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エピローグ:余白の王(上)


 はっはっはっはっ――。


 そんな息遣いが巨木の森を駆け抜ける。

 ノフサルの猟犬、ティダウは“王と呼ばれるはずだった男”を探して小人族の里を駆け巡っていた。


 しかし匂いは連日の雨に消えて、捜索は困難を極める。

 一度彼は、橙に染まる空を見上げると遠吠えをして森の外に戻った。


 *


 本陣は小人族の森の外に置かれていた。

 そこにはティーソエルとその兄、そして数名の部下の姿がある。


 焚き火を囲み、捜索隊の帰りを待っていた。


「お兄様、見つかると思う?」

「見つける、必ずな。」


 ティーソエルが切り株に座りながら、足をバタつかせれば、影も同じように動く。


 そのとき茂みが動いて、緑の影からティダウが現れた。


「馬鹿犬戻ってきた!お兄様!」


 ティーソエルがそれを見て声をあげる。

 玩具を見つけた子どものようにティダウに寄るが、彼はうざったそうに躱す。


 そして黒い影が蠢いたかと思うとティダウの姿は狼から紫の髪をした一人の青年の姿へと戻った。


「いなかった。」


 不貞腐れたように彼は“お兄様”に報告する。

 続いて同じ茂みから、薄紫の髪をした女が現れた。


 その女は口が裂けており、糸で縫っている異様な見た目をしていた。


「ヨルも帰ってきたか。」


 “お兄様“は虹彩の違う左右の瞳を細める。


「はい、奴は見つかりませんでした。」


 ヨルは膝をついて言う。

 縫われた口元の奥で、かすかに息が漏れる。

 そして横にいたティダウを細目で見る。


「早く服を着たらどう?馬鹿。」


 ティダウはその言葉に自分の裸体を見下ろすと、そこらに置いてあった布を掴んで包まった。


「しゃーないだろ、そんな目で見るなよ。」


「喧嘩はやめろ、ティダウ、ヨル。」


 “お兄様“が二人の口論を止める。

 ティダウに服を手渡そうとするとギッと睨まれた。


「なんだその目は。」

「別に。」


 横を向き、不満げな表情を見せるティダウ。

 ティーソエルは彼の心を見透かしたように揶揄う。


「きっとお兄様の言うこと聞くのが嫌なんだよ。本当はあの人に仕えたいんだもんねぇ。」


 カラカラと笑う少女をティダウは睨みつけると、口を開いた。


「ああ、そうだ。お前なんか王じゃない。本物の王はあいつだ。」


 その言葉に空気がひりつく。

 特に“お兄様”の側にいた橙の髪の青年は毛を逆立てて今にも襲いかかりそうな雰囲気だった。


「やんのか?リダウ。」


 それを見たティダウは橙の青年、リダウを挑発する。

 彼は瞬間、炎を纏い。恐ろしい形相でティダウに飛びかかろうとした。


「待て、リダウ。」


 “お兄様“の静止が掛かるとリダウはその動きを止める。

 そして‘お兄様“はティダウの瞳を見つめると、紫の片目に黄色い光を宿して言った。

 

「私は“予言の年”に胎に宿った。奴は“予言の年”に生まれた。……この違いが、わかるな?」


 夜風が静かに”お兄様“の髪を揺らす。

 それが揺らめく炎のように見えて、思わずティダウは息を呑んだ。


「……受胎の刻こそ、魂が選ばれる瞬間……。

 貴方様こそが黒王エンルフの――。」


 リダウが膝を折り、”お兄様“を見上げる。

 月光に輝く彼は美しい。


「言わせるな。」


 “お兄様“は冷たく遮った。

 その手には赤く輝く“血の宝珠”が握られている。


「私は“王になるために”生まれた。

 奴はただ、天が忘れた“余白”だ。」


 

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