半分
ラガルは瞳を伏せる。
アルラの指から逃れるように体を動かす。
「……我は乱れておらぬ。」
「彼はそう言ってますが?」
アルラはメフェルを見る、彼女は首を横に振った。
「ダメ、彼は何十年も魔封じの首輪をつけていたの。
肉体が限界にきてるはずよ。」
「魔族ですか?」
アルラが目を見開く、そしてラガルに手を伸ばすと、彼が避けるより速く額に触れた。
そして目を閉じて、何かを感じ入る動作をする。
「これは……すぐにでも調律が必要だ。
対価はあとでいい。そこに寝なさい。」
アルラは、指を引かなかった。
――乱れていない。
だが、耐え続けている。
ラガルは少し止まった。
だが言われるがままに寝台に横になる。
「そんなに酷かったんですかラガルさん。」
シーナが眉を下げた。
そこへリィマが茶を持ってやって来て、一同へと配る。
「どう?サッチ。」
「あまり良くなさそうではあるな。」
「そっかぁ、でも私ほどじゃないでしょ。」
リィマはお茶を飲むと、グッと背伸びをする。
彼女もまた調律が必要な患者のようだ。
イーヴァが視線をリィマにやる。
はつらつとした表情に問題があるようにはとても見えなかった。
「元気そうに見えるけど。」
ミムラスがつい口にする。
一瞬、リィマは驚いたような顔をして、すぐに笑顔に戻った。
「そう?じゃあ良かった〜。
私、魂が肉体から剥がれやすいの。」
「魂が?」
メフェルが聞き返す。
コクリとリィマは頷いた。
話を聞いていたアルラが割って入る。
「私の調律は魔の流れを診て、肉体の和を整えるだけのもの。魂を見ることはできても干渉はできません。」
アルラはラガルの頭に手を添える。
こめかみから顎に沿うようにして手を動かした。
ラガルは内側の魔がゆっくりと動いていくのを感じる。
それまで流れがバラバラだったものが、一本に収束していく感覚があった。
「ぁ……。」
吐息が漏れる。
力の張っていた肩から余計なものが取り除かれるようだ。
「寝てもいいですよ。だいぶ時間がかかりますので。」
その言葉を聞いた途端、ラガルは眠くなる。
次第に目を開けるのが難しくなっていき、眠りに落ちた。
*
「魔獣だ!」
誰かが叫んだ。
ざわざわと里が騒がしい。
声でラガルの目は覚める。
起きあがろうとしてアルラに止められた。
「よくある事です。大丈夫。」
一同は警戒しながら外の様子に耳を澄ませた。
リィマが窓から外を眺める。
幸いすぐに魔獣は討たれたようで、被害は最小だった。
風の止んだ里をリィマは見つめながら言う。
「……また、私のせいだ。」
その横顔をサチグモは見つめて、声をかけようか迷う。
けれども、開きかけた口は閉じられて沈黙が場を包んだ。
「私が里の調律を乱しちゃうから。」
泣きそうな声でリィマが言う。
「里の調律?」
ミムラスが声を出す。
全員がミムラスの方を見た。
サチグモは言葉を探すように話し始めた。
だがその目はリィマの方を向いて、小さな声量だ。
「魔は魔を呼ぶ。
だからこの里は、魔を揃えて生きてるのだ。
だが、リィマはそれができない。」
サチグモは悲しそうな目をしていた。
シーナは思う。
一人だけ異質というのはどんなに辛いものなのか。
幼い頃の自分を思い出して、彼は胸が締め付けられた。
「私の魂が不安定だから。」
リィマは胸を抱えて蹲る。
アルラは何も言わなかった。
けれどその白い手が一瞬震えるのをラガルは見逃さない。
「さぁ、終わりましたよ。」
ラガルにアルラは言う。
処置が終わってラガルは気づく、体が軽いことに。
腕を回すと手のひらに氷を作る。
その魔力の通りはいつもよりも良かった。
「……俺は多少乱れていた。」
ラガルが呟く。
その言葉にアルラは笑った。
けど、その笑みはすぐに消える。
そして言いにくそうに何かを口籠った。
ラガルが首を傾げる。
アルラはリィマを見つめるとラガルに視線を戻す。
そして言った。
「あなたは魂が半分欠けています。」




