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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第七章 玉兎の拳、彷徨える公爵令嬢の巻

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第67話 白銀の絶望

【前回のあらすじ】

()(なつ)「アタシが(しい)()に負けるとは。すまない……(こと)()、マキナ、レもんさん」

 レもんは二対の翼を畳んで、木陰へと降り立った。

 早速とスーツを着た女が近づいて来る。七伯爵の元同僚・シアティだ。


「レモノーレ、来てくれたのね。推定ウルフォゴは今も学校に接近中よ」

「了解。ここからは地上を行こう」


 おそらく敵も警戒しているだろう。無理に不意討ちを狙うより安全策を取る。


 二人は足早に山林を進む。やがて前方に、腕組みをした人影が待ち構えているのが見えてきた。


 一見していかつい、反社の若頭といった風情の男だった。


「おうおう、随分と早かったじゃねえか。で、(めい)治家(じや)(こと)()とかいう女はどこにいやがる?」


 鋭い目つきとドスの利いた声。シアティはびくりと肩を震わせていたが、レもんは今さら(ひる)んだりはしない。


(こと)っちは来てないよ。オマエ程度の相手ならあーしで充分だし」

「ジャリが調子こくんじゃねえぞ。オレサマの名は――」

「ウルフォゴ、だろ?」

「話が(はえ)え!」


 敵は五指の間に氷の短刀を出現させ、次々と投げつけてきた。レもんは宙を引っ()くネイルの衝撃波で、それらを残らず切り落とす。


「氷の魔力……伊香(いか)(がわ)(しい)()に力を与えたのはオマエで間違いないな」

「あのイカレ女が。そっちのお仲間の一匹ぐらいは道連れにできたか?」


 ウルフォゴは蛇行しながら距離を詰めてくる。口ぶりからして、(しい)()は初めから捨て駒のつもりだったようだ。


「さあな。今頃は()()っちに倒されてるんじゃないか?」


 レもんは爪撃、ウルフォゴは氷刀を飛ばし合う。流れ弾が互いの衣服を(かす)めはしたものの、双方無傷のまま拳脚の間合いへと入る。


「だといいがなあ……?」


 ウルフォゴの不敵な笑いに、レもんは嫌な予感を覚えた。


(予感……なんかじゃない!)


 肌を刺す冷気を察知し、レもんは素早く身を引いた。

 追いすがるウルフォゴ。掴まれたら凍らされる。


「シアティ!」


 レもんは仲間に呼びかける。直後、地面を突き破って伸びたツタが、ウルフォゴの両足を縛りつけた。

 その隙にレもんは翼を展開し、空中へと舞い上がる。

 眼下には歯噛みするウルフォゴ。


「テメエ、逃げる――」

「わけがないだろ」


 レもんの両手に赤黒いオーラが凝縮していく。撃ち出すのは特大の爪撃波。


「〈錆色の魔爪(ラスティ・ネイル)〉!」

「クソがあぁっ!!」


 ウルフォゴは(とっ)()に氷の盾を作り出すも、魔爪は盾もろともその身を切り裂いた。

 あえなく地に伏したウルフォゴの姿を見届け、レもんは地上へと降下する。翼を仕舞うや、シアティが早足で歩み寄ってきた。


「レモノーレ、ケガはない?」

「大丈夫だ。助かっ――」


 レもんが返事をした瞬間だった。


「――た…………?」


 視界からシアティの姿が消失する。まるで、見えない何かに突き飛ばされたかのように。

 レもんは気づいてしまった。


(――もう一体いる!!)


 急いで周囲を見渡す。シアティがものすごい勢いで崖下へと転落していくのが見えたが、どうせ奴は不死身なので放っておく。

 今は自分の安全が第一だった。


(不可視……いや、認識阻害か。だとするとかなりの高位悪魔……――そこか!?)


 空気のわずかな揺らぎを察知し、レもんは身を(ひるがえ)す。刹那、巨大な質量を持った何かが背中を掠め、風圧でジャージの上着が引き裂かれた。


「……ほぉ。あたしの居場所を見破るたぁ、生意気な小娘だねぇ」


 臓腑に響く低い声音が、レもんにははっきりと聞き取れた。

 もはや隠れる必要はないと悟ったのだろう。敵は術を解き、おぞましい姿を現した。


「お前さんも悪魔の端くれなら知ってるだろう? あたしの名を」


 白銀の毛並みを持つヤギの頭部が、レもんを見下ろしていた。鋭く突き出た二本のツノを除いても、その堂々たる体躯は三メートルを下らないはずだ。


銀羯公(ぎんかつこう)……ヴェルデンベラム……!」


 レもんは戦慄した。魔界で知らぬ者はいない、三公爵の一人がそこにいたのだ。

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