第6話 ギャルとタイマン張るぜ!
【前回のあらすじ】
レもん「お昼寝から目覚めた舞魚んの様子がおかしいぞ……!?」
舞魚は、まるで起き上がり小法師のように、すくと身を起こした。
「答えろや。今この娘に何しようとした?」
レモノーレは危険を察知し、咄嗟に飛び退る。
舞魚に起こった変化は金色の瞳だけではない。さっきまで微弱だった神聖な気配が大きく膨れ上がっている。
「やはり! ドナツィエルを倒したのはお前か!?」
「ちゃんと質問に答えろや! ワレェ、この娘にえっちなことしようとしたやろ! しばくぞ!」
舞魚の両手に淡い光が灯る。すぐさま迎撃――否、先手を打たねば無事では済むまい。
分かっているはずなのに。
(攻撃……舞魚んを――っ……!?)
反応が遅れた。レモノーレの身体を、舞魚の両手指から伸びる光の六本弦が縛り付けていた。
「ワレ、化生の類やな? 目的はイタズラか?」
「…………」
「正直に喋らんと……おしおきや!」
弦を伝って清浄な力がどっと流れ込んでくる。悪魔の身には耐え難い苦痛だ。
「はぐぅ……っ!」
「……あかん! 加減、間違え……ち、から……使いす……ぎ…………」
突如としてレモノーレの束縛が解かれる。舞魚は再び意識を失い、その場に倒れようとしていた。
「舞魚ん……!」
レモノーレは力を振り絞り、すんでのところで舞魚を抱き止める。
*
琴緒は階段を駆け上がり、躊躇なくドアを蹴破る。
「オラァッ!! どこだァ!! 怒狸闇レもんッ!!」
屋上には驚くべき光景が広がっていた。ぐったりした舞魚を金髪褐色ギャルが抱きしめているではないか。
「舞魚先輩!? ……お前かァ! 怒狸闇レもん……いや、悪魔レモノーレ!!」
予想外の事態に動揺しているのは、どうやら琴緒だけではなく。
「何故あーしの正体を……というか、誰だ貴様は!?」
「2年G組、明治家琴緒だ!」
「琴緒……なるほど。この娘を囮にあーしをおびき寄せたのか!」
「はぁ!? オレが先輩にそんなことするわけねーだろが!!」
怒りのあまり飛び出しかけた琴緒を、背中越しの声が制止する。
「落ち着きたまえ、琴緒クン」ドア修理業者に変装したマキナだ。「レモノーレ、この子に見憶えがないかな?」
作業着の足元から、小さな黒猫が顔を出す。瞬間、レモノーレの眉がぴくりと反応した。
「その猫は、花壇に迷い込んできた……」
「あいにくこの子はワタシの使い魔でね」
子猫はドヤ顔で二足歩行してみせる。
「猫妖精!? あーしを追跡てたのか!」
「年貢の納め時だよ。さぁ琴緒クン、やっておしまいなさい!」
マキナにけしかけられるまでもない。
「先輩を放しやがれ!」
琴緒は捨て身で打ちかかるも、レモノーレは舞魚をあっさりと解放する。
「これで満足か?」
「んなわけがあるか!」
横たえられた舞魚に気を取られる隙に、琴緒は大きく間合いを離されていた。
「しつこい奴だな! 何が目的だ!?」
振り向きざま、レモノーレの両手が宙を引っ掻いた。ネイルから投射された爪型の衝撃波が琴緒の制服を切り裂く。
無論、この程度で怯む琴緒ではない。
「決まってんだろが! 正義の味方としてお前を血祭りに上げてやるッ!」
「発言が正義っぽくないんだが!?」
レモノーレの足取りには消耗が見て取れたが、油断は禁物だ。琴緒は爪の攻撃を躱しながら距離を詰めていく。
「うるせぇ! オレの先輩にベタベタ触りやがって……羨ましいだろがぁ!」
「思いっきり私怨じゃないか! 大体、あんな顔がいいだけのモノグサで他力本願なゴミクズ人間に熱を上げるなんて、どうかしてるぞ!?」
舞魚への罵倒に琴緒は拳を握りしめる。
「テメェ……先輩のことよく分かってるじゃねぇか!」
「そこは言い返せよ! 悪魔の立場がなくなるだろ!」
屋上での攻防は両者一進一退。琴緒は未だ拳脚の届く間合いまでは近付けず、防御する手足への爪痕を増やすばかりであった。
にもかかわらず、フェンス際へと追い詰められていたのは、射程に勝るレモノーレの方だった。
「オラァ、どうした! 後がなくなったぞ!」
「頑丈な奴め。ならば――」
レモノーレの背中に黒翼が展開された。すかさず琴緒は蹴りを放つが、翼には届かず。
空中へと逃れたレモノーレは、眼下の琴緒へ向けて物々しい構えを形作る。
「一撃で終わらせてやる……!」
禍々しい気がレモノーレの両爪に集まり始めるのを見て、琴緒の脳裏に一つの対策が浮かび上がるのだった。