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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第三章 我こそは最弱、魅惑のソラオクの巻

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第24話 バンドリーダーの熱情

【前回のあらすじ】

(こと)()「ぴあ()合格で一段落したオーディションに、アイツが遅れてやって来た!」

 あの日と同じ、セーラー服にくるぶし丈のスカートで入室してきた()(なつ)に、ネル部長は手招きをする。


「おぅ。ここじゃ、SK(エスケー)

SK(エスケー)って、お前のことかよ!?」


 驚きを発した(こと)()には目もくれず、()(なつ)はある人物のもとへ一直線に向かっていった。

 立ち止まったのは、ぴあ()の前。


「あら、あなたは……」

「ま、また会えましたね~。いや~、気晴らしにドライブしてたら、この近くでオーディションがあったな~と思い出しまして……ちょっと(のぞ)いてみようかな~と来てみたら、こんなところで再会できるなんて……ほ、ホント奇遇ですね~」


(おいおい……いくら何でも無理があんだろ!)


 (こと)()は全力でツッコミたくなる気持ちを抑え、()(なつ)に接近する。


「一応聞くけどよ……オレのことは憶えてるよな?」

「おや、アナタは(めい)治家(じや)(こと)()さんですね。その節はどうも」

「気色悪ッ! すんません、コイツ一旦借ります!」


 (こと)()()(なつ)の後ろ襟を引っ掴んで、廊下まで引きずり出した。


「おい、テメェどういう了見だ!? オレは何も聞いてねーぞ!」

「アタシだってキサマが参加してるとは聞いてない! アタシはただ、お嬢がここにいると知って飛んで来ただけだ!」


 ()(なつ)が見せたスマホには、ネル部長が送ったと(おぼ)しきオーディション風景が映っていた。控えめなスナップショットだったが、一人だけドレスアップしたぴあ()の姿は否応なしに目立っている。


 ()(なつ)が恋い焦がれる「お嬢」とは、(まい)()を付け狙うぴあ()のことだったのだ。


(だとすると……コイツを望みどおりぴあ()とくっけちまえば、自動的に先輩から遠ざけられるってわけだな!)


 (こと)()の頭の中で全てが(つな)がった。


「……分かった。オレが協力してやるから、お前はこのままオーディション受けろ」

「キサマ、何を(たくら)んでる?」

「た、企んでねーって! 拳で熱く語り合った仲じゃねーか!」


 (こと)()は無理矢理()(なつ)と肩を組んでスタジオへ戻る。

 中では、(まい)()()(げん)な面持ちで待ち構えていた。


「もしかして、こないだ(こと)()ちゃんがケンカした他校生って、その人?」

綾重(あやしげ)()(なつ)です……あっ、今は仲良くさせてもらってるのでご安心を」


 ()(なつ)が顔を向けた先には、ぴあ()の眼差しがあった。


「まぁ。二人はお友だちでらしたのね。息の合った演奏、期待しておりますわ」

「……! ま、任せてください!」


 自前のスティックとフットペダルを手に、()(なつ)はいそいそとドラムセットへ向かう。セッティングも手慣れたもので、速やかに準備が整った。


「ほいじゃあ始めるでー」


 ネル部長がノートPCから音源をスタートさせる。クリック音に合わせて、(こと)()がベースイントロを弾き始め――と、ここまでは今までどおりだった。


 ()(なつ)のドラムが入った途端、ズッコケそうになった。バタつくツーバス、裏返るアクセント、そもそもリズムが激しく乱れている。


 (たま)らず(まい)()が演奏中止の合図を出した。

 唖然と立ちすくむぴあ()を見ていられず、(こと)()はドラムセットまで大股で歩み寄っていく。


「おい、テメェ! ふざけ……」

「も、もしかして、ほ、本番、は、始まってます……か……?」


 明らかに様子がおかしい。マスクから(のぞ)いた()(なつ)の両目が、ぴあ()の方を落ち着きなくチラ見している。

 (こと)()は瞬時に察した。


(コイツ……好きな女の前で緊張(アガ)ってやがる……!)


「どうしたんじゃ?」


 ネル部長がそばまでやって来るが、(こと)()は他人の恋愛事をバラすわけにもいかず、()(なつ)とぴあ()を交互に見やることしかできなかった。

 だが、それで部長も悟ったとみえ、


「よいよ……」溜め息一つ。「SK(エスケー)・バーン!」

「はいぃっ!!」


 鋭い叱咤の声に、()(なつ)はピンと背筋を伸ばす。


「おどれはワシの背中だけ見ちょりゃええんじゃ」


 ネル部長はマイクを引っ掴むと、メンバーの真ん中へ堂々と陣取った。前後して、アイコンタクトを交わした(まい)()が音源をリスタートさせる。


 イントロ明け、(こと)()は早くも変化を察知した。


(……! これがコイツの本領か!)


 ()(なつ)のドラムは見違えるように安定していた。単に正確なだけではない、華やかでキレのあるフレージングに耳を奪われそうになる。


 それも束の間、ネル部長が歌い出したのを境に、スタジオの空気は一変した。


(部長の生歌……スゲぇ……!)


 仮歌を吹き込んでくれたのと同じ人物とは思えなかった。何度も耳にしたはずのハスキーヴォイスが勇ましくも(なま)めかしく、そして生々しく耳朶(じだ)に絡み付いてくる。


 聴き惚れているうちに、曲はいつしか間奏へ移ろうとしていた。ネル部長の招きに応じ、ぴあ()がヴァイオリンで飛び入りする。

 まるで、始めからそう打ち合わせていたかのように。


(……あぁ。オレたち、今マジでバンドやってんだ)


 (まい)()と目線を交わし、微笑み合う。同じ気持ちだったら、きっと幸せだ。


 初めて一堂に会した五人での演奏。皆の鳴らす音が噛み合う、得難い快感が脳髄を刺激する。身体中が熱い。汗ばむ手を必死に律して、指板の上に踊らせた。


 そうして、(こと)()の人生で最も長い七分間は幕を閉じた。



  *



「それで、ドラムの子はどうなったんだい?」


 話の先を促すマキナ。格好は本人お気に入りのファンタジー魔女スタイルだ。家族連れも多い休日のフードコートにあっては、(いちじる)しく浮いている。


「どうもこうもねーだろ。合格だよ」


 昨日の出来事を脳裏に思い浮かべながら、(こと)()はマスタードまみれのアメリカンドッグにかじり付く。


「それはよかった。バンド結成おめでとう」

「どういたしまして」

「いやぁ、(こと)()クンが高校生らしい青春を満喫していてワタシも嬉しいよ」


 その言葉に嘘はないのだろう。マキナは笑みを絶やすことなく、フライドポテトを口に運んでいる。


「何であんたが喜んでんだよ。親戚のオバハンか」

「気分的にはそんなものさ。おそらく、のべ十年分ぐらいはキミのことを見守っているわけだからね」


 また訳の分からないことを言い出した。面倒なので、(こと)()はいつもどおり適当にあしらった。


「そりゃご苦労さん。ま、ちゃんとバイトも続けるから心配すんな……」


 (こと)()が言いかけたところへ、マキナが使い魔の念波を受信する素振りを見せた。


「おっと、噂をすれば。早速バイトの時間だよ」


 およそ半月ぶりの悪魔発見。(こと)()たちはそれぞれの食べかけを直ちに胃袋へ収め、現場に急行した。



  *



 悪魔は繁華街にいた。女性ばかりを狙ってぶつかり行為を繰り返していた中年男だ。


「オラァ! 観念しろやァ!!」


 (こと)()はマキナを置き去りにする勢いで、悪魔を路地裏へと追い込む。

 そこに先客がいるとは思いもしなかった。


「――やれやれ、騒がしいことだ」


 若い男の声だった。その人影は悠然と中年悪魔に近付き、胸元に指先を突きつける。

 直後、悪魔は粉々になって爆散した。


(……! あいつ今、何をした……!?)


 (こと)()は立ち止まり、声の主の姿に目を凝らす。

 いかにも高級そうなスーツに靴、髪型もバッチリと決めたホスト風の男だった。


「フッ……この辺りの悪魔も狩り尽くしてしまったな」


(まさか……同業者か――!?)

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