対価の意思
「あなたたちですね。例の余所者というのは。」
声に振り返るとそこには、金の光を纏う美しい人がいた。
流れる淡い金の髪、長い睫毛に縁取られた青い瞳。
傷ひとつない白い陶器の肌。
そこに輝くのは、彼らが神に愛されたと信じる、一つの額の石。
あまりの美しさにシーナは息が止まる。
高名な画家の絵画から出てきた神話の存在のようにも思えた。
「調律師様!」
サチグモが声をあげる。
調律師と呼ばれたネスフィリは、サチグモを見ると眉を僅かに上げた。
「サチグモ、今回は罰をつけますよ。六つ月が巡るまで里を追い出します。」
「う、覚悟はしてたのだ。わ、わかったのだ。」
彼はガックリと肩を落とした。
すると調律師の後ろから一人の人物がやってきて、口を挟む。
「待って。六ヶ月は可哀想だよ。三ヶ月にしようよ。」
その声は軽やかだった。
ショートヘアの少女のようにも見える、第一層のネスフィリだ。
だがその背には羽が無く、他の個体よりも小さい。
「サチグモはまだ五十歳だよ、大目に見ようよ。」
「リィマ、あなたはまた。甘いんですよ、彼に。」
「だって、こんなに小っちゃいんだよ?」
ヒョイとリィマはサチグモを持ち上げると抱きしめる。
「や、やめるのだ!もう大人なのだ!」
「うーん、今日も葉っぱの香りがする。サッチ、あんまりお痛はダメだよ。」
抵抗するサチグモを他所にリィマは頬を寄せる。
なんだか微笑ましい光景に、少し場が和んだ。
「そうだ、君らが調律受けたいって子だよね?
私はリィマ・ヤルマ。
こっちがアルラヌリィ・ワール。
ねえ、いいでしょ。アルラ、わざわざ里に来てくれたんだよ!」
キラキラと緑の瞳を輝かせてリィマは調律師アルラヌリィに話しかける。
アルラヌリィ――アルラは彼女の笑顔を見ると困った顔をした。
「リィマ、私はあなたの調律をしなければ。」
「えー?私はいつでもできるよ?
この子たち困ってるんだよ?」
リィマはそう言ってメフェルのそばに立つ。
メフェルはリィマというネスフィリが心優しいことがすぐにわかった。
その太陽のような笑みは人を惹きつけるものだと感じる。
ミムラスも先程まではメフェルの影に隠れていたが、気を許したのか今は体を出して様子を伺っていた。
「全く……わかりました。あなたたちついて来なさい。」
アルラはそう言うと、一同を家に連れていく。
苔の絨毯が敷かれた柔らかい部屋は、木の温もりが感じられた。
「調律とは、和を正す行為。
必要ということは事情があるのでしょう。
それで、誰が調律を受けるのです?
調律をすることで私に益はあるのですか?」
部屋の中で椅子に座ったアルラが、一同に尋ねる。
「彼よ、お金なら出せるわ。」
「金銭に興味はありません。」
メフェルがラガルを前に出して、対価を提案する。
しかし断られるのはすぐであった。
「対価の内容ではなく、対価を支払う意思を示しなさい。
貴女ではなく、彼が。」
アルラはその細い指をラガルに向ける。
そしてラガルを指したまま、ほんの一瞬だけ言葉を失う。
一同の視線が指につられて彼を見た。




