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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第八章 地湧降誕、魔王エムロデイの巻

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第81話 理論上可能=現実にも可能ッ!!

【前回のあらすじ】

()(なつ)「アタシの一世一代の告白。ぴあ()さんには伝わっただろうか……?」

 粉雪の舞う公園の真ん中で、ぴあ()はこちらを見つめたまま固まっていた。

 ひょっとすると、意味が伝わっていないのかもしれない。()(なつ)はもう一度念を押す。


「アタシはぴあ()さんが好きです。恋人に……なりたいんです」

「ええ。よろしくお願いいたしますわ、()(なつ)さん」


 まるでこうなることを知っていたかのように、ぴあ()は自然な笑顔を浮かべていた。


 告白を受け入れてもらえた。下の名前で呼んでもらえた。二重の喜びが()(なつ)の胸へと到来する。

 ついでに、招かれざる客人までもが飛来する。



「ちょぉーっと待ったぁ――――っ!!」



 レインボーカラーの髪を振り乱した(ちん)(にゅう)(しゃ)――伊香(いか)(がわ)(しい)()は、悪鬼さながらの形相でぴあ()に襲いかかろうとしていた。


(――しまった!)


 完全に油断しきっていた。我に返った()(なつ)は、飛び込んできた(しい)()の勢いを削ぎつつ後方へ放り投げた。

 たった一瞬の接触。しかし、(しい)()(まと)っていた凍気は()(なつ)の全身へと染み渡る。


(くっ……! こんなときに限って……)


 (こと)()との予行演習が頭をよぎるも、今日の()(なつ)は腹巻きどころか毛糸のパンツすら身に着けていない。

 何故ならば――ぴあ()とのデート気分に浮かれて、泊まる予定もないのにパープルでシルク製の勝負パンツとか穿いてきてしまったから!


()(なっ)ちゃんの浮気者ぉーっ! アタイの心をもてあそびやがってぇーっ!」


 早くも(しい)()は地面から身を起こし、こちらへ大股で歩み寄ってくる。

 ()(なつ)よりも先に動いたのは、たった今できた彼女であった。


「相変わらず支離滅裂でらっしゃいますわね!」


 ぴあ()は魔剣が収納された楽器ケースに手を掛ける。修学旅行での一部始終は聞いているし、あるいはこのまま彼女に(しい)()の相手を任せてしまったほうが合理的なのだろう。


 だが、()(なつ)にも譲れない意地がある。


「ぴあ()さん、ここはアタシがケリをつけます」


 進み出る足が重い。気合いとは裏腹に、凍てついた身体は思うように動いてくれない。

 その時だった。


()(なつ)さん、スカーフが曲がっていましてよ」

「あっ、はい――…………っ!?」


 思わず身を(かが)ませた()(なつ)の頬に柔らかな唇が触れた。はっとしてそちらを向くと、はにかみと得意顔の混じり合ったような、ぴあ()の上目遣いがあった。


「オァああぁ――ッ!! 何してくれてんだぁーこのあゔぁどぅれがぁーっ!!」


 向こうで(しい)()がわめき散らしていたが、今の()(なつ)にはどうでもよかった。


(せっ……接吻……されてしまった…………!!)


 体温が急激に上昇する。冷え切った身体が熱く火照(ほて)りだしていた。駆け巡る熱気が全身の神経系を(つな)いでネットワークを構築し始めているのがわかる。


()(なつ)さん、あなたなら絶対に勝てますわ」

「はいっ! ぴあ()さんのために、絶対に勝ちます!!」


 恋人の後押しで()(なつ)は無敵の自信を手に入れていた。


()(なっ)ちゃんはアタイのものなのにぃ……こんなのあり得ないぃいいーっ!!」


 半狂乱となった(しい)()が魔力を暴走させた。渦巻く凍気は、獲物へと牙を剥く猛獣の唸り声のように、轟々と音を響かせる。

 されども、今や恐るるに足らず。


「いいだろう。全力で来いッ! 伊香(いか)(がわ)(しい)()ぁっ!」

「絶対あり得ぇんんん……っ!! 〈絶対亜零淵ヘル・フリーゼズ・オーバー〉ーっ!!」


 (しい)()の放った氷雪の嵐が()(なつ)を呑み込んだ刹那。


綾重(あやしげ)()(なつ)流――〈(かぜ)()(なぎ)〉!)


 ()(なつ)はつま先から指先まで、全身をひねって嵐そのものを空高くへと巻き上げる。()くして、凍気の渦は瞬く間に吹き上がり霧散していった。


「どうした? もう打ち止めか?」

「い……っ!? 一体何をしたぁーっ!?」


 狼狽を隠そうともしない(しい)()に、()(なつ)は技の仕組みを説いてやる。


「アタシは寒さ冷たさという感覚に惑わされてすぎていた……だが、今日になって悟った。オマエの操る凍気の本質は魔力。魔力も力には変わりないのだから、柔術の理合で受け流すことも理論上可能ッ!」

「そんなわけあるかぁーっ! ナチュラルに人間やめてんじゃねーよぉーっ!!」


 蛾の火に(おもむ)くが(ごと)し。無謀な突進を仕掛けてきた(しい)()のナイフを、()(なつ)はドラムスティックで易々と叩き落とす。そしてすかさず地面に投げ倒した。


「ぐへぇ……っ!」

「オマエの負けだ――!」


 ()(なつ)は振り下ろした拳を(しい)()の顔面に叩き込む――寸前で止めた。


「……!? ……どうして……とどめを刺さない……?」

「言ったはずだ、勝敗は決したと。今後オマエは何度挑もうともアタシには勝てないだろう」


 ()(なつ)は拾い上げたスティックを懐に仕舞うと、ぴあ()の待つ方へ(きびす)を返す。

 背中越しに(しい)()のすすり泣く声が聞こえていた。


「プライドも人の心もかなぐり捨てて、みっともなく食らいついて……ここまでやっても()(なっ)ちゃんにとってアタイは取るに足らない存在でしかなかったの……?」

「何を言っている」


 振り返った()(なつ)は頬の傷跡を指差し、(しい)()に言ってやった。


「オマエはとっくにアタシの人生の一部だ」


 傷を負ってこそ手に入れられるもの、わかることもあるのだと。


「…………ははっ。……そっかぁ……――」


 (しい)()の涙声は、降り続く雪の中へと溶けていった。



  *



 期末テストが終わると、冬休みまでの時間はあっという間に過ぎていく。

 二年生の進路指導では、(こと)()は地元の大学へ進学を希望した。ぴあ()不哀斗(ふぁいと)もそれぞれ別の大学へ進学予定だ。


 一方で、卒業見込みの三年生たちはというと――


「まさかレもんとネル部長……元部長が同じ専門学校行くなんてなぁ」

「専攻は別だけどね。レもんちゃんは音楽ビジネスの方だから」


 (こと)()(まい)()はおしゃべりをしながら家路をたどっていた。


「そッスね。てっきり(まい)()先輩もそっちに進むものとばかり思ってたんスけど」

「進学は学費がかさむでしょ。私もう三留もしてるし、これ以上親に迷惑かけられないから。高校卒業したらバイトでも何でも働かなくちゃ!」


 (まい)()がいつになく殊勝なことを言っている。(こと)()は驚きと同時に猛烈な感動を覚えた。


(つい半年前までギターが上手いだけのダメ人間だった(まい)()先輩が……こんなにも立派に成長している……っ!)


「えっ? (こと)()ちゃん、何で泣いてるの!?」

「い、いえ……先輩の姿があまりにもまぶしくて……」


 感涙にむせぶ(こと)()を不思議そうに見つめていた(まい)()だったが、ふと真剣な眼差しに変わる。


「……(こと)()ちゃん。終業式の日、家に泊まりに行っていい?」


 二学期の最終日――それは魔王出現の前日、十二月二十四日にほかならなかった。

(しい)() イメージ画像2

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/822139842410069911

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