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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
第三章 我こそは最弱、魅惑のソラオクの巻

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第20話 バス停、楽器ケース、一目惚れ。

【前回のあらすじ】

(こと)()「オーディション参加第一号は……ぴあ()お嬢様だと!?」

 放課後の屋上にはいつメン三人が揃っていた。


「やってくれたな……あの編集長」


 学校新聞にデカデカと載った写真を見て、レもんは嘆息(たんそく)する。不覚だ。戦いに夢中で撮影に気が付かなかったとは。


「ごめんね。私が最終確認しなかったから……」

「先輩のせいじゃないッスよ! とりあえず注目はされてますし、メンバー集まるのを期待しましょう!」


 (こと)()の励ましで(まい)()も前向きさを取り戻していた。それがレもんにとってもかろうじて救いではある。


(こと)っちは切り替えが早いな。編集部に殴り込みまでかけたわりに」

「やられっぱなしじゃ(しゃく)だかんな。奴らには色々情報も頂いてきたんだよ。校内の動き――例えば、最近怪しい転校生来てねーか、とか」


 不哀斗(ふぁいと)に続いて名乗りを上げそうな男に、レもんは見当がついていた。仮にも前の職場のことなので、口に出したりはしなかったが。


「……そうか。ま、油断するなよ」

「しねーよ。ここんとこザコ悪魔と遭遇してねーし、逆に何かあると思うんだよな」


 (こと)()は意外と勘が働く。この分ならば次の相手にも(おく)れを取ることはなさそうだ。


(……だといいんだけどな)


「っつーかお前、いつまで先輩のスマホいじってんだよ! こっそり自分のスマホに先輩の写真転送したりしてねーだろうな!?」

(こと)っちと一緒にすんな! はい、(まい)()ん。課題曲の演奏動画上げといたよ」


 レもんは(まい)()に預かっていたスマホを返した。


「ありがとう、レもんちゃん」

「助かるぜ、マネージャー」


 調子よく口を挟む(こと)()


「あーしはマネージャーになった覚えは……」

「おぉっ! サムネの先輩、激カワじゃねーッスか! 複アカ1000個作って評価押しまくるか!」

「やめろォ!! 即バレ炎上させたいかぁっ!!」


 これだから脳筋バカは野放しにしておけないのだ。レもんは(こと)()を制しつつ、再び動画に目を落とす。


「にしても……素人目だけど、この曲ちょっと難しくない?」

「先輩の技術(テク)について来れる奴じゃねーとメンバー務まんねーだろ」

「例の候補者第一号は?」


 何の気なしに尋ねるや、(こと)()は途端に頭を抱えた。


「音楽的には多分問題ねぇ……んだが、何でアイツ加入する気満々なんだよ」

()(ぼう)(どう)ぴあ()、だっけ?」


 その名に真っ先に反応したのは、意外にも(まい)()だった。


「廊下ですれ違う度私のこと(にら)んでくる人?」

「何っ!? まさか、ぴあ()のヤツ……先輩を狙ってたのか!?」


 (こと)()の斜め上な解答に、レもんは盛大にズッコケた。


(こと)っちって結構ニブいよな……」

「るっせーな! 今気付いたんだよ!」

「全然気付けてな……ま、いいか」


 三角関係に首を突っ込むのは御免だ。またゴシップ記事のネタにされては(たま)らない。


「はぁ……部員さえいりゃ募集なんてしなくて済むのによぉー」


 ため息混じりに(こと)()は言い放つ。

 確かに、それは外野からしても疑問だった。軽音楽部といえば、普通は人気の部活動だろうに。


奥田部高校(タベコー)の軽音部って、何で人少ないの?」


 レもんは率直に問いかけるも、(こと)()たちは揃って言い(よど)む。


「それは……」

「新歓で部長がやらかしまして……」


 (まい)()は苦笑いを浮かべたまま、動画の再生ボタンをタッチした。



  *



 講堂に沢山の生徒たちが並んでいる。


 『新入生歓迎会』の横断幕が張られた壇上では、ちぐはぐな服装をしたバンドメンバーたちがグラインドコアを演奏していた。

 響く轟音。唸る咆哮。この時点でオーディエンスはドン引きであった。


 ネルシャツを羽織ったギターヴォーカルの女がマイクに向かって叫ぶ。


『おどれらぁ!! 半端な覚悟で軽音部来てみい……皆殺しにしちゃるけぇのぉ!!』


 突き立てた中指が新入生たちの心にとどめを刺したのが、スマホの画面越しにもありありと(うかが)えた。




「話には聞いてましたけど、随分とはっちゃけましたね……ネルさん」


 テーブルを挟んで座る当人は、涼しげな目元を緩ませコーヒーを傾けている。ステージ上と同一人物とは思えぬ(たたず)まいだ。


「ほうじゃのぅ……ワシが停学なったんは自業自得じゃけど、入部者ゼロはしんどいわいのぅ」


 そのショックでドラマーが脱退、他校生の自分が助っ人に誘われたわけだ。バイト先のライブハウスで結んだ奇妙な縁である。


「でも中途入部者もいるそうじゃないですか。これから増えていきますって」

SK(エスケー)は優しいのぅ。ほいじゃのにワシらん都合でバンド解散なってしもうて、ほんま申し訳ない」

「そんな。短い間でしたけど、ネルさんと()れて楽しかったです」


 テーブル越しに頭を下げ合う。横目に見た窓ガラスが、ポニーテールにセーラー服、黒いマスクを着けたスケバンの姿を反射していた。

 SK(エスケー)・バーン――それが自分のステージネームだった。


 そして対面に座るのが、ネルシャII(ツー)(おく)多部(たべ)高の軽音部長である。

 バンドの他のメンバー――ケミカルウォッシャーとザ・バッシュ――が受験のため脱退し、今日SK(エスケー)もお役御免となるはずだった。


「ほいで早速なんじゃけど、ウチの部にオモロい子ぉらおってのぅ」

「もしかして、昨日上がってた演奏動画の?」

「はぁ見とったん? 話早いわぁ」


 ネルが顔を(ほころ)ばせる。この時点でSK(エスケー)には話の筋が読めていた。


「バチクソ上手いですよね」

SK(エスケー)はプログレメタルもイケるんじゃろ? もしよかったらオーディション受けてみん?」




 喫茶店を出たSK(エスケー)は家路を歩き出していた。


 正直、申し出を受けるのは気が進まない。前のバンドに参加したのは、ネル本人のカリスマ性に()かれたからなのだ。


(ドラムさえ叩けりゃいいってわけじゃないんだが……)


 通りがかったバス停の前に、ちょうどやって来たバスが停まる。

 開いた降車口の奥から、不意に女性の声が上がった。


「あっ! わたしくはまだ降り……」


 何かがぶつかる音とともに転げ落ちてきたそれを、SK(エスケー)は思わず滑り込んでキャッチする。


(楽器ケース……?)


「ごめんあそばせ」その女生徒はSK(エスケー)のそばへ降り立つと、「助かりましたわ。お礼を受け取ってくださいまし」


 ケースと入れ替わりに何か平たいものを手渡し、すぐさまバスへと引き返して行く。


「では、ごきげんよう」

「あ、はい」


 間の抜けた返事を返すSK(エスケー)の前で、バスは悠々(ゆうゆう)と走り去って行った。


「…………」


 ほんの十秒ほどの出来事を、SK(エスケー)はつぶさに思い返す。

 初夏の風になびく赤い髪。ほのかに漂うゼラニウムの香り。上目遣いのエメラルド。(おく)多部(たべ)高校の制服。

 凛とした声。細くしなやかな指と、その柔らかな感触。


(マジ、かよ……偶然出会ったばっかで、こんなこと…………!)


 バス停に立ち尽くすSK(エスケー)の胸の中で、麗しきお嬢様への想いは止めどもなく(ふく)らんでいくのだった。

SK(エスケー)・バーン イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093086571608994

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