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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第八章 地湧降誕、魔王エムロデイの巻

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第83話 サプライズ・エンカウンター

【前回のあらすじ】

(こと)()「魔王との決戦当日、連絡役のシアティが突然音信不通になった」

 シアティが何者かに襲われた。(こと)()は取るものも取りあえず廊下へ飛び出す。


(まい)()先輩! 聞こえてたと思いますが、シアティが……」

「助けに行くんだよね? 私なら心配要らないから」


 玄関まで追いかけてきた(まい)()の曇りない眼差しから、通じ合う心がありありと感じられた。

 二人はもう昨日までの二人ではない。


「そろそろ母さんも帰って来るはずなんで! 切り札を……頼みます!」

「うん。いってらっしゃい」


 どちらからともなく口づけを交わす。固く結ばれた二人の絆の前に、それ以上の言葉は要らなかった。




 (こと)()は現場へと向かいながら、他のメンバーに今の状況をメッセージで送る。戦闘に混乱が生じないよう、作戦中の通話はシアティからの接続に限定されていたためだ。


(誰か気づいてくれりゃいいが……どっちにしても今動けるのはオレしかいねぇ)


 魔王降臨の刻限は迫りつつある。バスを待っている余裕はない。(こと)()はシアティの隠れ家を目指してひた走った。折しも冬の朝方、市街地を離れればすれ違う人は皆無だ。


 途中でガードレールを跳び越え、野原を突っ切っていく。直線距離を急行すれば、シアティの隠れ家まで五分とかからないはずだ。


 だが、走り出して間もなく、(こと)()は不意に違和感を覚えた。

 体の表面から虹色のオーラが立ち昇っている。


(何だ? 身体が勝手に……――!?)


 (こと)()は気づいた。これは防衛本能だ。

 とてつもなく危険な何者かが、すでにこの近くにいる――!



『存外早く勘付いたな――(めい)治家(じや)(こと)()



 声ならぬ声が、(こと)()の頭上から雷鳴のように降り注いだ。


(しまった……認識阻害か!)


 (こと)()は五感を総動員し、敵の姿と位置を探し当て、文字どおり「仰天」する。


 山と()(まが)うばかりの巨体が、夜闇よりも黒い鱗を(まと)い、鋭い三本の角を頂き、両の翼を広げてそびえ立っていた。後ろ脚で直立した高さは、目測でも十メートルは下らない。


「お前が……魔王か……!」


『左様。余は魔王エムロデイ。貴様という後患の根を絶ち、地球を統べる者』


 その威容は(あおぐら)(ドラゴン)。邪悪と暴虐、恐怖の象徴たる超自然の怪物。


(ガチでモノホンのドラゴンとご対面かよ……こんな状況じゃなきゃ素直に喜べたんだけどな)


 シアティの安否は気がかりだが、この怪物を退(しりぞ)けずしてやり過ごすのはまず不可能だろう。


(ここは腹を(くく)るしか――……っ!?)


 暴風の先触れが(こと)()の髪をなびかせた。動かなければ死ぬ。確信めいた直感が、考えるよりも前に手足を働かせる。


 その場を跳び退いた直後、轟音と爆風が辺りを揺るがせた。


 巨大な腕の一振りは、一瞬前まで(こと)()が立っていた地面を大きく、深々と(えぐ)り取っていた――否、消し飛ばしていた。


(何……なんだよ……これは……)


 これまでの悪魔とは次元が違う。理解を拒む頭を置き去りに、(こと)()は素早く身を起こし体勢を整えていた。飛び散った()(れき)をいくらか被ってしまっていたが、今も命があることに比べれば些事(さじ)に過ぎない。


 その間も魔王は威風堂々と(こと)()()(かん)していた。


(かわ)すとは天晴(あっぱれ)。褒美として貴様にも一撃だけ許すとしよう』


 魔王は静かに両腕を下ろし、体の前面をさらけ出す。竜の表情など(こと)()には読めないが、こちらをナメているのは明らかにわかる。


『どうした? 余は避けも防ぎもせぬぞ』


 これは千載一遇のチャンスだ。恥もプライドも捨ててしまえと、(こと)()は自分に言い聞かせた。今を逃せば、勝機は完全に失われてしまいかねないのだから。


(〈オルタード・テンション〉シングル起動……九倍、十一倍、十三倍――)


 ただ一心に、身を覆うオーロラの炎を燃やす。


(デュアル起動……二十倍、二十二倍、二十四倍――)


 もっともっと、強く熱く。


(トリプル起動……三十三倍、全力全開(フルテン)だ――!)


 魂の爆発。(こと)()は神速の弾丸となって飛翔する。全身全霊を懸けた拳が魔王の胴体を激しく打ちつけた。


 魔竜の巨躯は微動だにせず――鱗の一枚がわずかにひしゃげたのを除いて。


『ふむ……これは余の予想を上回る威力だ。やはり脅威の芽はこの場で摘んでおくに限る』


(冗談……キツいぜ……)


 (こと)()はやっとの思いで着地はしたものの、再び立ち上がる気力が湧いてこない。


『悪く思うでないぞ。貴様は暴れすぎたのだ。余が自ら手を下さねばならぬ程にな』


 魔竜の爪が、殺気が、今にも(こと)()を刺し貫こうとしていた。

 絶体絶命とはこのこと。だが、ここで諦めてしまったら、魔王は(こと)()の恋人を、親を、友を、仲間たちを生かしてはおかないだろう。


(……まだだ。まだ手はある)


 錬金術師である母・(かず)()の話を思い出す。

 ホムンクルスの生命の源となっているのは、『天球音楽』の術式で構成された霊的な(コア)だ。

 その名を『アルマゲスト』、別名・賢者の石という。



――わたしの見立てでは(こと)()、あなたは悪魔たちとの戦いを通して『アルマゲスト』の力を引き出し、もう充分使いこなしてるわ。わたしからのアドバイスよりも、自分の経験と感覚を信じなさい――



(そのとおりかもしれねぇ。自分の身体のことはオレが一番よく知ってる。例えば――)


 『アルマゲスト』をわざと暴走させ、起爆すればどうなるか。


(オレの命一つで(まい)()先輩が……みんなが助かるなら――)


 (こと)()が決意とともに見上げた空を、




「――聖剣技〈()(ゼッ)()〉」




 緋色の光焔が一閃し、両断された竜の巨腕が大地に落下した。


『グァアア……ッ……な、何奴……ッ!』


 奇襲を受けた魔王が色を失い、たたらを踏んで後ずさる。


「ったく、どいつもこいつも勝手に持ち場を離れんじゃねっつーの」


 赤いロングコートを着た女が、いつの間にか(こと)()に背を向けて立っていた。

 ダークブラウンの髪を後ろに束ね、手には(こと)()が見覚えのある剣を(たずさえ)えて。


(あれは……聖剣ブルクミュール……!)


「無事みてーだな、(こと)()。会えて嬉しいぜ」


 女に名を呼ばれて、(こと)()は二度驚く。


「だ……誰だ!? あんた」

「『あんた』とは水臭いじゃねーか。俺は伊瀬(いせ)(がい)(ゆう)()。お前の母ちゃんだ」


 覆面を取った女の顔立ちは、まるで(こと)()の生き写しであった。




(次章につづく)

(ゆう)() イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093076237905844

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