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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第五章 瓜時去りて、五侯爵の影が差すの巻

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第40話 人事異動は多数決、あるいは高火力紙装甲の嘆き

【前回のあらすじ】

(こと)()「ぴあ()の気持ち、嬉しいよ。恋人にはなれねぇけど、これからもよろしくな」

 合宿は二日目の午前中。スタジオにはパンデモニウムのメンバー四名と、マネージャーのレもんが顔を揃えていた。


 バンドの演奏は三曲目へと差し掛かる。四人で合わせるのは初の曲だが、首尾は上々。個別の予習が成果を上げたようだ。


 とくに()(なつ)のドラムは安定していた。ぴあ()が一緒でも、もはや緊張でリズムを乱すことはない。オーディションでのネル部長の喝がよほど効いたとみえる。


(まい)()さんのオリ曲、いい感じですよね。これも学祭で()るんですか?」

「ん~……お客ウケ考えると、私は無理に演奏しなくてもいいかな、って思うんだけど」


 尻込みする(まい)()。皆も認める才能がありながら、もう一つアピールが弱いのが、(こと)()にとっては不思議でならない。


「そこは強気でねじ込みましょうって! この機会に先輩の偉大さをみんなに知らしめてやるんスよ!」

(めい)治家(じや)さんのおっしゃるとおりですわ! ロックとは内なる熱情の発露でしてよ!」


 よく分からないノリで、ぴあ()も同調してきた。失恋しても味方でいてくれるのは嬉しいが、(こと)()はちょっと気恥ずかしい。


 二人の勢いに気圧されてか、(まい)()は戸惑いぎみにマネージャーへ助けを乞う。


「レもんちゃんはどう思う?」

「……今のままじゃ何の曲()っても同じじゃないかな」


 トゲのある物言いは(こと)()(かん)に障った。


「んだと? テメェ……」

怒狸(どり)(あん)先輩は厳しいことをおっしゃいますのね。できれば理由をお聞かせ願いますかしら?」


 ぴあ()お嬢様もおかんむりである。だが、レもんも自説を曲げるつもりはないらしい。


「あーしはこのバンド、根本的に間違ってると思うんだよね。みんなお互いの顔色(うかが)ってばっかじゃん。ロックとか偉そうなこと言ってるけど、プレイヤーとしての主張がなさすぎ。()()っちのドラムが一番目立ってんのおかしいって」

「ぐぬぬ……一理ありますわ……」


 歯噛みしながらも、ぴあ()はすごすごと引き下がっていく。

 「お前もうちょっと頑張れよ!」と言いたくなる気持ちを抑えて、(こと)()は入れ替わりに進み出た。


「い、今は色々と試行錯誤してる最中なんだよ! バンドとしてのバランスみたいのも、(おろそ)かにはできねーっつーか……」

「それは分かるよ。けど、問題から目を(そむ)けたままじゃ、いずれ行き詰まると思うけどね。とくに――(こと)っち!」

「え? オレ?」


 ネルといい、レもんといい、何故自分ばかり名指しにするのか。困惑する(こと)()に、さらなる追い撃ちがかけられた。


「はっきり言わせてもらうけど(こと)っち、本当はフロントマンやりたいでしょ?」


 バンドのフロントマンといえば、ステージの真ん中でメンバーを鼓舞し、オーディエンスを(あお)る、とにかく目立つ役どころである。


「なっ……何言ってんだよ。オレは、あくまで(まい)()先輩を()り立てるために入部したわけで……」

「それはきっかけだろ。今はどうなの?」


 認めたくないが、レもんの問いは核心を突いている。だからこそ、(こと)()はおいそれと答えを口にするわけにはいかなかった。


「い、今も何も……オレは単なるベーシストであって……前に出て歌うとかは……」

「歌! 今歌って言ったよね!? はい、ここでちゅーもーく!」


 レもんはスマホを掲げ、みんなの耳目を集める。

 間もなく動画が再生され、聴き憶えのある声が流れ始めた。それもそのはず、画面には、マイクを持って熱唱する(こと)()の姿が映し出されていたのだ。


「お、お前っ! これ、こないだのカラオケん時のじゃねーか!」

「しっかり録画させてもらったよ。(こと)っちのヴォーカル、どう? みんな」


 盗撮犯……もといレもんは、メンバーへ意見を求める。


(こと)()ちゃん、すごい上手~!」

(めい)治家(じや)さん……素敵ですわ……!」


 (まい)()とぴあ()が目を輝かせながら称賛するも、受け止める余裕は今の(こと)()にはない。

 (こと)()は自覚していた。自分が予想外の出来事に対してめっぽう弱いことを。


「ま、待てって! 歌はともかく、ベース弾きながらだぞ!? そんな簡単に……」

「何をおっしゃいますやら! そのための強化合宿じゃありませんこと?」


 主催者(ぴあ乃)はすでにやる気だ。(こと)()一人ではこの気勢は止められない。


「おい、()(なつ)ゥ! お前も黙ってねーで何とか言え、コラァ!」

「アタシに異論はないぞ。どのみちこうなるだろうと、ネルさんから聞かされていたからな」

「ネル部長ぉおおォ――――ッ!」


 退路は断たれた。崩れ落ちる(こと)()に、レもんが肩ポンでとどめを刺す。


「観念しなよ、(こと)っち。大体、いつもヒーローだの勇者だの言い張ってる女が、サポート役で満足するのは無理があるって」

「うぅ……(まい)()先輩は……オレなんかがフロントでいいんですか……?」


 (いち)()の望みを託して、(こと)()(まい)()を振り返り見る。


(こと)()ちゃんが前出て歌ってくれたら、私も伸び伸びとギター弾けそう。すっごく心強いよ……うん。考えたらワクワクしてきたかも!」

「せ、先輩がそう言うなら……考えてみてもいい……かもしれないというか……」


 この()に及んで言葉尻を濁す(こと)()に、周りから総ツッコミが入った。


(めい)治家(じや)さん? 下手の考え休むに似たり、ですわよ!」

「そうだ。今さらビビるなんて(こと)()らしくないぞ」

「んじゃ、(こと)っちメインの動画撮るつもりでスケジュール組み直すかー」


(こいつら……こんなときだけ一致団結しやがってぇええ…………!!)


 (こと)()包囲網の完成とともに、バンドの方針も一気に定まりつつあった。


 (めい)治家(じや)(こと)()――リードヴォーカル&ベース。

 鱧肉(はもにく)(まい)()――ギター&コーラス。

 ()(ぼう)(どう)ぴあ()――キーボード&ヴァイオリン&コーラス。

 綾重(あやしげ)()(なつ)――ドラムス。


 以上の布陣で、パンデモニウムは学園祭のステージへ殴り込みをかける――!



  *



「おやおや。ラッパース氏、倒されちゃったねェ……デュフフ」


 粘ついた男の笑い声が、荒れ果てた木造の部屋に響いていた。

 突き破られた天井。その真下には、剣が突き刺さっている。


「魔剣ヴァイエル……成り上がりの伯爵風情には過ぎた長物でしたか」


 落ち着いた女の声に、また別の野太い声が重なる。


「よか宝ば持っちょっど。ちぃと貸しちくいやい」

「おやめなさい。貴方のような乱暴者が扱っては刃こぼれしてしまいます」

「ガハハ! そいもそうじゃ!」


 大男は、女にたしなめられると、あっさりと身を引いた。

 入れ違いに歩を進めた、ねっとり笑いの男が魔剣を引き抜く。


「それでは、小生が頂いちゃいましょうかねェ。勇者気取りの生意気JKに、一刻も早くおしおきしてあげなくちゃねェ……デュフフフ」

「うわっ、キッモ……」


 部屋の隅から小さく罵声が浴びせられた。よく似た背格好の少女が二人、男たちの挙動を遠巻きに(うかが)っている。


「マヨ殿の罵倒ゥッ! 小生ありがたき幸せッ!」

「気色悪いです……」

「ミノ殿までッ! 恐悦至極ゥッ!」


 ねっとり男は身をくねらせて床を転げ回っている。

 てんでんばらばらとなった場を収めたのは、凛とした女の一声であった。


「まあ、そう慌てることはないでしょう。我ら五侯爵の手にかかれば、(めい)治家(じや)(こと)()の命など風前の灯火。せめて人生最後の夏休みを満喫させてやろうではありませんか」


 天井の穴を見つめる縦長の瞳孔が、冷たくも妖しく(きら)めいた。

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