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銀の大地-死者に会える鏡を求めて-  作者: すけろくこぞう
開幕:欠落に触れる調律
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在るべき形

 魂が欠けている、そう言われてもラガルは平然としていた。それどころか、それが当たり前と言わんばかりの態度だ。


「知っている。」


 彼は短く答えると、また首を傾げた。

 まるでそれの何が問題かという表情。


 ラガルは淡々と語る。

 それは説明というより、事実の確認だった。


「血は巡り、魔は血に宿る。

 その流れが心の臓を形づくる――それが魂だ。


 魂は、頭と心の二つに宿る。

 だが俺は――生まれつき、その血が欠けている」

 

 ラガルはそう言って掌に乗った氷をアルラに差し出す。

 安定してるように見えたそれは、アルラが視線を送った瞬間に内側から揺らいで弾けた。


「我の魔もまた、不安定だ。」


 氷の雫が光を反射しながら落ちていく。

 仲間たちの困惑の顔が映り込んだ。

 しかし、ラガルは動じない。


「……対価の話をしていたな。

 差し出すに値するものだった。」


 ラガルは瞬きを一切せずにリィマを見つめる。

 そして腕を伸ばすと、だらりと指をさした。


 それは治療の提案ではない。

 修復でも、救済でもなかった。


「望むなら、魂を縫い付けよう。

 血を差し出せ」


 彼の瞳が影を孕む。

 光のない瞳に、暗い灯りが宿ったようにシーナは思った。


「そんなことできるのですか……?」


「できる、ただし苦痛が伴う。

 死ぬかもしれぬ。

 成功しても寿命は縮む。」


 アルラにラガルが答える。

 

 ヒヤリと空気が冷えるのをメフェルは感じた。

 彼はきっと良からぬことをしようとしている。

 けれど、ラガルの持つ異様な気配の前に彼女は何も言えなかった。


「どのくらい、縮むの?」


 リィマが恐る恐る尋ねる。

 ラガルは目を細めた。

 蛇のような瞳孔が更に縮む。


「知らぬ。」


 リィマは震えた。

 長年待ち侘びた希望のような提案だったはずなのに、それが今は恐ろしい。

 けれど、これを逃せば次の機会など来ないであろうこともわかっていた。


「ちょっと待てよ、そんな術……なぜお前が使える。」


 イーヴァが二人の間に入る。

 ラガルはゆっくりと瞬きをした。

 彼の静かな息の音が地を這うように聞こえる。


「生まれたときからそう在れとされたからだ。

 ……してネスフィリ、お前は“血の蠱毒”……この術を望むか?」


 アルラはリィマを見る。

 彼女の為を思うなら、試せる術は全て試したい。

 しかし、この提案が良いものだとは思えなかった。


「リィマ……。」


 アルラの腕が、リィマを止めようと伸ばされる。

 しかし、もう決意は固まっていた。


「わかった。その術、私に試してみて。」


 リィマはキッとラガルを見つめ返す。

 彼は薄く笑みを浮かべると、リィマを手招く。


 サチグモは慌ててリィマを止めた。


「ま、待て軽率すぎるのだ。」


 ミムラスも声をあげる。


「寿命をわざわざ減らすことないじゃない。」


 リィマは首を横に振る。

 それを見たミムラスは露骨に眉を顰めた。

 彼女にはそこまでして術を受ける意味がわからなかった。


 シーナはラガルを説得する。


「変える必要ないじゃないですか。

 リィマさんに必要なのはそんな術じゃないはずです。」


 ラガルは目だけをシーナの方へ動かした。

 その瞳は澄んでいるのに、どこまでも黒く見える。


 彼は目線を戻すとシーナの言葉を無視した。

 それは死というものを畏れていないものの表情に見える。


「魂は在るべき形というものがある。

 望むので在れば正す。それだけのこと。」


 そこには善悪の判断がなかった。

 それが誰かを救うか、壊すかは――彼の関心の外だ。


 誰かの許しを乞う声音ではない。

 命を預かる者のそれでもない。

 ただ、そう在るものの言葉。

 

 側に来たリィマをラガルは座らせる。

 そしてナイフを手に取ると、リィマの手首を浅く切った。

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