表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第四章 七伯爵、壊滅へのカウントダウンの巻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/92

第29話 名奉行・綾重の椰夏さん

【前回のあらすじ】

シアティ「()(ぼう)(どう)ぴあ()を誘い出したつもりが……誰!?」

 謎の長身スケバンは臆面もなく向かいの席につく。


(あたしは七伯最後の刺客シアティ……ここで動揺を見せたりしてはダメよ)


 シアティはテーブルの下でミラーを覗き込む。

 スーツ良し、つやつや深緑のセミロング良し、真紅の瞳も切れ長でクールにキマっている。どこからどう見てもデキる女だ。


 気を取り直し、シアティは名刺を差し出した。


「セブンカウント芸能のシアティ(だっ)(ちゅう)()よ。それで……あなたのお名前は?」

()(ぼう)(どう)ぴあ()です」


 まだシラを切るつもりなのだろうか。一目でヅラだと(わか)る赤髪、口元は黒いマスクで隠しているが、SNSに載せてあった写真とはまるっきり別人に見える。


「し、失礼だけど、雰囲気が随分と違うような……」

「写真の方は加工してあるんで」


 画像をいじってどうにかなるレベルには思えない。素顔を確かめねば。


「何か注文する? お代は気にしなくていいわ」

「いえ、結構です」


 スケバンは頑としてマスクを外す気はないらしい。


(手強いわね……いえ。この際、()(ぼう)(どう)ぴあ()本人かどうかは重要じゃないはずよ)


 シアティは発想を転換した。直接にせよ間接にせよ、この怪しげなスケバンは十中八九、(めい)治家(じや)(こと)()(つな)がっている。人質としての価値は充分にあるはずだ。


「今日来てくれたということは、モデルの仕事に興味はあるのよね?」

「オッス」

「テスト撮影をしたいから、場所を移動しましょう」




 喫茶店を出たシアティは、そのまま徒歩で(ひと)()のない区画へと向かう。後ろを付いて来たスケバンを、まんまと廃ビルの中へ連れ込むことに成功した。


(見た目は(いか)ついくせに、警戒心の方はさっぱりね)


 おかげで助かったわ――思わず口に出てしまったものの、もはや誤魔化す必要もなくなった。


「何のことだ?」

「――こういうことよ!」


 シアティは袖口から植物のツタを伸ばし、瞬く間にスケバンの全身を縛り上げた。


「ほう。よく分からんが、面白い手品だな」


 拘束されながらも冷静なのが(しゃく)に障る。


「それはどうも。鑑賞料として人質になってもらおうかしら」

「なるほど、目的は身代金か。残念だが、アタシは()(ぼう)(どう)ぴあ()じゃないんだ」

「知ってるわよ――!」


 シアティは怒りに任せてツタを引き寄せた――が、びくともしない。


「……なっ!?」

「キサマがやりたかったのはこれか?」


 スケバンがわずかに身を(すく)ませた途端、シアティの足は踏ん張りが効かなくなる。

 直後、引っ張り返されたと気付いた時には、目の前にコンクリートの壁が迫っていた。

 なすすべなく、激突。


「ぅぶべ……っ!?」

「警察に突き出されるか、アタシにボコられるか選べ。おすすめは後者だ」


 スケバンはツタを振りほどくと、ウィッグを投げ捨て、一歩一歩大股で近付いて来る。

 シアティは(きし)む身体を動かし、反撃に移った。


「人間(ごと)きが……軽々しく悪魔に命令できると思うな!」


 黒翼を生やして飛翔、天井を蹴って敵の頭上へと急降下を仕掛ける――が、接触寸前に足首を掴まれ、今度は地面へ叩き付けられた。


「ぉごほ……っ! な、何故……!?」

綾重(あやしげ)流合気柔術に死角はないからだ」


 流れるように組み伏せられ、腕関節を極められる。


「悪魔だか何だか知らんが、ぴあ()さんを騙そうとした罪は重い。誓え、二度と彼女に近付かないと。でなければ――」

「誰が従うもんですか…………くッ!」


 シアティは腕の骨を犠牲に、関節技から抜け出した。


「……!? 正気か?」

「あたしの能力は生体エネルギーの増幅。この程度のケガはすぐに治せるわ」


 現に、壁や床へ叩き付けられたダメージはすでに回復済みだ。

 この超常的な力を目の当たりにすれば、いかに思い上がった人間といえども、悪魔に刃向かったことを後悔するだろう――と思っていたのだが。


「そうか。すぐ治るならキツめにボコっても問題ないな」

「……え?」


 シアティは間もなく知ることになった――自分が今まで手加減されていたという事実を。



  *



 保健室前から撤退した(こと)()は、その足でマキナとともに校舎の裏山までやって来ていた。

 理由は先ほど()(なつ)から届いたメッセージにある。


(『自称悪魔とかいうイカれた女を連れて行く』……か)


 内容が内容だけに、マキナも同席してもらうことにしたのだ。


()(なつ)クンというのは、キミのバンド仲間だったね」

「ああ。もう一人のぴあ()って女を騙そうとした悪魔を取っ捕まえたんだとよ」


 実を言うと、先にぴあ()から相談を受けたのは(こと)()である。


 『芸能事務所? からこんなDMが届いたのですけど』

 『直接会いたいって? そりゃ胡散臭ぇな。即ブロ案件だろ』

 『ええ。でも、もし悪意でなかったらと思うと申し訳なくて』

 『誰かに確かめに行ってもらったらどうだ? 例えば()(なつ)とか』


 案の定、()(なつ)は想い人の頼みを二つ返事で承諾し、鼻息も荒く出かけて行ったわけだ。

 とはいえ、相手が悪魔というのは想定外だったが。


「ふむ……ところでその()(なつ)クンと、ぴあ()クンだっけ? どことなく百合の気配を感じるねぇ」


 マキナは眼鏡の奥で瞳をギラつかせている。妙な勘の鋭さに(こと)()辟易(へきえき)した。


「アンタなぁ……オレのダチを変な目で見んじゃねーぞ」


 一応釘は刺しておいたが、効果の程は怪しい。

 それはさておき、斜面に面した細道の向こうから、見慣れたスケバンの姿が近付いてきた。


 ()(なつ)は、ツタのようなもので両手を縛られたスーツ姿の女を連れている。連絡にあったシアティとかいう悪魔に違いない。


 開口一番、()(なつ)(こと)()が尋ねようとした言葉を先んじて口にする。


「早速で悪いが、事情を話してもらおうか」

「事情?」

(こと)()、お前が悪魔と戦っている理由だ。ぴあ()さんを巻き込みかけて、だんまりというわけにもいくまい」


 それを言われると気が(とが)める。(こと)()が切り出そうとしたのを止めたのは、マキナだった。


「まぁ、待ちたまえよ」

「誰だ? このコスプレおばさんは」


 初対面でひどい言い草だが、実際盗賊コスプレのままだし、本人も意に介していないのでよしとする。


(こと)()クンの雇い主さ。この子に悪魔退治を依頼しているのはワタシだよ」


 マキナは()(なつ)にこれまでの経緯を手短に語った。

 (こと)()をバイトに誘い、街にはびこる悪魔を倒して回っていたこと。

 学園に紛れ込んだレもんや不哀斗(ふぁいと)を懐柔し、七伯爵と事を構えたこと。


「七伯……コイツもそんなことをほざいていたな」


 ()(なつ)はシアティを(にら)みつける。改めて見ると、髪もスーツもボロボロで土ぼこりにまみれているが、外傷はなさそうだ。

 ただ、()(なつ)に対してひどく怯えている様子だった。


「ひいぃっ! あ、あたしは七伯とはいえ、ほんの下っ端ですので……」

「部下がいるとか言ってなかったか? 前に奥田部高(タベコー)を探らせてたって」


 おかげでピリピリしていた(こと)()とケンカになった――奇しくもこの裏山で――と、()(なつ)は怒りを露わにする。


「は、ハーちゃんは臨時バイトというか、野良の悪魔ですので、ど、どうか見逃してやってくださいぃ!」


 シアティはなりふり構わず、土下座で許しを請う。部下想いの健気な姿に、(こと)()は不覚にも(ほだ)されかけていた。


「……こう言ってるけど、どうするよ? マキナ」

「シアティクンとハーチャンが百合ならば許……」

「聞く相手を間違えた」(こと)()()(なつ)の方へ向き直る。「捕まえたのはお前だ。判断は任せるぜ」


 ()くして、シアティの処遇は()(なつ)(ゆだ)ねられた。


「アタシは――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ