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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第七章 玉兎の拳、彷徨える公爵令嬢の巻

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番外編 デウス・エクス・マキナ(4)

 地球とは別の次元に属する異世界。


 若き日のマキナは教会の聖女として、聖剣ブルクミュールを守護する役目を負っていた。

 世界を我が物にせんとする魔王ハアモンを討ち取れるのは、聖剣を手にした勇者だけだと信じられていたから。


 そして、予言どおり勇者はやって来た――はるか地球から。


 聖女マキナは勇者を助け、支え、ともに魔王を討ち滅ぼした。

 戦いの後、マキナは勇者を地球へ帰すため、大規模な送還の術を執り行った。


 しかし、儀式は失敗に終わる。

 開かれた不完全な『扉』は、勇者ではなくマキナを呑み込み、次元の狭間へと送り込んだのだった。



  *



「あのとき私が助け出さなければ、今頃はどうなっていたか。わからない貴方ではないはずよ」


 カウンターの向こうから、赤髪の女バーテンダーがマキナをじっと見据えていた。

 正体不明の悪魔、仮の名を『真紅』。


「恩義は感じているさ。だからこそキミの依頼にも迷わず応じた。魔王エムロデイの侵略から地球を救う――それは勇者の故郷を守ることでもあるのだからね」


 マキナの言葉に嘘はない。何より、『真紅』から提示された報酬が重要だった。


「そうよ。貴方がエムロデイを倒してくれさえすれば、私はすぐにでも元の世界へ(つな)がる『鍵』を用意してあげるわ。この順序は絶対だと言ったはずなのに、貴方は……」

「逆こそが唯一の正解ということもあり得るものさ。ワタシはその可能性に賭けてみたいんだ」


 マキナが差し出した聖杯を、『真紅』は目を細めて(のぞ)き込む。


「霊質が満ちているわね……上の方に溜まっているのは(きん)()(こう)じゃなくて、銀羯公(ぎんかつこう)ヴェルデンベラムの霊質かしら。どちらにしても充分な量よ」

「ならば頼む。それで『鍵』を作ってくれ」

「本当にいいのね? これを使うということは、時間を(さかのぼ)るための燃料を失うことでもあるのよ? おそらく二度と〝やり直す〟ことはできなくなるわ」


 決意を問う『真紅』に、マキナはきっぱりと意思を示した。


「構わない。これでエムロデイを倒せないようなら、約束どおりワタシの魂をくれてやる」




 マキナは『真紅』が何者であるか、すでに気づいていた。


 マキナが勇者とともに討ち滅ぼした、因果の魔王ハアモン。

 今まさに地球征服を企む、空間の魔王エムロデイ。


 そしてもう一柱。

 マキナに時を()(こう)させ、地球存続の可能性を探る者。


 時間を司る魔王リディムス――またの名を〝観察者〟。




「私はただ、人の子が自ら紡ぐ歴史を未来永劫見続けたいの。それを余所(よそ)者に引っ()き回されるのが我慢ならないだけよ」



  *



 前もって用意していた隠れ家の一つに、マキナはいた。

 床の上には魔法円が描かれ、その中央には空っぽの聖杯が置かれている。


(この儀式を行うのも随分久しぶりな気がするねぇ)


 『真紅』から渡されたカクテルシェイカーから、聖杯に中身を注ぐ。


(もっとも、時間軸上では一年も経っていないわけだが)


 紫ともオレンジともつかない、まるで薄明を閉じ込めたかのような、神秘的な色をした流動体。

 それは四方八方に波打ちながら、やがて本来の姿である円球を形作る。


 この球体こそ、異なる世界同士を接続する『鍵』であった。


(さあ、始めようか。ここからの逆転の一手を)


 マキナは儀礼用の短剣を手に取り、魔法円の周囲を足でたどってゆく。


「……ドラギエルは北天に(そび)え、フラマエルは南天に()ゆ」


 詠唱の声が反響する中、室内を満たす神聖力が増幅していった。


「パラディデルは西天にせせらぎ、ラタマクエルは東天にそよぐ……」


 四大天使の名に続いて、マキナが神名を唱えた時、


「我ここにル・ディメントスの大いなる御名において命ず……ド・ラムロル・ノア・トーデ……ゴフォン・ニントジオ――!」


 『鍵』はたちまち大きく広がり、魔法円を底面とした半球状の『扉』へと変化する。




 二つの世界が繋がった。




「……ああ。確かに(こと)()クンは魔王を倒してしまうだろう。彼女自身の命と引き換えにね。だから、ワタシはこうして……――」

※おまけ

★トンデモニウム in ハロウィンパーティ イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/822139838497153544

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