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銀の大地-死者に会える鏡を求めて-  作者: すけろくこぞう
開幕:欠落に触れる調律
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止んでいる楽園

 門が開かれる。

 一同は門の前に並んでいた。


 ゆっくりと開かれた扉の先は、美しい光の楽園だった。

 第三層よりも色とりどりの光に満ち溢れた里は、長閑な時間が流れている。


 羽の生えた掌二つ分の生き物がふわふわと漂う。

 それはこちらを見ると警戒を露わにした。

 額には二つの石が輝いている。


「人間!なんで⁉︎」


 尖った耳を持ち上げて大きな瞳を釣り上げる。

 普通の黒目よりも大きい、その瞳は感情をよく映していた。


「サチグモが連れてきたのだ。調律師様に用があるのである。」


 ちょこちょことサチグモが前に出る。

 すると小さな生き物は呆れたようにため息をついた。

 妙に均質な声が耳に残る。


「またお前?どれだけ規則を破れば気が済むの?」

「調律師様を呼んで欲しいのだ。」


「知らないよ、自分で第一層(ワール)に行けば?」


 そして小さな彼女は悪態をついて飛び去っていく。

 初めて見る生き物にシーナは驚きを隠せなかった。


「今のは?」


 彼がサチグモに聞く、小人よりも小さな人種がいるとは聞いたことがない。


第二層(トゥル)のエルフなのだ。あまり数は多くないから珍しいであるな。」


 そう言ってサチグモは周囲を指す、確かに他にもふわふわと同じような生き物が飛んでいる。


(世の中って広いな。)


 シーナは改めてそう思う。


「人間は妖精って呼んでるぞ。」

「御伽話に出てくるわよね。」


 イーヴァとメフェルが後ろで話す。


 煌びやかな里であったが空気はどこか生温い。

 この大陸自体の気温ではあったが、それとは別に空気が淀んでいる。


 そのことに最初に気づいたのは、シーナだった。


「……止んでいる。」


 ラガルも気づいたのだろう。

 彼は静かにそう呟いた。

 

 サチグモは辺りを観察する一同を連れて、第二層にある坂を登っていく。


 坂は中心部に近く、上がれば上がるほど生命の樹に近づいていった。


「すごい……綺麗。」


 ミムラスが感嘆の声を漏らす。


 七色の色彩を放つ生命の樹。

 その赤く巨大な果実は、蔦が何本も繋がれており、赤く薄い膜で覆われている。


 ふとミムラスが顔を上げると、中に人影が見えた。


 表皮には薄く銀の刻印がされており二十一(トゥワルマ)と書かれている。


「ここからネスフィリは生まれるのだ。

 少し見ていくか?」


 サチグモが問う。

 

 気づけば誰も近づいていない果実まで、小さく揺れていた。

 

 シーナが一番近くの果実に腕を伸ばす。

 手を合わせれば脈動が伝わる。

 ざらついた表皮の温もりは生きてるようで、嫌に気持ち悪い。


 人より一度低いその温度に彼は顔を顰める。


 ラガルはその様子を見て口には出さなかったが思う。

 (ここは配列がズレている。)


 辺りに落ちた大小様々な実の殻は、内側から赤い汁が溢れていた。


 ミムラスもシーナもはしゃいでいたが、イーヴァだけはなんとも言えない顔をして顔を背ける。

 サチグモはその様子を不思議そうに見ていた。


「……長居していい場所じゃねぇよ。」


 イーヴァが呟く、同意するようにメフェルが口を開いた。

 

「観光はまた後にしましょう。先にラガルよ。」


 急かすようにそう言う。

 その言葉に二人はハッと我に返った。


「調律師はどこ?」


 メフェルがサチグモに言う。

 彼はキョロキョロと周囲を見渡す。


「普段はこの第一層(ワール)にいるであるが、どこにいったのだ?」


 そうしてサチグモが歩き回っていると、次第に人が集まってくる。

 第一層(ワール)のエルフは人間と同じ大きさだった。


 違うのは皆、恐ろしいまでに整った容姿と長い耳、それから背中に生えた大きな蝶の羽だ。

 

 一同が、戸惑っていると背後から声がかかる。

 一瞬にして場が静まり返る。

 果実の揺れさえ、全て止まった。

 

 それは鈴のような声だった。

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