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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第六章 下剋上、虎眼パルヴェークの野望の巻

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第55話 虎に翼……多すぎない?

【前回のあらすじ】

(こと)()出海西高(デミコー)でライブ終わり、()(なつ)を追いかけて来たオレが見たのは――」

 (こと)()は胸を落ち着け、状況を見定める。

 旧校舎の前に折り重なるように倒れているのは、出海(でみ)西(にし)高の不良生徒たち。数は十人ほどだ。


(さっき見た顔と、知らない顔が混じってるな。着けてる腕章からして、執行部隊とかいう奴らか)


 近くには、(おく)多部(たべ)高で留守番をしているはずの、マヨとミノの双子姉妹が並んで立っている。

 そこへ、向こうからつかつかと歩み寄って来る女がいた。


「こうして会うのは初めてですね――(めい)治家(じや)(こと)()

「お前がパルヴェークか」


 五侯爵の首魁・パルヴェーク。長身に褐色の肌、虎の耳と尻尾、そして身に(まと)った黄金の軽鎧――(こと)()がマキナや双子から聞いた特徴と一致している。


如何(いか)にも。マヨーラとミノーラのことは気に入ってもらえたようですが、そろそろこちらへ返してもらいますよ」


 前もって聞いていた襲撃日より四日も早い。しかもボス自らの出陣とは初耳だ。

 情報の出どころである双子は、力なくうつむいている。


「……騙しやがったな」

「ご、ごめんなさ――」

「お前らじゃねぇ。パルヴェーク! コイツらに嘘を教えたな!?」


 (こと)()は倒すべき敵を真っ直ぐに(にら)みつける。


「敵を(あざむ)くには味方から――貴方がた人間の常套手段でしょう。さあ、二人とも手を貸しなさい。(めい)治家(じや)(こと)()を確実にこの場で葬りますよ」


 パルヴェークは眉一つ動かさず、マヨとミノに言い放つ。まるで道具扱いだ。この女に信頼関係の何たるかを説いたところで、心に届くとは思えなかった。


「マヨ、ミノ。お前ら、本心ではどうしたいんだ?」

「……っ……」

「って、今聞いても迷わせちまうだけだな。だから、これは約束でも命令でもねぇ。オレからのお願いだ」


 (こと)()は拳を固め、パルヴェークへ一直線に突っ込んでいく。


「倒れてる奴らと、ついでに周りの安全確保もよろしく頼む!」

「単調な攻撃ですね――」


 パルヴェークの上半身が大きく(かし)いだ。(こと)()の拳が空を切ると同時、腹部への衝撃が走る。

 真下に(もぐ)り込まれていた。


「ぐは……っ!」


 逆さまに蹴り上げたパルヴェークの片脚が、(こと)()を後方へ放り投げる。


「口ほどにもない。これでは(わらわ)一人でも充分そうです。マヨーラ、ミノーラ、貴方たちは()(やつ)の望みどおり人払いでもしてくるとよいでしょう」

「で、でも……」

「聞こえなかったのですか?」


 パルヴェークの語気が強まったのを境に、マヨとミノはきびきびと行動を始める。怪我人たちをフェンスの外へ運び出すと、(こと)()一瞥(いちべつ)した後、新校舎の方へ走って行った。


 双子の足音が遠ざかっていくのを聞き届け、(こと)()は身を起こす。


「話のわかる奴で助かったぜ」

「足手まといを遠ざけるのは合理的判断です。ここで貴方さえ消し去れば、あの二人の迷いも断たれ、元の有能な駒に戻ってくれるでしょう」


 おそらくパルヴェークに皮肉の意図はないのだろう。それがかえって(こと)()の神経を逆撫でする。


「あいつらを駒呼ばわりすんじゃねぇ!」

「異なことを。あのような何方(どちら)つかずよりも、貴方は先走った仲間の心配をするべきではないですか?」


 パルヴェークが言い終えるや否や、轟音とともに旧校舎の壁が吹き飛んだ。


 壁の穴から勢いよく転がり出てきたのは、ロングスカートのセーラー服を着た、ポニーテールの女――ほかならぬ綾重(あやしげ)()(なつ)であった。


()(なつ)――!」

「あの女は厄介そうなので、妾の右腕に相手をさせています。言っておきますが、オーグマンの戦闘力は妾よりも上ですよ」


 パルヴェークの言う真偽はわからない。ただ、()(なつ)がこちらを(うかが)う余裕すらないのを見ると、穴の向こうにいるのがかなりの強敵であるのは間違いなさそうだ。


 一刻も早く助けに入らなければ、()(なつ)の身が危うい。


「邪魔だ!! そこをどきやがれッ!!」


 先ほどの対応からして、敵はカウンター巧者だ。反撃を予測して立ち回らないと返り討ちに遭う。

 (こと)()は位置取りに気を配りつつ、攻撃の合間を狙われぬよう続けざまに攻め立てた。


(チッ、流石に目がいいな)


 先読みで繰り出したコンビネーションが難なく(さば)かれる。パルヴェークは(こと)()の動きを見極め、()(せん)で応じているのだ。


(だったら……『見せない』のが正解だ!)


 (こと)()は円を描く歩法で敵の側面へと回り込み、さらに大きく回し蹴りで背面を狙う。

 と見せかけて、真後ろに着地する。


 はたして、回避を兼ねたパルヴェークの後ろ回し蹴りは空振りに終わった。


(フェイント成功だぜ!)


 回転と落下のエネルギーを突進力に転化し、(こと)()は隙だらけのパルヴェークへ一撃を――


「思い込みは命取りですよ、(めい)治家(じや)(こと)()

「――……っ!?」


 (こと)()の攻撃は予想よりもはるかに早く届いていた。パルヴェークの方から前進を仕掛けていたからだ。

 (こと)()の拳は加速手前でパルヴェークの鎧に衝突し、威力を相殺されてしまっていた。


(こいつの動き……後の先じゃねぇ――)


 誘われていたのは(こと)()の方だった。

 (こと)()の腕を絡め取ったパルヴェークは、三対の黒翼をその背に現し、羽ばたき始める。


「ちょうどよい。あの建物を貴方の墓標にして差し上げましょう」


 抵抗する間もなく身体が浮き上がる。(こと)()はパルヴェークに捕まえられたまま、空中高く運び去られていた。


 眼下では旧校舎の屋上が、今や遅しと(こと)()の落下を待ち構えている。


「ここからではもう逃げられませんね」

「……ああ――お前がな!」


 敵に密着させた(こと)()の手のひらに、闘気が凝集してゆく。


「ゼロ距離〈魂波(ソルファ)〉!!」


 まばゆい蒼光がパルヴェークを貫くように爆裂した。

(こと)() イメージ画像3

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818622177292688523

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