いている。


「終わったの?」


 先程までとは打って変わって平坦な声で、話す。その目は虚だった。


「大丈夫か?リィマ?」


 アルラはリィマの全身を隈なく見る。

 手首の傷以外、変わったところはなかった。

 だが、何かがおかしい。


 リィマは自分の心臓に手を当てる。

 硬く凍っていることがハッキリとわかった。

 心臓が脈打つたびに痛みが襲う。


 けれどその代わり。


「わかるよ……魔の調和が。」


 そう言ってリィマは自身の手を見る。

 幾分か色褪せて見える景色は代償の一つだと思えば軽かった。


「でも、なんでかな……大事なものを無くした気がするの。」


 リィマは胸に手を当てる。


アルラヌリィ(・・・・・・)サチグモ(・・・・)、私なにか変かな。」


 もう、リィマは笑わなかった。


 *


 術は成功した。

 何も問題がなかった。


 なのに、そのはずなのに。

 

 (どうして皆、悲しそうな顔をする?)


 ラガルはわからなかった。

 今は、部屋の中でラガルを除く全員が話し合っている。

 ただ一人、彼だけが部屋の外へ閉め出された。


 何を間違っていたのか、ラガルにはわからない。


 ただ最善の行動をしたと、彼は本気で思っていた。

 久々の術に手応えもある。


 (本来の用途ではないが上手く応用ができた。)


 むしろかなり調子が良かった。

 ラガルが空を眺めていると、一匹の蝶がやってくる。


 彼は無意識のうちに手を差し伸べていた。


 (この虫は……平気だ。)


 そのまま離れた蝶を追ってふらふらと歩いていく。

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