第78話 備えあれば、それはそれで別の憂いあり
【前回のあらすじ】
美少女戦隊ペンタ☆トニカ「金獅公ジュンセリッツ討ち取ったり!」
獅子の断末魔とともに、傷口からおびただしい光の奔流が噴き上がる。
「魔王……エムロデイ陛下……万歳……――!」
ジュンセリッツは天を仰ぎ、息絶えた。その亡骸もまた、霊質の渦となって辺りへと散ってゆく。
「手強い相手でしたわ」
ぴあ乃は唇を固く結び、魔剣を鞘に収めた。
それを見た舞魚も、射出済みの光弦を指先から霊体内へと引き戻す。
「終わったんだね」
『そやなぁ……――ん?』
ウケハリが何者かの気配を感知する。舞魚は思わず斜面の方を振り返るも、すでにその気配は彼方へと遠ざかった後だった。
『邪悪な感じはせえへんかったな。あのオバハンの気配ともちゃうし、ただの登山客かもしらんな』
「鱧肉先輩、どうかなさいましたの?」
声をかけてきたぴあ乃に、舞魚はひとまず確認する。
「マキナさん、なかなか出てこないね。シアティさんから連絡は来てない?」
「いえ、残念ながら。これだけの霊質をばら撒けば、すぐにでも誘われて来るものとばかり思っていましたのに」
ぴあ乃の言うとおり、これまでのマキナの行動を鑑みれば、霊質を大量回収できるチャンスを見逃すわけがないと思っていた。
しかし、それもマキナがまだ異世界へ帰っていなければという前提だ。
「本当に帰っちゃったのかなぁ」
「仕方ありません。当ては外れましたが、わたくしたち美少女戦隊の力が公爵級に通用するとわかっただけでも収穫ですわ。明治家さん、綾重さんにも胸を張って報告できます」
リーダーの言葉に、不哀斗とマヨミノ姉妹も同意を示す。
「これで、もしものときも本間さんを守れる自信がついたじぇ」
「ウチらも魔王に楯突く覚悟が固まったっしょ!」
「パルヴェーク様の無念、わずかでも晴らそうぞ……」
隊士たちの士気は高い。
少しでも琴緒たちの負担を軽くできれば、とだけ考えていた舞魚は気圧されぎみだった。
元より好戦的でない自覚はあるにせよ、みんなのように勇ましくはなれない申し訳のなさが募る。
(私にできること……私にしかできないこと、直接戦う以外にも何かあればいいのに)
『何や舞魚ちゃん、えらい悩んどるやないか』
内側から語りかけるウケハリに、舞魚は正直な気持ちを吐露する。
(もっと私なりに琴緒ちゃんやレもんちゃんの役に立てる方法、何かないかなって思ってて)
『奇遇やな。ウチも考えとったことがあってん。万が一の切り札っちゅうやつや』
切り札と聞いて初めは期待した舞魚だったが、具体的な内容を知らされると後込みしてしまう。
(でも、それじゃウケハリ様は……)
『相手は魔王や。悪魔の親玉やで。どんなエゲツナイ手ぇ使てくるかわからんさかいな。覚悟ができたら、またウチのこと呼んだってや』
ウケハリはそう言い残すと、再び意識の下へと沈んでいった。
ぴあ乃たちが勝利に沸く中――これは他の誰でもなく、自分が決断しなければいけないこと――舞魚は想いを胸に秘めたまま数日を過ごすことになるのだった。
*
同じ日の午前中、琴緒は椰夏と二人でレンタルスタジオに来ていた。
来月の部内ライブへ向けた曲選考のためであったが、今はまだ舞魚とぴあ乃の姿はない。
「午後まではアタシらだけで練習するつもりでいたんだが」
椰夏がドラムをセッティングする間、琴緒はメッセージアプリのトーク欄を確かめる。
「まぁ、ちょっと待ってろって。うちの同居人を呼んであるからよ」
十五分ほどして、おなじみの黒ギャルと眼鏡っ娘がスタジオにやって来た。
明治家家で居候している、怒狸闇レもんと苗蜜娜である。それぞれ菓子パンや飲み物の入ったコンビニ袋を手に提げている。
「もしかしなくても、あーしらパシられてないか?」
現れて早々、不満を覗かせるレもんだったが、
「でも、レもんちゃんと一緒にお買い物楽しかったアルよ」
「ミナたんがこう言ってるから、今回だけは許すけどな!」
ミナの発言が間を取りなしてくれた。とはいえ、琴緒にとってはレもんと普段どおりのやり取りではあるのだが。
「まーた見せつけやがって……。それよりせっかく来たんだしよ、お前らもメシの前に一曲演ってかねーか?」
「何? 二人とも楽器ができるのか?」
椰夏の疑問は即刻解消される。
レもんはハンドマイクを手に取り、ミナはギターを抱えて立ち位置についた。
「あーしはともかく、ミナたんなら結構弾けるよ」
「覚えてるのは数曲しかないアルけど……これとか」
ミナがイントロのギターフレーズを鳴らした瞬間、椰夏は色めき立つ。
「この曲は……!」
「ずっと前にレもんとカラオケで歌ったっけな。いっちょ合わせてみよーぜ」




