第4話 屋上ランチタイム with 琴緒
【前回のあらすじ】
琴緒「二人っきりの屋上……今日こそ舞魚先輩に愛を告白するぜ!」
降り注ぐ春の陽射しの下、屋上での昼食会は愛しの先輩と二人きり。
なのに、琴緒の気分はちっとも晴れない。
「レもんちゃんってば真面目なんだー。教室の掃除も隅々までやってくれるし、日誌も丁寧だって先生に褒められてたし」
「…………」
「最近は花壇のお世話までしてくれてるの。あ、そうそう、昨日も迷い込んだ子猫がすり寄ってきて大変だったんだってー」
「……そッスか」
さっきから舞魚はクラスの友だちの話ばかりしている。会ったその日に仲良くなった転校生、しかも席は隣同士だという。
(怒狸闇レもんだとォ……? どこの馬の骨だか知らねーが、オレの舞魚先輩を誑かしやがって……!)
まさかの恋敵出現に、琴緒の胸の内で嫉妬の炎が渦巻いていた。こう言っては何だが、舞魚のようなダメ人間とまともに付き合える者が、自分以外にいるとは思ってもみなかったのだ。
「レもんちゃん、ホントにいい子なんだー。勉強押し付けてくること以外は」
「オ、オレは先輩に勉強しろだなんて言わないッスけどね!」
琴緒はアピールついでに釘を刺しておいた。
第一、勉強を教えようという行為自体烏滸がましい。噂によれば、舞魚は三年間の留学経験を持つ孤高の才女。テスト勉強などしなくとも余裕に違いないのだから。
「琴緒ちゃんだぁい好き! 琴緒ちゃんの作ってくれるお弁当も大好きぃ!」
細められた宝石のような瞳を、両のえくぼを、独り占めしたい。
「お……オレも……ッス」
「琴緒ちゃんも唐揚げ好きなんだ? はい、あーん」
「はぉぐ……っ!?」
「代わりに生姜焼きもらっちゃおーっと」
ああ、こんな幸せがいつまでも続けばいいのに――琴緒が思った途端、
「コラァーッ! 屋上は立入禁止だぁーっ!」
ドアを蹴破る音に続いて、聴き慣れた大声が邪魔をする。
屋上の出入り口に、ジャージ姿の三十路女が仁王立ちしていた。琴緒のいる2年G組の担任で、空手部顧問の祖名ちねである。
「ソナチネ先生、今自分大事なとこなんで――」
「黙らっしゃぁい! そこの扉を破壊したのはお前だろォ、明治家ァ!」
アンタも今蹴り入れてたろ――という言葉をすんでのところで飲み込む。祖名には琴緒の怪力は知られているし、言い逃れはできそうにない。
「サーセンっした……修理代は実家に請求しといてくださいッス」
琴緒はポケットから出した、くしゃくしゃの名刺を祖名に手渡す。
「素直でよろしい。にしても『めいじや楽器店』か……お前、こう見えて社長令嬢だったっけな」
「その話はやめてくださいッス……」
「あー、分かった分かった。それよりドアぶっ壊すほど力有り余ってるなら、空手部の助っ人また頼むよ」
「それも勘弁で」
「つれない奴め。さぁて、修理業者を手配しないとな……お前らもとっとと校舎に戻れよー」
祖名はあっさり立ち去ったものの、最早舞魚へ告白などできる雰囲気ではなくなってしまった。
(さっきから調子狂いっぱなしじゃねーか! クッソぉおお……それもこれも怒狸闇レもんとかいう奴のせいだ! 泥棒猫めが……首を洗って待ってやがれ……!)
行き場を失った琴緒の怒りの矛先は、まだ見ぬ恋敵へと向けられていた。