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第6話 おっぱいの呪い

「ふむ、パッド入りブラをしているようじゃな。お前さんもしかして変態……!?」


「あれはニセ……じゃあもっと触っときゃよかった。

もとい、よくも俺に偽パイを触らせやがったな変態ヤロー!」


小僧は可愛い子と旅が出来ると思ってテンション上がっていて先生からの氷の制裁も気にならないくらいに気分が高揚していた。

その分、思った風にはいかないこのもどかしさと失望で歯茎が見えるぐらい歯を食いしばり、涙しそうなほどだった。

まさか、てっきり女の子と思っていたのが女装野郎だったとは。


「違いますよ。僕は正真正銘女です!」


「だからどっちだよ!?」


「バカにしておるのか?」


「だから、男を女にする魔法使いに被害を受けたんですよ!」


「男を女にする魔法使い……それに心当たりは?」


「ありません。女を男にも出来るかは知りませんが、元に戻してもらいたいですね」


「えー、別にいいじゃん。そのままで可愛いよ。男になんかならなくても」


「バカ言わないでください。他人事だからって!」


「別に他人事とは思ってねーよ。お前のことは俺が守るよ。

その魔法使いってやつを探すのも手伝ってやるから」


「お願いします。僕は男に戻りたいんです。そりゃあ、役得はありますけど」


「やっぱ楽しんでるんじゃねーかこの野郎!」


などと小僧とビビが取っ組み合いをしながらみっともない嫉妬が理由でケンカし始めた時だった。

今まで小僧もめったに聞くことのなかった先生の切羽詰まった大声が背後から聞こえた。


「小僧逃げろ!」


「えっ!?」


ボトン、という鈍い音とともによく手入れされた芝生の上に氷の塊が落ちてきた。

人間の頭ほどもある氷塊は黒いものを核として形成されており、ゆうに数十キログラムはある。

落ちてきたとき芝生がえぐれて下の土までも少し吹き飛んでいるくらいの衝撃で、人間が食らえばまずひとたまりもない。


小僧はこれを見て、誰かが小僧に対して飛ばした飛び道具を先生が空中で凍らせたのだということを理解した。


「マズいぞ。もうファミリーの連中が帰ってきたか!?」


「とにかく行きましょう!」


「おお、そうだな」


小僧とビビが先生の方へ向かって走り出すと、すぐさま先生から鋭い声が上がった。


「来るな!」


「なにっ」


「私がこいつらの相手をする。小僧はその子を連れて離脱しろ!」


「でも!」


「うるさい、行け」


声は聞こえるが、先生の門の向こうにおり、しかも炎を先生が出しているので先生の姿は見えない。

小僧は難渋したが、結局苦渋の決断で先生の言う通りにしようと決めた。

小僧と先生はどちらも多対一で囲まれても強い。むしろそういう時に真価を発揮するタイプの強力な魔法を使う。


実はそれゆえに扱う魔法の威力と範囲が大きすぎ、共闘に向かないという欠点がある。

それを分かっているのであえて二人はバラけることにしたのである。


「おいビビ、魔法を使って俺たちの姿を消せ!」


言われた通りに小僧と自分を固有の魔法で透明化してから、後ろを振り返ってビビはこう口にした。


「わかりました。でもあの人たちは一体全体……?」


「ファミリーの顔を忘れたのかよ?」


「違うんです。あれはファミリーなんかじゃありません。

僕もよく知らないんですが今朝はファミリーの皆さんは出かけていて……!」


「んなバカな。じゃああれは誰なんだよ」


「知りませんよ!」


「とにかくお前も面が割れてる可能性がある。透明化して街に身を潜めろ。

そろそろここら辺まで走ってくれば大丈夫だろう」


屋敷の中を突っ切って裏側の植え込みを飛び越え、池を迂回し、大通りに戻ってきた二人。

先生のいる反対側の通りからずいぶん離れてしまった。全速力で走ったので息も切れている。


「俺は先生の援護に行く。お前を庇っている余裕はないから、自力で身を隠していてくれ。

その魔法があれば難しくはないだろう。クソ、どこまで陰謀が渦巻いている?」


小僧が泣き言をいうのも仕方がなかった。

先生を襲っているのがシンファミリーとかいう連中でないとすると、その正体は恐らく殺し屋である。


ファミリーが雇ったか、別の誰かが雇ったか。

いずれにせよラインハルト王子とかいう者がファミリーを壊滅しようとしている情報は昨日か、それ以前からバレていたのだ。


小僧はついさっきまで知らされていなかったが、先日先生が小僧を連れてこの街に入ってきたのも、皇子とやらから依頼を受けるためだったのだ。

ということは、それ以前からファミリーには計画がバレていたということであると考えられる。

そして第二に、このビビという子に遺体を持たせようとした何者かの存在が思い出された。


これは間違いなくラインハルト王子ではなく、ファミリーと関係のある誰かがビビに遺体を持たせたのだ。

ビビ以外に遺体を持っている誰かがこの街にいることも知っている誰かが、罠として持たせたので間違いないと思われた。


「俺には難しいことは何もわからない。確かなことは、先生を助けることだけだ」


「あの人はあなたにとって何なんですか……?」


小僧は一切言いよどむことなくこれに即答した。


「たった一人の母親で、家族で、俺の全てだ」


言い終わると小僧は踵を返し、あまりの全力疾走で痛むわき腹を手で庇いながらも先生の元へ走った。

池などのある庭を抜け、広い前庭を走り、門まで来たが、門などとうに先生の炎で溶けていた。

溶けた合金が芝生の上に溜まり、アツアツに熱せられた赤い金属がジュウジュウという恐ろし気な音を立てながら氷の上に食い込んでいる。

すさまじい熱量の金属が煮えたぎるが、同時に冷気と氷雪もあたりに降り注いでいるので芝生はまだ燃えてはいないようだ。


「先生、どこだ先生!?」


「あーもう、うるさい。逃げていろ小僧!」


「んん、どこ?」


門の向こうから先生の声が聞こえたので必死に辺りを探すと、氷像の間に先生が立っていて、そして数名の殺し屋と思われる若い男女がそれを囲んでいるのを小僧は発見した。

氷像というのはその殺し屋の仲間が先生によって氷漬けにされたものだ。

氷漬けにされて空気も吸うことが出来ないし、救命の余地は恐らくない。


小僧は例の魔法を使って全員止めようかとも思ったが、先生にも何か考えがあると思い、ここはじっと戦況を見守る。


「さすがのアンタでもこの状況、無理があるだろう」


などと言っているのは殺し屋の中でもリーダー風の男だ。

その男の横にいる背の高い男が、指を振ったかと思えば先生のすぐ横辺りで爆風が巻き起こった。

これを先生は後ろに跳んで回避し、背の高い男はこれに追撃として何か黒くてボールのようなものを飛ばしてきている。

先生はこれを氷漬けにして地面に落としてすべて回避。


小僧は、さっき先生が自分を守ってくれたあの氷に包まれた黒い塊はこの男の術であることは理解した。

爆発を起こす黒いボールのようなものを無尽蔵に思えるほど大量に飛ばす男。

底を見せないリーダー風の男。まだ攻撃には参加しない女が二人、という陣容だ。

残りはすべて氷漬け。


息を切らし、顔を真っ赤にして苦しそうにする先生を小僧は初めて見たとともに、これの理由をリーダー風の男は解説してくれた。


「炎を放出する暇もなく冷却を使わせ続けること……それが貴様の弱点だ」


先生は炎と氷を操る魔法使いだ。その実際は熱を操る魔法使い。

冷却した分の熱は炎として排出するので、力を使えば使うほどむしろ強くなるという反則じみた能力を持っている。


ところが、それを放出する暇もないくらい、爆弾を冷却させられ続け、更にこれをよけるために動き回ることを強いられ続け、先生の体は徐々に異常をきたし始めた。

目の焦点が合わなくなり、呼吸は乱れ、尋常ではない量の汗をかく。

己の能力で冷却したいところだが、それをやってもそれ以上に熱をため込むだけ。


真夏に風にあたったら涼しくなるかもしれないと言って全力疾走するようなもので、ふつう余計に熱がこもる。

先生に出来るのは一瞬のスキを見つけること。だが、先生はとうとう地面に膝をついた。


「先生!」


「黙って……いろ」


とあくまで先生はいつも通りの強気な口調だ。リーダー風の男はこの隙に横の男に聞いた。


「よう、爆弾の方はまだまだ行けそうか?」


「爆弾の悪魔と契約してるんですよ。弾切れはあり得ません」


「了解。仕上げと行こう」


突然先生は顔を上げ、まるで余裕でもあるかのようにこんなことを言い出した。


「お前たち、悪魔との契約について知っているかの?

グリモアの所有者は五感や四肢、寿命といったものをささげる代わりに悪魔から力を得ることが出来るのじゃ」


自分たちの勝ちを確信している殺し屋たちなので彼らはニヤニヤしつつも、黙って話を聞いている。

先生は何故かたらたらと悪魔について説明をし始めた。


「私が今持っている悪魔のグリモアは二冊。一冊は悪魔が封印されていて使用不能であることはお前たちも知っておろう。

もう一冊の方のグリモアでは、私は"記憶の悪魔"と呼ばれる悪魔と契約しておる。

この悪魔に幸せな記憶を一部差し出すことで一時的に私は死なない体となるのじゃ」


「だからどうした。死なないからって囲まれてたら意味ないだろ……!」


「その通りじゃな。囲まれたらおしまいじゃ」


切り札や奥の手はちゃんと追い詰められたときに残しておく先生の準備のおかげで、形勢はあっさりと逆転した。

魔法の実力で言えば殺し屋たちとは比較にならない。そこで先生は十人以上いる刺客を一手に引き受けた。

勝算はあった。だがその勝算はあくまでも、契約をせずに勝てる勝算だった。


「私が何の考えもなく悪魔のことをペラペラしゃべると思うか。五分前にこの勝負の決着はついておった。

しかし悪魔使いがいたとはいえ、これを使わされるとは……お前たちなかなかやるの?」


先生が当然、殺し屋たちの輪の中心に立っているわけだが、その殺し屋たちの後ろにも複数人の先生が立っている。

先生の分身たちは何故かみんな指を太陽に向けてかかげている。


「さて、散々私に熱を溜め込ませた借りはきっちり返させてもらうぞ、貴様ら」


先生たちが一斉に上空へ向けて炎を吐いた。基本的には先生は、生きた人間に炎は向けない。

しかしこれまでの攻防で積もり積もった熱は、殺さないように気を付けてもなお、周囲の者を吹き飛ばし、目を開けられないような熱風を生み出す。


そしてそれが去った後は当然、次の攻撃がやってくる。


「小僧逃げてろ」


「逃げろったって!」


逃げろと言われる前からすでに小僧は逃げていた。

先生が十人以上にも分裂するという理解不能な異様な状況からすさまじい爆風が襲ってきたので、とりあえず背を向けて逃げていた。

逃げながら後ろを振り返ると火山の噴火のような熱が空中へ放出された分、洪水のようなスピードで冷気の波が小僧を襲う。


「ぐあああーっ!」


などと声を上げられた者はまだ幸運だ。殺し屋たちはほとんどの者が囲まれて巨大な氷のドームの中に閉じ込められた。

一体どこからそんなにも水分がやってきたのかは誰も知らないが、唯一そこから回避できていたのは爆弾使いの男だった。

悪魔と契約していると言っている通り先生の奥の手でも葬り切れず、氷のドームが形成される前に自分ごと爆発して素早く飛びのいていた。

爆弾の悪魔なるものと契約しているだけはあり、身に着けた服でさえも己の爆発でダメージを受けてはいない。


「氷と爆弾。我々は相性が悪いようだ。一時休戦としないか?」


氷のドームの上から、爆弾男は聞こえやすいようにハキハキと大声で話してくれた。

多分そんなに悪い奴ではなさそうだと小僧は思った。先生はこれに悪くない反応を示した。


「そうじゃな。お互い、ここで消耗しても意味のない戦いじゃ」


「冷静だな。話に聞いていた通りだ。最強で、冷徹で、不滅の女。

だがそんな女にも弱点があるようだな。妙な優しさと甘さがある」


「誰が私を評価しろと言った。逃がしてやるからさっさと失せるがいい」


「俺はアクセルとも仲間だからな。いずれまた会うだろう」


「なにっ!」


「では失礼」


なんと爆弾男は空中で連続して爆発を起こし、自分ごと爆発に巻き込むことで文字通り爆発的なスピードで空中を移動。

そのまま空の彼方へ飛び去って行ってしまった。


「あいつめ、雑魚に混じって何がしたかったのじゃ」


「遺体が欲しかったんだろうな」


「おお、小僧」


後ろから小僧に話しかけられて振り向いた途端、先生はフラついて膝を地面につけんばかりになった。

それを小僧が支え、抱きしめた。目を閉じて先生の香りを吸い込んで小僧は楽しんでいた。

決して変な意味はない。母親で唯一の家族である先生を抱きしめて香りを嗅いだら小僧は幸せで安心した気持ちになるのも当然である。

満足して目を開けたところ、そこにまた別の見知らぬ男が立っていた。


燕尾服にシルクハット、そしてステッキを手に持って胸元は黒い蝶ネクタイという、異様なほどの紳士的服装であった。


「うお!」


と先生を反射的に守ろうと抱きしめたまま小僧が飛びのくのに対し、失礼だと言わんばかりに顔をしかめながらも、紳士は丁寧な口調で言った。


「さて、わが契約者。報酬を頂戴しようか」


「うむ。やってくれ。契約通り記憶を――」


「ちょっと待った!」


小僧は悪魔に対しても物おじせずにこう申し出た。


「俺の記憶でも寿命でも四肢でも何でもいい。

好きなのをやるから、先生から記憶をとらないでくれ!」


「小僧、何を!?」


「ダメダメェ」


と紳士は首を横に振って露骨に嫌がった。


「私は君の記憶なら何度も食べてもう飽きているのでね」


「え、そうなの?」


「君は死ぬたびに私と契約し、記憶をほとんど食べさせ、残りは新たな肉体に移し替えているのだよ」


「せ、先生がさっき分身したみたいにか。そういえば先生の分身はいないな」


その通りだった。小僧は死ぬたびに先生と契約している"記憶の悪魔"が新しい"入れ物"を用意し、そこに記憶を移して"受肉"している。

それが厳密に同じ人間だと言えるかは微妙なところだが、少なくとも先生には、たとえそのたびに記憶を失っていても変わらず連続して愛しいわが子なのだ。

逆に言えば小僧の連続性、同一性を担保してくれるのは先生だけ。

後はかろうじて三十四歳の皇女くらいのものだろうか。


「小僧、気持ちは嬉しいが大丈夫じゃ。長く生きていると思い出も多すぎてかさばるのでな」


「強がり言うなよ。俺は先生に何一つ失ってほしくない。もうこれ以上!

これ以上傷つきようがないほど傷ついて、失いようがないほど失って……!」


「小僧……」


先生は愛しくて愛しくて仕方がない、最愛の息子である小僧にこんなに泣きつかれてさすがに動揺と困惑と、そして逡巡を禁じ得ない。


「そういえば悪魔はアホくさいお願いほど叶える傾向にあると聞いたことがあるぞ」


「アホくさいって言われても」


「事実だ。さっきからの君のようにいい人ぶった優しいことを言う人間、悪魔は大嫌いなので、理不尽にイジメたくなる」


「そんな!?」


「では私に呆れさせてみたまえ。記憶に関する願いなら聞いてやらないこともない」


と悪魔が言うので、アホなことを言うのは大得意の小僧は恥ずかしいことを大声で言い出した。


「じゃっ……じゃあ記憶の悪魔さん!」


「うむ」


「女のおっぱいを揉んだ時だけ、その記憶を消す力を俺にくれ!

寿命でも四肢でも差し出そう。それと先生の契約の方も今回は俺の方で建て替えてくれ!」


「ふむ……この状況で咄嗟にそんなバカなことが言えるとは、筋金入りだね。

他の悪魔も君を見たら喜ぶよ。では今言ったことはすべてかなえてやろう。さらばだ」


「本当か!?」


「悪魔に二言はない。今日は君の顔を立てて記憶は奪わないでおいてやろう。

実は最近私も気づいたのだがね、人間は幸せな記憶があるほど、辛い現在が余計につらくなるのだ。

あるいは不幸な人間は隣人が幸せであればあるほど余計に辛いだろう?

今まではこの世に辛い思い出だけがあればよいと思っていたのだが、どうもそうではないらしい」


「それは確かに」


「君たち人間は幸せになってくれたまえ。幸せの絶頂のタイミングで私はそれを奪いに来る。

もっとも、君ら二人は人間という範疇に入れるかどうか意見の分かれるところだが。それでは」


記憶の悪魔はまるで蜃気楼か幻のようにして虚空に消え、辺りには先生と小僧以外の生き物の呼吸すらもなくなった。

しばし、先生の放った熱の奔流の影響で風が吹きすさぶ荒れ果てた大通りに無音が響いていたが、やがて小僧は言った。


「じゃ、先生。悪魔の契約が本当か確かめるぞ!」


「……おっぱいが揉みたいのじゃな?」


「いや、別に揉みたいとかそういう……あれじゃないぞ。

ただ本当にそういう能力が備わったのか確かめないとだな」


「まあ、今回はお前に私は救われたような形じゃ。そのぐらい許してやらぬとな」


「え、いいの?」


先生は厚着だ。フード付きのコートを脱ぎ、マフラーをとり、コートの下のシャツも脱いだ。

あらわになったのはスポーティーなタンクトップ。さっきまで圧迫されていた胸が解放されてのびのびとしている。

先生は小僧の前で腰に手を当てて胸を張り、笑顔で言った。


「よし、好きなだけ揉め。能力のほどを見てやるのじゃ」


「言ったな、あとで取り消すんじゃないぞ先生!」


「私は嘘つきではない。ホレ、揉ますといったら無理やりにでも私は揉ますぞ?」


「じゃあ失礼して」


小僧は恐る恐る先生の胸に手を当て、そのまま指を沈み込ませてわしづかみにした。

先生は身長が一メートル五十二センチくらい。大人の女性にしては若干小柄でやせ型。

しかし胸の方は意外に大きく、相当な揉みごたえがあった。一分も揉むと手が疲れてくるほどの重さだ。


「ふわぁ……すごい、すごい、やらかい……!」


小僧の目は血走ってもう自分の手に収まった先生の柔らかくて変形した胸に夢中だ。


「……でも俺がこれで育てられたわけじゃないよな?」


「昔すぎて覚えておらんのう。吸うか?」


「さすがにそれは……」


「フッ、冗談じゃ。他の女にしてやるときはもう少しだけ優しく揉め?」


「わかりました先生!」


「よろしい。あと一分だけじゃぞ」


「もみもみ、もちもち。すごいなぁ、爆乳の人の胸とか揉んだらもっとすごいのかなぁ……!」


「シロル皇女殿下はかなりの豊満な体の持ち主じゃ。お前も見たろう」


「うん、すごかった。歳なんか関係ねーよ。もう今すぐ会いたいな。

ていうかあの人より俺の方が年上なんだろ?」


「まあ、百歳は超えておるな。実年齢は二十二じゃが。

しかし育て方を間違えたかのう。二十歳過ぎて母親の胸を揉んで喜ぶように育てたつもりはないんじゃがのう」


「喜んでねーし!」


と小僧が手を離した時のことだった。小僧は一瞬フリーズしたかと思うと、先生の目を見つめてこういった。


「あ、先生。俺悪魔に能力貰ったじゃん。試しに胸揉ませてくんない?」


「……は?」


小僧の次は先生がフリーズし、言葉が出てこなくなる番だった。


「あ、ごめん嫌だったか。いや、その、先生が嫌なら俺は絶対無理強いしないからさ!」


などと慌てる小僧の様子を見て、先生はすべての事情を完全に理解したのだった。


「小僧お前してやられたな。お前は恐ろしい呪いを悪魔にかけられたようじゃ」


「えっ、何の話?」


小僧は悪魔に"女の胸を揉んでいる間の記憶を消す能力が欲しい"と口にしていた。

悪魔はその通りに願いをかなえた。言うまでもなく曲解して。

その結果、"女の胸を揉んでいる間の自分の記憶を強制的に削除する"恐るべき呪いを身に着けてしまったのだった。

幸せな記憶をあえて増やしてやる、と言っていた悪魔だが、こういう悪戯はするようだ。


「実はお前はさっき、私の胸を好き放題に揉んだのじゃ」


「えっ、ウソ。先生、揉まれたくないからってウソついてない?

別に俺は嫌なら無理にとは言わないから」


「本当じゃ。お前は女の胸を揉んでもその記憶が消える呪いをかけられたのじゃ」


「そんな。じゃあ俺は一生……?」


「そうじゃな。本当の女の胸を揉む感触を知らぬまま一生を過ごすのじゃ」


「なんてこった。でもまあ、先生のことを守れたからよしとしようかな」


「小僧、お前たまに可愛いことを言うのう。褒美じゃ、私の肩を揉ませてやろう」


「それいつもやらされてるやつじゃん!」


「というのは冗談として、ビビとかいう子を回収したらシロル殿下について話してやろう」


先生はタンクトップによって中央に引き寄せられて深い谷間を作った胸を隠すようにしてコートを羽織り、マフラーを巻いてフードを被りながら言った。


「よし。でもどうやって見つけよう。

俺らは感知タイプとかサポート系の魔法使いを仲間にすべきだなぁと痛感するね」


「その必要はありませんよ」


「うお、お前そこにいたのかよ」


透明化能力だけは一丁前のビビという少女は元々二人のそばにいた。

一部始終を見ており、悪魔と契約を交わすことの出来た者の圧倒的な次元の違う魔力も目の当たりにした。


「悪魔ってすごいですね。僕も悪魔と契約して強くなりたいです!」


「やめておけ。もうお前に強くなりたい理由があるのかのう?」


「そりゃあ強くはなりたいですよ。ファミリーの皆さんの役に立ちたいですし」

このおっぱいの呪いが意外な形で将来、ストーリーに絡んでくる…ようなことは特にありません。

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