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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第六章 下剋上、虎眼パルヴェークの野望の巻

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第59話 ロックの極意は反骨精神と見つけたり

【前回のあらすじ】

()(なつ)「攻撃はアタシが引き受ける。トドメは任せたぞ、(こと)()!」

 手と言わず、腕と言わず、体中がバラバラになりそうだった。

 校舎を消し飛ばすほどの破壊力が、オーグマンの金砕棒(かなさいぼう)を通じて、()(なつ)一人の身にのしかかっているのだ。


(ぴあ()さんに再び会うまでは……死ねん!)


 ()(なつ)の脳裏に、綾重(あやしげ)流の家元である母の言葉がよみがえる。



『グァッ! と来た時にドリャァッ! と返せば大抵何とかなる!』



(我、極意を見つけたり――!)


 踏みしめた大地が大きく沈み込む。同時に、()(なつ)が両手で受け止めた金砕棒と、それを持つオーグマンの腕が、螺旋状にねじれて(はじ)け飛んだ。


 この間、わずか0.5秒。


(今だ、(こと)()――!)


「〈テンション・リゾルヴ〉ッ!!」


 極光を(まと)った(こと)()の拳が、オーグマンの胴体深くめり込む。戦いの高揚感(テンション)を威力に転換リゾルヴする必殺拳が炸裂した。


 ()(なつ)の視界を満たす虹色の光が止むと、そこには上半身に大穴を空けながらも仁王立ちする、隻腕(せきわん)の鬼神の姿があった。


「あいがと……さげもした……――」


 満ち足りた表情を残して、オーグマンの身体は無数の粒子へと分解されていった。

 (こと)()は大きく息をつき、その場に座り込む。晴れ晴れしい顔つきだ。


「暴れるだけ暴れて、勝手に満足して()きやがった。ったく、傍迷惑(はためいわく)な野郎だぜ」

「ふっ……違いない……」


 そう答えるのが精一杯だった。ダメージの限界を迎えた()(なつ)は、支えを失い仰向けに倒れた。もはや指一本とて動かせない。


(威力を足元から六割逃がし、三割を敵に送り返し、残り一割……アタシもまだまだ修業が足りないようだ……な)


()(なつ)! しっかりしろ!」


 すかさず(こと)()が駆け寄ってくる。大技の直後で疲労困憊(こんぱい)だろうに――()(なつ)は自分の頬が思わず緩むのを感じた。


「心配……するな。それより……あれを見ろ」


 辺りへと散らばったオーグマンの霊質が、一つの方角へ吸い込まれるようにして飛び去っていく。

 その光景の意味に思い当たらぬ(こと)()ではない。


「あいつ……来てやがったのか」

「らしいな。悪いがアタシは……ここで脱落だ。ぴあ()さんと(まい)()先輩のことは……オマエたちに……任せるぞ」

「ああ。絶対に勝ってくるから、お前は治療役が来るまでここで休んでろ」


 (こと)()()(なつ)のスマホからシアティに連絡を取り付けると、一直線に中庭の方へ向かって行った。


(頼んだぞ、(こと)()…………――ん?)


 ふと瓦礫の向こうに、かすかな気配らしきものを感じ取る。

 ()(なつ)は呼吸をひそめて様子を(うかが)うが、何事も起こらず。


(……気のせいか)


 どうやら、ダメージのせいであちこち調子が狂わされているようだ。

 今になって頬の古傷が(くすぶ)り出すように(うず)いた。



  *



 中庭での戦いも、ほぼ勝敗は決したようなものだった。

 魔力の直撃を受けたぴあ()は立ち上がれず、(まい)()も神力を使い果たそうとしている。


 だが内心、パルヴェークは(いら)()っていた。


(……遅すぎる)


 あのオーグマンが(めい)治家(じや)(こと)()程度に手こずるとは考えにくい。

 よもや、嬉々として勝負に興じているのではあるまいか。


(まったく、仕方のない男です)


 だとすれば、根っからの戦好きであるオーグマンに好敵手をあてがう約束が、図らずも果たされたことになる。

 本来であれば、人間界を掌握した後に、公爵級悪魔たちと存分に戦ってもらうつもりでいたのだが。


(こんな段階で満足してもらっては困りますよ。オーグマン、貴方は我が覇道を成すための最強の駒なのですから――)


 パルヴェークが再び歩を進めようとした時、渡り廊下を突っ切って走り込んできた者たちがあった。


「パルヴェーク様ぁ!」


 ピンクと水色のツインテールをなびかせて、双子姉妹が戦場へと分け入る。

 二人はパルヴェークの正面に回り、(まい)()とぴあ()を守るように立ち塞がった。


「マヨーラ、ミノーラ。何事ですか」

「せ……センパイたちをいじめるのは、もう……や、やめてほしい……です」


 何と弱々しい声音、何と定まらない主張であろうか。

 パルヴェークは怒りを一旦脇へ置き、マヨーラたちに優しく問いただす。


「要領を得ませんね。何故そこまで人間たちに肩入れするのですか」

「この感情の意味を、知りたいから……!」


 マヨーラの答えを耳にした瞬間、パルヴェークの心に浮かんだのは、眼鏡をかけた銀髪の女魔術士の顔だった。

 いい加減で、掴みどころのない、だがどうにも気にかかる存在。


「……ますます()せませんね。貴方がたは利用されているだけですよ。用済みになれば見捨てられるとは思わないのですか?」


 パルヴェークはじっとマヨーラたちの目を見る。伏し目がちだった眼差しが、少しずつ意志の光を灯していくのが感じられた。


(こと)()セイパイたちは……マヨたちが役に立っても立たなくても、軽音部にいていいって言ってくれた」

「しかし、現にこの者たちの役に立とうと躍起ではありませんか」

「誰かに言われたからじゃない! マヨたちがそうしたいと思ったから!」


 マヨーラが、ミノーラが、両腕を広げてパルヴェークの進路を(はば)む。それは初めて目にする、部下たちの決然たる面持ちだった。


(わらわ)が心を折ってやったはずの()(やつ)らが、口答えを……?)


 パルヴェークの胸に言い知れぬ(たぎ)りが渦巻いた。

 このような気分にさせてくれた者がほかにいようものか。パルヴェークは忌々しき仇敵の名前を声高に口にした。


(めい)治家(じや)(こと)()――!」


 オーグマンの手でとうに(たお)されているはずの小娘が、まさかこの場に再び姿を現そうとは。

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