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第9話 ダチと一杯ひっかけて

「私も血を売ろうかしら。お金になるのよ」


「ええっと、なんだ。これは興味本位で聞くんだが、あの子はどういう能力の持ち主なんだ?」


「空間を操る魔法使いよ」


「なんだって」


小僧や先生も、この世界数百万の魔法使いの中でもほんの一握りの最強クラスの魔法使いではある。

彼らに勝てる魔法使いは両手で数えられるくらいだろう。

ミリーはそのうちの一人にもなりうるだろう。

もっとも、それはお互いに悪魔の力を借りなければの話だが。


「ミリーはマフィアとつながりか。なんか心配だなぁ」


「すっかりこの家の一員みたいになったわね。でも心配するだけならだれにでも出来るわ」


「なにっ」


「心配してくれるなら少しは私たちの役に立ってってことよ。わかるでしょ?」


「ううむ」


確かに、そうであると小僧は思った。

このまま放置すればミリーたちはマフィアとの繋がりを保ち続けるしかあるまい。

口先では何とでもいえる。心配することだけならだれにでもできる。

だが、それではこの家の子供たちの役には立たない。


「どうすればいい?」


「そうね。まずは私の男除けになってもらおうかしら。あなた、よく見ればいい男だわ」


「だろ?」


「それと、確かそろそろあの子がお金を持ってきてから一か月くらい経つのよね。

あの子に話を聞いてきて。私もそれを売れば多少はお金も浮くかもしれないからね」


「あんた今まで話を聞かなかったのか?」


「聞けないわよ。あの子は私と似ているから」


「似ているって……自分の身を犠牲にしがちなところとか?」


「まあ、そうかもね。その方が楽なのよ。私にはわかるわ。

ミリーにはほら、男の子と恋愛するとか……そういう人並みの幸せをつかんでほしいわ。

でもあの子の力は他とは次元が違う……そんな風に生まれついてしまったら道は一つよ。

その力を少しでも誰かのために分け与えるの。あと、もう一つ」


「なんだ?」


「あなたここを死神騎士団から守ってくれたでしょう。それは本当に感謝しているわ。

でもね。そもそも騎士団がここへ攻めてきたのには理由がある。

ここに"魔女イザベル"をも超える魔女の器がいると知っているから来たのよ。

それにイザベルの拠点自体もすぐ近くにあるし。

それとも……あなたもその情報をつかんでここへ来てくれたのかしら?」


「……さあな。覚えがない」


小僧は声のトーンを落として本音を答えた。


「そう」


セラから色々状況を聞かされ、現況を理解した小僧は、何故自分がここにいるのか考えた。

むろんこれは夢である。また、何故かそばにビビもいるのだが、それもまた夢であろう。

そしてなぜこのような夢を見ているのかといえば、それは自分の記憶の一部を寝ている間に思い出し始めているということであることは、明白だ。

つまり自分がこのようにセラのところで寝泊まりしたことがある、というのは過去に起こった事実だ。


細かいところは事実と記憶で多少は食い違うかもしれないが、基本的には事実と変わらないだろう。

であれば、この後の展開もなるようにしかならない。すべては事実。過ぎ去った過去のことなのだ、と小僧は結論付けた。


「男除けは約束できないが、あの子に話を聞くのは了解した」


「わかったわ」


話を切り上げた小僧は寝室――普段は客間らしい――に戻った。

ビビとミリーは年の近い子供同士何かウマでも合うのだろう。

小僧が戻ると、二人は何やら話をしているところだった。


「よう。ミリー、お前どこで血を売っているんだ?」


「領主様のいるとなり町……です」


「そうか。俺とビビもついていくぞ」


その後の話はカット多めでいくとしよう。

三人はこの日、小僧の強い要望もあって朝からミリーと一緒に隣町へ行くことになったのだが、家を出る直前にビビはミリーを呼び止めた。


「そんな荷物で大丈夫? 隣町って言っても結構歩くと思うけど」


確かに。ミリーはほぼ手ぶらに近い。食料や水なども持っていく様子はない。


「大丈夫。私、瞬間移動できるし」


「なにっ」


「才能の差に涙でそうですよ」


「気にすんなってビビ」


と小僧はビビの肩に手を置いた。


「しかしすごいなミリーは。

セラから聞いてはいたが、空間系の魔法使いは過去数千年においても片手で数えられるくらいしか生まれてないと聞くぞ」


「そうらしいですね。ミリーちゃんすごいね」


「二人もつれていくね。ここよりずっと都会なんだから。

あ、でも二人は領主様の町どころか帝都なんかの大都会にも行ったことあったりするかな?」


「俺は帝都行ったことあるぞ!」


「へえー、うらやましい。やっぱり帝都には憧れちゃうなぁ。

私、母先生マトロンとは違うから」


「セラは自分とミリーは似てると言ってたけどね」


「あの人は変わってると思う」


「まあ、そうだな。彼女の自己犠牲にも呆れたものだ。

もう少し自分中心セルフィッシュになってもいいかもな」


「私もそう思う。もし私がダンナさんの遺産を手に入れたら……帝都に住んでいっぱいおしゃれしたり買い物するんだ」


「それはそれは。お金のかかりそうなお嫁さんだな。

じゃあ俺たちを隣町に連れてってくれよ。

飯も食わせてもらったし家にも泊めてもらったんで、借りがあるんだ」


「そういうことなら。お兄さんたちも強力な魔法が使えるんでしょ」


「まあ僕たちミリーには及ばないけどね」


「そんな謙遜しなくてもいいのに。じゃあ行こうか……魔法屋さんにいくんでしょ?」


「ああ。魔法屋には興味がある。そうだろビビ?」


「ですね。男を女に変える……もしくはその逆の魔法が売ってたら買いましょう」


「ああ。お前のも悪くない値段で売れると思うぜ」


「しゅっぱーつ!」


さて、話は別のところに少しの間移ろう。少しだけだ。また戻ってくる。

小僧とビビが眠っているころ、深夜だというのに先生とセルフィは町の深夜でもやっている飲み屋のカウンター席に肩を並べて座っていた。


もっとも、先生は背が小さく身長一メートル五十センチメートル強。

セルフィはそれより十五センチメートルほど背が高いので肩を並べてという言い方は少々語弊があるのだが。


「飲みに誘うとはなかなか殊勝な心掛けじゃのう」


と先生が言うと、隣のセルフィは恐縮してこう答えた。


「大事な話があったもので。いくつか確認したいことがありまして」


「シンファミリーのことかのう?」


「はい。どうやら私に会いに来たわけではなさそうですからね」


「お前に小僧はなついておるようじゃ。あいつは年上の女が好きなのかのう」


「見かけ上は……ですけどね。私のが遥か年下です」


「実のところ半々くらいじゃな。シンファミリーをつぶせとの依頼を受けたから来たにすぎぬ。

連中の本拠地であるこの街に遺体の反応があったので、それも取りに来たのじゃが」


「そうなんですね。遺体を取りに来たなら仕方ないですねぇ」


「私とお前はよく似ておる。それじゃから三十年ほど前にお前の力になってやったのじゃ。

私はアクセルを、お前も人間だった頃の子供らが心配で未だに……?」


「はい。もう一つ確認したいのは、アルバートのことです」


「アルバート……?」


不思議そうに先生が首をかしげた。セルフィはすぐ訂正した。


「三十年前、彼はアルバートと名乗っていましたから。本名はアベルだと聞きましたけど」


「夢のことか?」


「ええ。不思議な夢を見たと。夢といえばあなたの能力と何か関係が?」


「そうじゃのう。夜を生きる私と夢の世界は、そう……切っても切れない関係じゃな」


「はぐらかさないでください。つまり、彼に夢を見せたんですね。記憶を呼び起こすように?」


「そうじゃな」


「それで……私が聞きたいのは、どっちなんでしょう」


「おかしなことを言うのう」


「なぜあなたは実の息子に過去のことを教えないのでしょうか。

それとも、なぜ今になって突然過去のことを思い出すように仕向けたのか……?」


「ふむ。面白い質問じゃな。おっ、料理が来たぞ」


先生はセルフィの話を聞く気自体はあるが、マイペースである。

普段小僧のペースに合わせがちなので、逆にセルフィには自由にふるまっているのかもしれない。

カウンター席の二人の前に料理が運ばれてきた。


お酒というのは利尿作用があり、普通は飲むと余計にのどが渇く。

尿を出す際には体内のミネラルや塩分も出て行ってしまうため、ふつう、それらを体は欲する。

お酒を飲むと塩気がきいてるものが欲しくなるのはそのためであるという。

二人も例にもれず、この飲み屋の人気メニューを注文していた。


港町ということもあり、一番人気は魚のあら汁に近いスープ料理だ。

海鮮の出汁が染み出たスープに野菜と炒めて香りを閉じこめた香油がとろりとかけられ、黄金色に輝いている。


「ムッ!」


「どうかしました?」


先生は皿が出てくると、顔をしかめてこれをにらむ。


「私はニンニクが苦手じゃ。この香油はニンニクを炒めて香りを出しておるな」


「あはは、吸血鬼の血を引いてますもんね」


「半分だけな」


「わかりました。そっちも私が食べます」


「すまぬ。私は普通のやつを頼もうかの」


先生は冒険はせず、鉄板に近いメニューを頼んだ。

粗びき胡椒を振って塩辛く味付けした腸詰をこんがり焼いた料理と、同じく塩気がきいたチーズとジャガイモをソテーして粗びき胡椒を振ったものだ。

まあ、おおよそこの帝国のどこの居酒屋に行ってもまず外れはない鉄板メニューだ。

おおむねこの国の庶民は、冬は腸詰や漬物など保存食、それ以外はいっつもジャガイモかパンを食べているものである。


ほどなくして二人は酒を片手に、脂っこくて塩気のきいたつまみを味わいながらまた話し出した。


「ううむ、ガーリックは嫌いじゃがそれおいしそうじゃのう」


「替えっこします?」


「なんだかおねだりしたみたいで卑しいかのう?」


「そんなことは。どうぞ、私は交換で腸詰めもらいますね」


「どうぞなのじゃ」


などと女二人でスープに入ってたホタテの身と腸詰めを交換して味わった二人。

一息つき、わずかに酒を口に含んでそれをほぼ同時に飲み干したら、当然話の続きだ。


「小僧に記憶を呼び覚まさせようと思ったのは、私が過保護すぎることを自覚したからじゃ」


「記憶を取り戻したらどこかへ行ってしまう気がして寂しいんですか?」


「別にそうは言っておらぬが」


「どうして気が変わったので?」


「もとからうすうす気づいていたが、見て見ぬふりをしていたのじゃよ。

私は過保護すぎる。なのに遺体を求める旅は危険でいっぱいじゃ」


「……手放そうとは思わないんですか?」


「小僧が記憶を取り戻すことでそうなるなら、仕方がないことじゃな。

私は遺体を取り戻す旅をやめることはできぬ。小僧とも……できれば離れたくない」


「遺体を集めるとアクセルや強い魔法使いとも戦うわけですからね」


「うむ。この二十二年、本当に色々あったが、小僧と一緒で楽しかった」


「二十二年前というと、帝都で起こったあの事件ですね」


「あの事件のようなことが……私のいないところで繰り返されてほしくはないのじゃ。

だから小僧と離れたくないのじゃ」


「本当ですかね。子離れできてないような気がしますけど」


「失敬な。町にきたらちゃんと別室で泊まっておるっ」


「……野宿の時は?」


「聞くなっ」


「そうですか……はい」


セルフィは、町の外で先生と小僧の二人が泊まる場合は民家に泊まるか、最悪一緒に野宿しているのだということを察してあげて、それ以上は聞かないという心遣いも見せたのだった。


「おぬし、やはり一緒に来るじゃろう。私たちの受けた依頼に」


「いいんですか?」


「うむ。今は小僧も夢の中じゃろう。起きたら相手をしてやれ。

もっとも、私も小僧の見ている夢を操っているわけではない。

もしもおぬしと初めて会ったあの頃のことを思い出していたら……?」


「ううっ、恥ずかしいです。キャラ崩壊します」


「ミステリアスな占い師キャラがか?」


「明日の朝どう接したものやら」


酒のせいなのか、それとも恥ずかしい思いをしたからなのか、セルフィは顔を赤らめて、またしてもぐいっとお酒をあおった。

ますます頬に赤みがさし、風邪を引いた子供のような顔色になってゆく。


「私もお前たちに何があったか詳しく知っているわけではないが……ふむ、気になってきたな。

実は私は人の夢の中をのぞくことができるのじゃが」


「やめてくださいよ!」


「それでは酒のつまみに昔のことを話すがよい」


「わかりました……でも自分の息子の惚れた腫れたなんて聞いて面白いですか?」


「面白いのう」


「もう……変わった人ですね」


そこからセルフィが先生に渋々語った話と、小僧が夢で見た内容はもちろん同じである。

それでは、小僧とビビとミリーが、彼らのいる地方の領主が住んでいる比較的栄えている地方都市にやってきたときの話をしよう。


小僧は帝都のことも知っているし、ビビだってそこそこ栄えた街が地元だ。

そのうえ、そもそもこの時代と現代とでは三十年もの時間的へだたりがある。


その間には相当な変化があった。帝国と熾烈な"魔女戦争"を繰り広げる"魔女イザベル"とは言うまでもなく先生のことである。

魔女イザベルと戦っているうちに帝国中枢は崩壊、その後現在に続く王朝が成立するなど混乱した。

その王朝の血筋の姫様が、もちろん小僧が二十二年前、面倒を見ていて現在三十四歳のシロル皇女である。


この王朝は特別政治的に有能だったわけでは、ない。

だが魔女イザベルは二十二年前を機に活動をやめて小僧と一緒に静かに暮らし、主に便利屋として各地を活動。

遺体を集めるという程度のことしかしなくなったため、内政をする余裕ができたのだった。

技術は発展。生活は豊かになっていった。


まあ何が言いたいかというと、小僧はミリーが都会だと思っている、隣町にきてみてもショボくて反応に困ったのだった。


「お、おう」


「なんか……戦争中って感じですね」


と、ビビも当たり障りのない感想を述べたのだった。

隣町の領主のおひざ元は比較的発展している方なのだが、平和で充実した時代が二十年以上続いた後の世界を知る二人にとって、ここはショボかった。

通りの市に並んでいる品が遠めから見ても貧しいし人通りもそんなに多くない。


現代の家々にはふつう、暖炉があって石炭などくべて暖を取ったり料理をしているものだが、そのような煙が民家からあまり上がっていないのである。


「確かに魔女戦争の最中だけど、マフィアはお金周りがいいんだ!」


またしても予約投稿を忘れてた。

決してエタってるとかではありません。

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