チャプター0【ただの昔話】
ここで、ひとつ昔話をしよう。
ずいぶんと古い話だ。今となっちゃ、誰が覚えているかも怪しい。
……けどな、風の噂ってやつは、意外としぶとく残るもんでな。
昔々、とある街があった。
灰色の石を積み重ねた、寂れた街だ。
空を見上げりゃ常に曇天、笑う奴も少ねぇ、
だが……その街は、ある存在に守られていた。
そいつは、白い鱗を纏い、
折れぬ翼と鋭い爪を持っていた。
だが、人の姿をしていた。
いや、どちらかと言えば“人に近かった”と言うべきか……。
なにせ、竜と人間のあいだに生まれた、
この世の理からはみ出した“禁忌の子”だったんだ。
忌まれていたさ。
「混ざりもの」だの、「化け物」だの、
誰もそいつの名前を呼ばなかった。
それでも、そいつは街を守った。
憎まれても、石を投げられても、
千年にわたり、空の上から見守り続けていた。
どうしてかって?
――ひとりの人間を、愛していたからだよ。
そいつにとって、唯一、自分を“人として”扱ってくれた存在。
たった一人の“味方”だった。
……だがな、皮肉な話だ。
その竜族与え、一人の人間が遺した“加護の槍”で、
そいつは右目を貫かれた。
信じた人に与えた力で、信じた人に傷つけられたんだ。
しかもその槍は、そいつの鱗で鍛えた剣に生まれ変わり、
今も街の兵士たちが“竜殺し”として振るっている。
おかしいだろ?
“守るための力”が、“殺すための刃”になってんだ。
それでも、そいつは笑ったらしい。
「いいさ、俺が傷ついて済むなら」ってな。
「俺はあいつが愛した街を、最後まで守りてぇんだ」って。
……それを聞いた奴は皆、口を噤んだそうだ。
誰も何も言えなかった。
何故って?
その白い守護者は、もう街の誰よりも“人”だったからだ。
――おっと、長くなっちまったな。
これはただの昔話さ。
風の中に流れて、今じゃもう誰も真偽を確かめようともしねぇ。
けどな。
今もその街には、雨の日も風の日も、
白い影が空を巡ってるって話だ。
その目はひとつしか見えねぇが、
遠くまで、ずっと街を見守ってるらしい。
……なあ。
もしも、お前が空を見上げていて、
その白い影と目が合ったとしたら――
もしかしたら、そいつは――
いや、やめておこうか。
これはただの、昔話だ。
……そういうことにしておこう。
初めての投稿でまずはこんな感じでかいてみました。
今のところ6話ぐらいまで考えてあるので構成が終わり次第週1~週2ぐらいのペースでかいて行こうと思います。よろしくお願いします。