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雅致(ガチ)百合学園トンデモニウム  作者: 真野魚尾
最終章 三千世界の悪魔を降(くだ)し……の巻

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第84話 魔王竜の腹心

【前回のあらすじ】

(こと)()「魔王の一撃からオレを救った聖剣の主は……もう一人の母ちゃんだと!?」

 (こと)()は今一度、自分の置かれた状況を振り返る。


 シアティの行方を探す途中で、あろうことか魔王エムロデイと遭遇した。(こと)()は全力で挑んだものの歯が立たず、絶体絶命の危機を救われたのだ。


 聖剣ブルクミュールを手にした救い主の名は伊瀬(いせ)(がい)(ゆう)()――(こと)()が生まれる前に「失踪」したはずの、もう一人の母親に違いなかった。


「マキナの奴か。自分は異世界に帰らず、あんたをこっちに召喚したんだな」

「察しがいいな。流石は(かず)()の娘だぜ」


 (ゆう)()の反応を見るに、(こと)()の事情はマキナから伝わっているようだ。


「理解したついでに、この場は母ちゃんに譲っちゃくれねぇか?」


 聖剣の切っ先が、苦痛に(うめ)く巨大な魔王竜を指し示す。


『我が鱗を断つ聖剣……貴様、滅魔の勇者に相違ないな?』


 エムロデイの問いかけに、(ゆう)()の横顔が無言で微笑んで見せた。


 (こと)()は確信した。以前の戦いで無意識に振るった剣技は、この母親由来のものであると。その(つな)がりがどういうカラクリなのかまでは理解しかねるが。


「オレは……」


(おご)るでないぞッ、人の子風情がッ!!』


 エムロデイがその巨体ごと襲いかかろうとした刹那。

 (ゆう)()(こと)()を片手で抱き上げ、相手のはるか頭上へと瞬時に舞い上がる。直後にもう片方の手で聖剣が振り抜かれ、斬撃を真下へ投射した。


 片翼を斬り裂かれたエムロデイが、地響きを立てて横転する。その様子を尻目に(ゆう)()は悠然と着地し、(こと)()を地面に下ろした。


「親子水入らずを邪魔すんじゃねっつーの。(こと)()、ケガはねぇな?」

「……悔しいけど、ここはあんたに任せるよ。オレは自分の力にまだ自惚れがあったみたいだ」


 うつむく(こと)()の肩を、(ゆう)()の手が優しく叩く。


「いや、お前は俺なんかよりも立派だよ。いきなり割り込んできたオバハンに見せ場奪われるなんて、俺だったらキレ散らかす自信があるぜ」

「そこまでは思ってねーけど……その代わり教えてくれ。マキナは今どこにいる?」


 (こと)()は無理にでも気持ちを切り替えようと努めた。仲間たちの安全のためにも、私情は後回しだ。


「マキナなら魔王の取り巻きどもを足止めに向かったよ」

「掃討部隊のことか」

「呼び名までは知らねーが、その様子だとお前たちも手を打ってあったようだな」


 (ゆう)()は感心したように目を細めた。(こと)()の心が少しだけ軽くなる。


「ああ。ただ、オレが動き出した矢先にシアティって仲間が行方知れずになっちまった。探しに行く途中でこのザマだ」

「そうか。あいにくそれらしい奴は見かけてねぇな」

「不死身の悪魔だから無事でいてくれるとは思う。とりあえず心当たりを順に回ってみるよ」

「そうしてくれ。途中でマキナにも会えるだろうよ」


 (ゆう)()がいつこの世界へ戻ってきたのか、(かず)()にはもう会ったのか、本音を言えば、(こと)()には尋ねたいことが山ほどあった。

 だが、これ以上ぐずぐずしてはいられない。


「……母ちゃんよ」

「何だ? (こと)()

「最後に一つだけ伝えておく。この分じゃ頼る事態にはならねぇと思うが――」


 (こと)()(ゆう)()に耳打ちしてから、その場を走り去った。



  *



 親子再会の感慨に浸る暇もなく――。

 (こと)()はシアティから聞いていた隠れ家へとたどり着く。


 外から見れば平屋建ての一軒家。引き戸は閉まっていたが、鍵が開いている。

 屋内は打って変わって、フロアタイルが敷かれたオフィスのような造りになっていた。


「シアティ! いるなら返事しろ!」


 応答はない。(こと)()は気を引き締めて家の中に踏み入る。


 奥の部屋は照明がついたままだった。

 デスクの上のノートPCは叩き壊され、床にはへし折られたスマホが転がっている。誰もいない室内にファンヒーターの稼働音だけが虚しく響いていた。


(犯人は一体どこのどいつだ? 何か証拠になるものは……)


 キッチンやバスルームも(のぞ)いたが、ほかに荒らされた形跡はない。


(この部屋だけピンポイントで襲撃されてやがる。ってことは――)


 七伯爵しか知らないアジトの構造に通じる者。自然、条件は絞られる。


 ドナツィエルは最初に体育館で叩きのめした。

 レもん、ミナ、不哀斗(ふぁいと)は味方側に引き入れた。

 頭目のラッパースは夏合宿の浜辺で討ち取った。

 そして捜索中のシアティ、これで六人。


(〝七〟伯爵だとすりゃ、残りの一人がどっかにいるはずだ)


 犯人の目星はついたものの、(こと)()には手がかりがない。レもんたちに確認を取りたいところだが、先ほど送ったメッセージさえも未読のままだ。


(全員交戦中か。となりゃ直接聞きに行くしかねーか)


 最寄りの地点を地図アプリで確認する。ここからだと不哀斗(ふぁいと)とマヨミノ姉妹の持ち場が一番近い。加勢するついでに聞き出すのが得策だろう。


 (こと)()は家を飛び出し、一直線に三人の居場所を目指す。

 急ぐ足取りが野原へと差しかかって間もなく、大きな(くぼ)みが複数目に飛び込んできた。


(何だ? この段差……いや、この形は……)


 ドラゴンの足跡――紛れもなく魔王エムロデイのそれだ。この近辺に立ち寄ったのは間違いない。

 しかし、(こと)()の注意を引いたものは別にあった。


 足跡の近くに派手な男物のスーツが落ちていた。そう、まるでホストが着ているような。


(こいつは……ずっと前にフリマで売っ払ったスーツじゃねぇか!)


 裏地に刺繍された「ソラオク」の文字が、(こと)()の記憶と合致していた。



  *



 (こと)()を見送った(ゆう)()は、起き上がった魔王竜と対峙していた。


(『切り札』ねぇ……(かず)()もこの戦いに一枚噛んでたか。巻き込みたくはなかったんだが)


 聖剣を構え直す。隻腕・片翼のエムロデイだが、未だ殺気は衰えていない。


(こと)()が後の禍根ならば、貴様は目先の障害にほかならぬ。是が非でも今ここで葬り去ってくれよう』


「そこまでして人間界が欲しいもんかねぇ。どこの世界でも魔王ってのは強欲なんだな。まるで大喰らいの獣だぜ」


 (ゆう)()が吐き捨てると、エムロデイが(わら)った――ような気がした。


『……余の子飼いに大喰らいの虫螻(むしけら)がいた』


「いきなり何の話だ?」


『大気中の魔力を吸って生き(ながら)える(のみ)の如き存在よ。()れど、己より弱き悪魔であれば身ごと吸い尽くし、成長の糧と(あた)う面白き力の持ち主でもあった』


「そりゃ随分とコスい能力だな。けど、自分より強い悪魔には効かねぇんだろ?」


『左様。強者に対し使えば、逆に力を吸い上げられる。()してや、余が如き絶対者ともなれば――』


 ()(ぜん)、エムロデイの気配が膨れ上がる。(ゆう)()の目の前で、竜の巨腕が、大翼が見る見るうちに再生していった。


「テメェ……余裕の正体はそれかよ」


『実に良き供物を捧げてくれたものだ――〝最弱の〟ソラオクよ』

※ソラオクの件は第三章・第25話にて。

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