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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第七章 玉兎の拳、彷徨える公爵令嬢の巻

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第62話 選抜メンバー、三人目はオマエだ!

【前回のあらすじ】

(こと)()「オレの両親は『母さん』と『母ちゃん』だった!?」

 公爵級悪魔にわざと負ける――?


 確かにマキナはふざけた女だが、今の発言は冗談にしても(たち)が悪い。

 わざわざ電話までかけてきて言うことか――という不満が、(こと)()の喉元まで出かかった。


『――なぁんてね。ヒーローの成長に負けイベントは付き物だろう?』


「たしかに……とでも言うと思ったか!? 勝ち負け以前に、本気で戦うからこそ熱いドラマが生まれんだろーが!」


 ヒーローとしての矜持は譲れない。


『だろうねぇ。(こと)()クンならそう来るだろうと信じていたさ。その意気ならワタシも安心して作戦を進められる』


「妙な前フリはやめてくれよ。で、作戦ってのは何だ?」


『簡潔に言えば、これまでとは逆にこちらから打って出ようということさ』


 言われてみれば、今までの戦いは、基本的に敵が攻めて来るのを迎え撃つ立場だった。七伯爵や五侯爵は活動拠点を人間界に置いていたので、すぐさま(こと)()たちに襲撃をかけることができたからだ。


 対して、三公爵はいずれも魔界に根城を持ち、滅多なことがない限り自ら出張っては来ない。高位の悪魔ほど人間界へ具現化する時間やコストを要するというのも、腰の重い理由だ。


「敵さんの出てくる位置を特定して、先回りするってわけか」


『理解が早くて助かるよ。詳しい内容は追って話すつもりだが、ターゲットの名前ぐらいは伝えておこうか』


 金獅公ジュンセリッツ――魔王軍の中でも急進派の最右翼であり、人間界の侵略にも積極的だ。

 当然、前もって魔界から手下を送り込んでいるに違いない。(こと)()がそれと知らず倒した野良悪魔の中にも、ジュンセリッツの息のかかった者がいたはずだ。


「ってことは、ある程度こっちの様子も知られてそうだな」


『ああ。だが地の利はこちらにある。キミを中心とした少数精鋭で一気に叩く手筈さ』


「わかった。オレの方でもメンツを考えとくぜ。つっても、最初の枠は()(なつ)で決まりだろうけどな」


『その辺りの相談も含めて、明日の放課後また連絡するよ』


 五分ほど続いた通話は、マキナの方から切り上げられた。



  *



 (おく)多部(たべ)高校、体育祭の前夜祭。講堂で催される応援ステージを、各部活動が盛り上げる。

 全生徒が観覧する午前中は応援部と吹奏楽部、自由参加となる午後はダンス部と軽音楽部の受け持ちだ。


 (こと)()も部長として軽音部員たちを率い、総勢六組のバンドで参戦した。

 中でも、今回が初ステージとなるマヨとミノの双子デュオは、期待以上に会場を沸かせてくれた。


「明日の体育祭もウチらマヨミノが盛り上げていくっしょ~!」

「R U ready to the show~!」


 のっけからハイテンションでのお披露目となったのは、伝説のヒップホップ・ユニット『ナウ・オン・セイル』のヒットナンバーだった。


 マヨはキレのあるダンスで、ミノは作り込まれたトラックメイキングで、オーディエンスを魅了する。

 勿論、息の合った姉妹で織り成すラップの相性も完璧だ。独特なフロウを代わる代わる、矢継ぎ早に紡ぎ出してゆく様は痛快であった。


「テカってんだろ?」

「フェイス!」


 締めのフレーズで講堂は拍手に包まれる。前途有望な新入部員が作り上げた、この日のハイライトであった。




 舞台袖で待っていた(こと)()は、マヨミノ姉妹の働きを(ねぎら)う。


「おつかれ! マヨは盛り上げ上手だな」

「えへへ~、それほどでもっしょ~」

「ミノもすげーカッコよかったぜ」

「恐悦至極……」


 双子はトレードマークのツインテを揺らしながら、子犬のようにすり寄ってくる。

 二人の表情からは、すっかり毒気が抜けていた。つい数週間前、敵同士として殴り合いまでしたのが嘘のように思える。


(と言いつつ、殴り合いは今でもしてるけどな)


 姉妹との修業は継続中である。マヨは自分たちの力を倍増、ミノは相手の力を半減させる(どう)(じゅつ)の使い手だ。これを利用した負荷をかけての模擬戦は、(こと)()の戦闘力を飛躍的に上昇させていた。


 五侯爵との決戦には間に合わなかったが、ここ数日で新技のコツも充分に掴めた。


(こいつさえ安定して出せれば、公爵級――ジュンセリッツってのが相手でも渡り合えるはずだ)


 可愛い後輩たち、バンド仲間、そして恋人との日常を守りたい。

 平和を乱そうとする侵略者との戦いを間近に控え、(こと)()は闘志を燃え上がらせていた。



  *



 そして翌日、体育祭の当日。


 予定どおり学校を抜け出した(こと)()は、裏山で待っていたマキナたちと合流する。


「やあ、(こと)()クン。堂々と学校行事をバックレるとは、やんちゃだねぇ」

「言ってろ。どうせオレは競技出れねーしな」


 というのも、去年の体育祭で(こと)()が活躍しすぎたせいだ。どの種目もぶっちぎりで一位、所属チームは優勝必至のバランスブレイカー認定。それゆえ、今年からは出場禁止を言い渡されていたのだ。


 その噂は他校生の耳にも届いていたらしく。


「大会荒らしで出禁だったか。加減を知らんところがオマエらしい」


 横から茶々を入れる()(なつ)に、(こと)()は即反論する。


「出禁じゃねーって! 殿堂入りだから!」

「物は言いようだな。それより、本当に三人だけでいいんだな?」


 ()(なつ)が念を押すも、今さら(こと)()の意志は揺らがない。

 (まい)()やぴあ()不哀斗(ふぁいと)や双子たちを、必要以上に戦いに巻き込みたくはない。せめて今日ぐらいは普通の高校生らしく、体育祭を楽しんでいてほしかった。


「ああ。戦闘メンバーは三人だ。オレとお前と――もう一人」


 (こと)()は後ろに連れた心強い仲間を振り返る。

 目の覚めるような金髪に褐色の肌、ギャルメイクでキメた女子生徒の名は――


「よろしく、()()っち。今回はあーしも一緒に戦うよ」


 怒狸(どり)(あん)レもん。かつて(こと)()と敵対した悪魔レモノーレ、現在の姿であった。

★レもん イメージ画像3

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/7667601420023819372

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