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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第一章 忍び寄る魔爪、レモノーレの巻
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第3話 先輩のクラスに転校生だって?

【前回のあらすじ】

(まい)()「私のクラスにギャルな転校生がやって来ました!」

 (めい)治家(じや)(こと)()が在籍する2年G組では、一時間目の授業が行われていた。


「Kenji cried out without hesitation, "Sis Mio is my sunshine!".――では、この部分を誰かに訳してもらおうかな」


 英語教師が教室を見渡す()(なか)(こと)()のポケットの中でスマホが振動した。


(こんなときに……マキナか?)


『緊急連絡だ。至急返事をくれ』


 メッセージを確認するなり、教師からの注意が飛ぶ。


(めい)治家(じや)! 授業中はスマホの通信を切っておけ!」

「いえ、今のはオレの()の音ッス!」


 (こと)()は即答した。


「なっ!? へ……」

「あと、ウ◯コ漏れそうなんで便所行って来ます!」


 教師が面食らっている間に、(こと)()は堂々と席を立った。


「な、何て(おとこ)らしいんだ!」

「流石は(めい)治家(じや)さんだわ……!」


(マジのやつだと思われてんな……ヒーローはつらいぜ……!)


 クラスメイトから不本意な称賛を浴びながら、(こと)()はトイレへ直行した。




 個室に入るや、(こと)()はトークアプリを開く。


(授業抜けてきたぞ。何があった?)


『体育館で倒したドナツィエルという悪魔は憶えているね? 奴の仲間が報復に動き出したと、使い魔から報告があった。充分注意してくれたまえ』


 マキナからの警告は予想の範囲内だった。


(オレが狙われるのは構わねぇけどよ、間違えて他の奴が襲われたりしねぇだろうな?)


『可能性はゼロとは言えない。悪魔を素手で殴り殺せる女子高生がキミの他にいればの話だがね』


 そう言われると反論しづらい。気分は複雑だ。


(人を化け物みたいに言うなよ……っつーかお前、オレが強いっての見抜いてスカウトしたんだよな? そのメガネって悪魔の擬態以外も見分けられんのか? 例えば、戦闘力みたいなのとか)


『……まぁ、そんなところさ』


(ふーん。で、もし敵が襲ってきたら返り討ちにしてやればいいんだな?)


『そうとも。小瓶のスペアは持っているね? ワタシの到着が間に合いそうにない場合は、それで悪魔の霊質を回収してくれたまえ』


(分かった。善処する)


『連中の計画を阻止するためだ。健闘を祈るよ』


 やり取りはそこまでだった。

 マキナにしろ悪魔にしろ謎は多いが、乗りかかった船だ。今さら後へ引くつもりもない。


(悪魔の計画ねぇ……ま、ボコすついでに聞き出しゃいっか)



  *



(ふっふっふ……まずは計画の第一歩といったところかな)


 七伯爵の一角・レモノーレは金髪黒ギャル女子高生に(ふん)し、(おく)多部(たべ)高校への潜入に成功していた。


 元はといえば、同僚(ドナツィエル)が軽率にも召喚に応じたのが事の発端だ。

 伯爵級の悪魔を倒せる人間がいたのには驚いたが、幸いにも現場がこの学校の体育館だったことは判明している。


(あーしはあの単細胞とは違う。悪魔だと悟られることなく、スマートに脅威を取り除いてみせる。そのためには――)


「どうしたの? 頭痛いの?」


 隣の席の女子が顔を寄せてくる。人間どもの感覚でいうと、黒髪ロング清楚系アイドル風美少女といったところだろう。

 名前は鱧肉(はもにく)(まい)()


「ううん。授業の内容思い返してただけ」

「えー! レもんちゃん、あれが理解できるんだ! すごーい!」


 バカにしているのか?――と思ったが、態度に出すのはまずい。今のレモノーレは転校生「怒狸(どり)(あん)レもん」なのだ。表面上は友好的に振る舞わねば。


(この娘がドナツィエルを消し去ったとは(にわ)かに信じ難いが……)


 初めてこの教室に入った時から感じていた。(まい)()からは悪魔が嫌う神聖な気配が(かす)かに漏れ出ている。

 できることなら、先に正体を突き止め、化けの皮を()いでやる。とどめを刺すのはそれからでも遅くはない。


(まい)()ん、分からないところあったら、あーしが教えてあげよっか?」

「ありがとう! でもやめとくー。勉強大っっっ嫌いだし!」


 何を言っているんだ、この()(ほう)は――と思ったが、やはり顔に出してしてはいけない。


「で、でも、公式とか憶えとかないと。中間テストもうすぐだよ?」

「多分何とかなるよー。今までだってそうしてきたもん」


 こいつ、張り倒されたいのか?――と思ったが、以下同文。


「おっけー。(まい)()んを信じる。でも、もしヤバいなって思ったときは、あーしのこと頼ってくれていいかんね?」

「分かったー。私にこんな優しくしてくれるの、レもんちゃんと(こと)()ちゃんぐらいだよー」


 輝くばかりの笑顔はまるで天使――忌々(いまいま)しい神の使いのようだ。中身は愚鈍で怠惰なゴミ人間だが。


「大袈裟だし。ところでその(こと)()ちゃんって、このクラスの子じゃないよね?」

「うん。一緒にお昼とか食べてる……」

「あー、軽音部の後輩の子ね」


 もしかすると、部活中なら(まい)()も隙を見せるのではないか。そうは思ったが、部室にまで付きまとうのは、自ら怪しまれに行くようなものだ。


(……もう少し慎重に様子を見るか)


「そうだ、そろそろ部活行かないと。またね、レもんちゃん」

「ん。じゃあね、(まい)()ん」


 ターゲットに別れを告げると、レモノーレは素早くジャージに着替え、活動を開始した。


(さて、あーしも自分の仕事に取りかかるとしよう。まずは黒板を綺麗にして、次に学級日誌を書いて、花瓶のお水も取り替えて……っと)


 授業に加えて日直、委員会活動など、やるべき仕事は山積みである。これも生徒たちの中に上手く溶け込むのに必要なことだ。


(それから、学級花壇のお世話もしなければならんな。まったく……人間どもめ、受験だ何だと理由をつけてサボりおって……)


 ジョウロとスコップを両手に、レモノーレは放課後を忙しく過ごす。一見遠回りだが、これこそが深遠なる計画実現の近道なのだ。


(そういえば深遠なる計画って何だっけ? ……まあいい。見ていろ、人間ども! 手始めに花壇を綺麗なお花でいっぱいにしてくれるわ! アーッハッハッハ!!)



  *



 水曜日は部活が休みなので、(こと)()(まい)()は別に会う機会を設けようと約束をしていた。

 週に一度、二人でのランチタイムだ。


 今日は屋上で食べよう、と言い出したのはどちらからだったか。


「ダメぇー。開かないよー」


 扉の前で立ち往生する(まい)()と、(こと)()はすかさず入れ替わる。


「やっぱ鍵かかってんスかね――……あ、開きましたよ」

「今バキッて音しなかった?」

「き、気のせいッス。どうぞ先輩、先行ってください」


 ひしゃげたドアノブを背中に隠しつつ、(こと)()(まい)()に続いて屋上へ出た。


(正真正銘二人っきり……メシ食い終わったら、今日こそは先輩に想いを告白してやるぜ……!)


 (こと)()のハートは恋の決意に燃えていた。

★レもん イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093082180502331

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