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一個だけの価値

「無料は一人一個まで!」


 ミムラスは路上に露店を構えると旅の中で買ったラガルとメフェルのガラクタを捌き始める。


「ねえ、本当にこれ売るの?」


「物が片付かないでしょ!売るの!」


 ミムラスがメフェルに噛み付く。

 イーヴァは商品を手に取るとまじまじと眺めた。


「なんだこれ、何に使うんだ。」

「綺麗ですけど……。」


 シーナが横から覗き込む。

 ガラスでできた小さな板や、ラガルの作った彫刻が並べられていた。


「はぁ、私の収集物が……。」

「メフェルもラガルも溜め込みすぎ!」


 ミムラスはメフェルを叱ると、大声で呼び込みを始める。その声はよく通り、道行く小人たちの視線を集めた。


「あっちの店は全部タダにしてくれたのに。」

「ケチくさぁい。」


 その声に混じって、別の声が割り込んだ。


「待ちなよ、ミムラス。」


 露店の向かいから腕組みをした小人が二人、ずかずかと歩み出てきた。

 腰には工具、背中には売り物の袋。いかにも商人という格好だ。


「無料祭りの日に数を決めるなんて聞いてないね。」

「他が全部タダなのに、ここだけ一個?客が逃げちゃう。」


 周囲の小人たちがざわつく。


「そうそう。」

「ズルいぞ。」


 ミムラスは一瞬だけ息を吸い、それから相手をまっすぐに見た。


「逃げるなら、逃げればいいよ。」


 ざわめきが止まる。


「タダで持ってって、ゴミみたいに扱われるなら売らない。」


 キッパリと彼女は言った。

 その言葉に商人の小人が揺らぐ。

 

「欲しいやつが、一つ選んで持ってく。それで十分。」


 小人は眉をひそめる。


「それじゃ、得をするのは誰だい。」

「誰も――。」


「違う。」


 ミムラスは即座に言い切った。


「“選ばれた物”が得をするの。」


 すると周囲にいた小人の中から、先ほどラガルにぬいぐるみを売りつけた小人が出てきた。

 露店の商品をよく見ると、木彫りの人形を一つ手に取る。


「僕、これが欲しい!」


 それはラガルの作った物だった。

 ラガルは少しだけ胸が熱くなる。

 その理由を言葉にできなかったが、それは外の言葉で“嬉しい“という感情だった。


「作った人に悪いから、お金ここに置いてくね。」


 チャリンと小さな音を立てて銅貨が置かれていく。

 軽い足取りで小人は人混みに消えて行ったが、彼の残したものは大きかった。


 それを見ていた小人たちがポツリ、ポツリと露店に並び始める。


 そして同じようにお金を少しずつ落としていった。


 周りの店もミムラスのやり方を見て、無料に制限をかけていく。そしてしばらくするといつもの等価交換の市場に戻っていった。


「はい、完売。」


 ミムラスは露店を畳む。

 小銭を入れていた皿には客がつけた価値の数が詰まっていた。


「赤字だけどいいでしょ。どんなもんよ、アタシの腕は。」


 ミムラスが小さな腕を叩いてみせる。

 気がつくとアマニの姿がそこにあった。


「凄いよミィちゃん。この騒ぎ収めちゃうなんて。」


 ミムラスはポリポリと頭を掻く。


「流石、大商人だね!」


 少し興奮した様子のアマニにミムラスは今度こそ、真実を言おうと口を開けたが、アマニの小さな指が彼女の唇を抑えた。


「いいよ、ミィちゃん。本当はわかってるよ。でもミィちゃんは間違いなく商人だよ。」


 アマニはふふふと笑うと、一同を見た。

 そして覚悟を決めたように口を開く。


「ミィちゃんをよろしくお願いします。お転婆でお喋りでドジなとこもあるけど、彼女はきっと大商人になりますから。」


 その言葉にミムラスは笑顔を見せると、アマニに再び約束をした。


「必ず大商人になって戻ってくるから、そ、そのときは。」


 アマニの耳にミムラスが口を寄せる。

 瞬間、彼の顔がボッと赤くなった。


 その光景にイーヴァとシーナは首を傾げたが、メフェルだけは何かを察したようにニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。


「そ、それじゃあアタシたちもう行くね!」


 そそくさとミムラスは先を行く。

 それに続いてメフェルたちも里を後にしたのだった。


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