第5話 屋上ランチタイム with レもん
【前回のあらすじ】
琴緒「告白失敗……これも怒狸闇レもんとかいう奴のせいだ!」
翌日、木曜の昼休み。
「あいよ、レモンあんパンと唐揚げパンね」
「あざーす」
レモノーレは購買部でパンを購入すると、調査がてら校内の散策へ向かった。
(今日はどこで食事をしようかな)
軽やかに階段を駆け上がる。突き当たりには屋上への扉が待ち構えていたが、どうも様子がおかしい。
ドアノブに何者かの手形がめり込んでいた。その上、扉自体も蹴り開けられたように歪んでいる。
(何だこれは……ゴリラの放し飼いでもしてるのか? とんでもない学校だな)
しかも悪魔まで紛れ込んでいるしな――と自虐したところで、ふと階下に気配を感じる。
レモノーレが振り返ると、そこには心なしか淋しげに階段を見上げる舞魚の姿があった。
「レもんちゃん?」
「舞魚ん、屋上開いてるみたいだし、一緒にお昼食べる?」
「屋上は特別……」
「……?」
「ううん、何でもない。一緒に食べよ」
待ちに待ったターゲットと二人きりの時間――だったが、レモノーレは早くも辟易していた。
「琴緒ちゃんってばすっごく優しいんだー。私の作った曲いつも褒めてくれるし、勉強したくないって言っても怒らないし」
「へー」
「もう一人いればバンド組めるんだけど、このまま二人だけの時間も大切にしたいし、ちょっと迷うなーとか思って」
「ふーん」
さっきから舞魚は部活の後輩の話ばかりしている。レモノーレが聞きたいのはこの娘自身のことだというのに。
教室とは違うシチュエーション、しかしまたしてもドナツィエル撃破の手がかりは掴めていない。
(流石に妙だ……もしかして、奴を倒した人間は別にいるのか……?)
疑い始めた矢先、舞魚が大きな隙をさらけ出す。
「それにしてもお天気気持ちいいよねー……お昼寝ー……すゅー……」
「え? ちょ、ちょっと……」
おにぎりを食べ終えるや、舞魚はレモノーレの膝の上ですやすやと眠ってしまった。
「舞魚ん、寝る前にちゃんと歯を磨い――」
叩き起こそうとしたレモノーレは、はたと手を止める。
(――待てよ。これは千載一遇のチャンスなのでは……?)
「……琴緒ちゃん……らいしゅちぃ……」
舞魚はよだれまで垂らして完全に寝入っていたが、微かに漏れ出る正体不明の神気は消え去ってはいない。
(少し気は咎めるが……いや、咎めてどうする! あーしは非情なる悪魔レモノーレ! 大いなる計画のため、今ここで禍根を断つ――!)
レモノーレは身を屈め、舞魚に顔を近付けた。このまま唇を重ね、直接体内へ魔力を送り込めば、どんな屈強な敵であろうと確実に仕留められる。
だから、迷う理由など、今さら。
(……よだれ拭いてからにするか)
レモノーレがポケットティッシュに手をかけた瞬間――
「おい、ワレェ……何するつもりや?」
前触れもなく見開かれた舞魚の両眼は、金色の妖光を放っていた。