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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第五章 瓜時去りて、五侯爵の影が差すの巻

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第47話 勝利への疾走、オルタード・テンション

【前回のあらすじ】

(こと)()「デムネシュの翼を斬り裂いたのは……お前だったのか!?」

 翼を失ったデムネシュに、ぴあ()は容赦なく魔剣の切っ先を差し向ける。


「覚悟なさい! 晴れのステージを踏み荒らす不届き者っ!」


 今の今まで、(こと)()はすっかり忘れていた。お嬢様はスポーツも万能であらせられたことを。

 それはさておき、大切な仲間の危険に(さら)すわけにはいかない。


「ぴあ()、魔剣を手放せ! お前が狙われるぞ!」

「デュフッ……左様ゥ! 速やかに返却すべ……し……?」


 デムネシュは空間の切れ間に腕を差し込み、何かを探ったまま固まっている。

 その青ざめた顔を、冷ややかに見つめる銀髪メガネ女。


「魔剣ヴァイエルの位置情報ならワタシが抹消しておいたよ」

「い、いつの間にィ……!?」


 狼狽(うろた)えるデムネシュに(こと)()も内心で同意した。おそらくは、前回ラッパースと対峙した時点で、マキナは魔剣の解析までを済ませていたに違いない。


 正面に(こと)()、背後にぴあ()、左右からは(まい)()()(なつ)が集結する。デムネシュ包囲網の完成だ。


「さぁ、トンデモニウムの皆さん、やっておしまいなさい!」


 マキナが得意顔で指令を下す。(こと)()はイラついたが、曲がりなりにもバイトの上司なので文句は言えない。

 フラストレーションはデムネシュを挑発して発散する。


「おいコラ、ビビってねぇで正面からかかって来いよ。それとも、侯爵サマは騙し討ちとチキン戦法しか能がねぇってか?」

「ムキィ~ッ! 小生、怒り心頭の極みィッ!!」


 どうして悪魔という生き物は、どいつもこいつも(あお)り耐性がゼロなのか――それが(こと)()にとっては扱いやすくもある。


「よぉし、こっからはタイマンだ!」


 手を出すなよ、と仲間たちに目配せをして、(こと)()はデムネシュを迎え撃った。

 真っ向勝負の地上戦。デムネシュの技巧は二流だが、パワーはそれなりだ。カウンターを取られるのは避けたい。


 (こと)()はフットワークで左右へ揺さぶりをかける。追ってくる。しつこい。

 かといって、距離を取っても、目の前に開いた空間の隙間から拳脚が襲ってくる。実にしつこい。


(この……粘着野郎が……ッ!!)


 (いら)()ちを抑えながら、(こと)()はデムネシュの行動パターンを見定める。相手が手を出せず、こちらが一方的に攻撃を当てられる位置と瞬間を。


(――そこだァッ!!)


 (こと)()の拳が、デムネシュの胴体を貫いた――が、当たった感触がない。


「デュファファファ! 引っかけ問題ィッ!!」


 嘲笑(あざわら)うデムネシュの胸部が、くり抜かれたように空洞化していた。空隙を出入りできるのは、末端だけではなかったのだ。


(クソッ! ハメられた……!)


 デムネシュはすかさず(こと)()の腕を捕まえ、全重量をかけて押し倒そうとしてくる。

 反撃しようにもデムネシュとは密着状態。加えて不安定な体勢では、たとえ寸勁を放っても威力は望めない。


「捕まえましたぞォ……――マヨーラ殿! ミノーラ殿! 今のうちに!」


 デムネシュは(こと)()を押さえ込みながら、客席に向かって声を張り上げた。


(マズい! 仲間が隠れてやがったのか!?)


 (こと)()は勿論のこと、周りにいるマキナや(まい)()たちも一斉に身構える。

 だが、客席側からは一向にそれらしい反応が返ってこない。


「……お前、キモすぎて仲間に見捨てられたんじゃねーだろうな?」

「そうかも……」

「え、マジで?」


 (こと)()はちょっぴり同情するも、デムネシュの切り替えは早かった。


「さすればプランBに移行するまでッ!」


 斬り落とされた翼の根本から、スパゲティ状の触手が束となって飛び出した。それらは(こと)()の手足へと絡みつき、デムネシュとの結束をさらに強める。


「うげぇぇえ!! 気色悪ッ!!」

「デュフェフェ……小生と(こと)()チャンは今や一心同体ィッ!! 間もなくあの世へのランデヴーに旅立ちまするゥッ!!」


 次いで、デムネシュの胸の空洞を埋める形に、濁った水晶玉のような球体が現れる。それは鼓動にも似たリズムで赤く点滅を始めていた。

 明らかに危険な香りがする。もしかしなくても、これは――


「自爆モードかぁっ!?」

「ご名答ゥ!! (こと)()チャンはお利口サンだねェ……なお、小生に外から衝撃を加えると即爆発しますのでェ、ギャラリーの皆さんはお静かに願いますゥ」


 デムネシュは周囲への牽制(けんせい)も忘れない。皆が色めき立つ様子に、喜色満面の笑みを浮かべる。

 だが、(こと)()は動じることなく、冷静に活路を見出そうとしていた。


(『一心同体』……『外から衝撃』……か。つまり――)


「おやァ? (こと)()チャン黙り込んじゃってどうしたのかなァ? 怖くなっちゃったのかいィ?」

「……爆発まであと何秒ある?」

「いい質問ですねェ! ご褒美にカウントダウンしてあげちゃおっかなァ! 9……8……7――」


 デムネシュの言うことが嘘か本当かなど、この際どうでもよかった。迷ったところで道連れにされるだけだ。

 (こと)()の心は決まっていた。


「おい、()(なつ)ッ!」大声で仲間に呼びかける。「トバすぞ!」

「わかった!」


 ()(なつ)は瞬時に(こと)()の意図を汲んだ。ステージに近い講堂側方の出入り口へ急ぎ、鉄扉を全開にする。


「よし……こっちも全開で行くぜ――!」


 (こと)()の全身を覆うように、虹色の炎が燃え上がった。全力開放。自分を押さえつけるデムネシュを、渾身の力で肩の高さまで持ち上げる。


「ごご、5……4ン……!」

「〈オルタード・テンション〉!!」


 極限まで高まったテンションを推進力に変え、(こと)()はデムネシュごとダッシュで屋外まで飛び出した。

 頭上へ抱え上げたデムネシュの胸で、球体が激しく脈動する。


「2ィッ! 1……!」

「ゼロ距離〈魂波(ソルファ)〉ァ――――ッ!!」


 (こと)()はデムネシュに押し当てた両掌から、天に向けて闘気を一気に放出した。

 触手の束が音を立ててちぎれ飛び、デムネシュの体が青白い尾を引いて、ロケットのごとく打ち上がっていく。


「ぽぉおおおォ――――ゥ!!」


 遠ざかっていく断末魔の声が途切れた直後。

 初秋の澄んだ青空を、薄汚れた黄褐色の大爆発が染め上げた。


 豪雨となって降り注いだ大量の粒子が、地上の一点に向かって渦を巻き吸い込まれてゆく。

 そこには、古めかしい聖杯を手にしたマキナが、霊質回収に待ち構えていた。


「ぎりぎり間に合ったようだね。(まい)()クン、アナウンスを頼むよ!」


 ステージに残った(まい)()が、マイクに向かって締めの一言を発する。


「以上、トンデモニウムによるイリュージョンでした!」



  *



 ざわついていた聴衆も「そうだったのかー」「びっくりした~」「イリュージョンなら仕方ないな」などの声とともに、少しずつ静まっていった。


 そんな客席の最後方で、一部始終を見守っていた二人がいた。


「あー、せいせいした。あのクソキモ野郎にはこれぐらいのおしおきが必要っしょ」


 辛辣な言葉を吐くのは、ピンク髪をツインテールにした小柄な女子生徒だ。

 隣では、よく似た顔をした女子が水色のツインテールを揺らしながら、うんうんとうなずいている。


 1年E組で「ヒップホップ占い」をしていた双子であった。


「さぁて、戦闘データもバッチリ取れたことだし……生き延びて来てくれるよね? デムネシュくぅん?」


 五侯爵に名を連ねる悪魔・マヨーラとミノーラ――二人の表情は()(ぎゃく)的に歪んでいた。

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