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第55話 神、いわゆるゴッド


「どういうことだ。アクセルはどこだ?」


「これが私の本体だ。アベル、見ればわかるだろう。私にはもう、時間がない」


「なにっ!」


アクセルを名乗りそう語った老人はベッドに寝ている。もはや起き上がることすら厳しいようである。

嘘みたいな状況だが、ここで嘘を言う意味がアベルにもわからなかった。

これについてルシフェルが補足する。


「見ての通りだ。こいつはもうすぐ死ぬ。結構惜しい所まで行っていたんだがなぁ」


「待ってくれルシフェル。まるで失敗したみたいな言い方はやめてくれないか。

私にはまだ奥の手がある。あれが成功すれば……!」


アベルにもあれが何を意味するのかは大体わかった。

アクセルが寝ているベッドのそばには、同じく一人の女性が寝かされている。

名はイザベル・オクセンシェルナといい三十年以上も前に死亡した。

正確には、こんなことは前例がないのだが"個人"への恐怖や憎悪が"悪魔の形をとり"現世にあらわれ、そのイザベルの悪魔がアクセルに封印されてしまった。

その際に悪魔の方に引っ張られて本人も三十数年間封印されていたのが、今日、この日に復活したのである。

どうやら彼女はまだアクセルの支配下にあるようで、アクセルの横のベッドに寝かされた状態で身じろぎ一つしない。

彼女には夢を見せる力があるようだ。その力は本来は夢。

ただ彼女の魔力と神々のリンゴが合わさることで過去の改変をも起こすことが出来ることは既に実演された通りだ。

そして神々のリンゴもアクセルは手中に納めていた。さっきまでは、だが。


「神々のリンゴなら俺が踏みつぶしてやったぜ。もう終わりだな、お前の狙いとやらも」


「フフフ、神の力がお前に踏みつぶされたくらいで壊れるものか。

それより、せっかくここまで来たんだ。闘わなければ締まりがないというものだろう」


「そうだな。お前に時間がないっていうのも少々気になるところだが、もう関係ない。

ただ死ね。さっさと死ね。お前に煩わされるのは、もう沢山だ」


「何とかしてあげたかったんだがな、お前のことを。

それが兄である私の役目だと思っていた。

本当のことをいうとね、私の人生で真に充実していた日々は、二通りしかないんだ。

同僚として、お前と帝都で過ごした数年間とほんの子供の頃の数年、ただそれだけなんだ」


「なにっ!?」


「自分でも驚いたよ。母が動き出して帝都を襲う計画を立てていると聞いた時、私は残念に思ったんだ。

この私に、何かを残念と思う日が来ようとはね。

あそこでは私は人間でいられた」


「そんなことを言って攪乱しようとしてもその手には乗らないぞ!」


「そうだろうな。それでは、私の切り札で相手をしよう」


次の瞬間、どこからともなく一人の男が瞬間移動をしてきた。

もはや見慣れた若い姿のアクセルである。手には当然、ニコの剣。

つまり次元を切り裂く刀剣を持っている。対してアベルは完全な徒手空拳である。


「おい、まさか冗談だろ。ルシフェルなら知ってるだろ。説明をしてくれっ」


「説明って、見りゃわかるだろバカ。アクセルはずっとこの調子だった。

ちなみにお前が数十年前に帝都で同僚として一緒にいたアクセルも"分身"。

本体はこうしてどこかの暗がりで寝たきりだったというわけだ。ずっとここにいたわけではないがな」


この兄弟は外見的には似ているようで非常に異なっていることにルシフェルすらも興味深そうに顎に手を当てて唸っている。

あまりキャラクターに説明台詞を言わせすぎてもよくないので地の文出説明するが、アクセルはこのように、ベッドに寝た切りで分身を使って様々な仕事を行ってきた。

少し前に魔力がどれだけあっても人は腹が減るし、食わねば餓死するといったがアクセルはまさにその状態だ。

魔力は修行と研究の末、人間では到底太刀打ちできないほど強大となった。

ただし、体の方は別だ。むしろ強大すぎる力に耐えきれず、深刻なダメージを負ってしまっている。


とはいっても寝たきりなほど深刻な状態なのは魔力のせいではなく、単純に体調と健康の問題である。

何故、同じ兄弟でこれほどまでに違うのか。それはアクセルが自分の口で語ってくれた。


「お前も私の本当の姿を見て哀れに思ったか?」


「そんなことは……」


歯切れの悪い答えしかアベルは返すことが出来なかった。

これも何かのブラフか、あるいは心理戦かとは思ったが、わざわざ油断させるために病気のように見せかけるにしては少々手間がかかり過ぎである。

アクセルは本当に死の淵にあると言うことを彼は悟らざるを得なかったから、まともな答えを返せなかったのだった。


「ルシフェルはそんな私を哀れに思ったのかもしれないね。私の友達になってくれた。

嬉しかった。今まで生きてきて、友達など一人も出来たことはなかったからね。

家族もいない。自ら捨てたのだから」


「意外だな。お前は孤独が平気なタイプだと思っていたが」


「ここはこの上なく孤独だよ。ルシフェルが気まぐれに訪ねてくる以外に客が来たのはお前たちが初めてだ。

ああ、羨ましいよ。なんでお前は"そう"で、なんで私は"ああ"じゃない?」


「何を言ってるのかわからないが、一つ言っておく。

俺とお前の違いは"行動"だ。俺が正しい行いをしているなんて偉そうなことを言うつもりはない。

だが、両親を殺したお前の行動が間違っていることだけは間違いないぜ」


「私には、もう時間がない。一刻の猶予もない。時間だけだ。時間だけがこうも私を駆り立てる」


「もうすぐ死ぬなら俺が手を下す必要もないか。全く、想像以上にどうしようもない理由だった」


アクセルが必死になり、ルシフェルが彼に妙に協力的な理由。

それは、まさかのアクセル本人がこの日の午前中に言っていたあの言葉が答えだった。

私にはもう時間がない、そんな風にアクセルは言っていた。


てっきり彼の分身体が長く保たないと、そういう意味だとばかりその言葉を聞いた者たちは思っていたが、別にそうではなかったようである。

その言葉はそのままアクセル自身の寿命が近づいているという意味だった。

いくら人間よりも身体能力が高く、魔力も高く病気にもならず、成長も早い"人造人間"いわゆるホムンクルスであっても老化はする。

既に数百年生きているアクセルの体は激しく経年劣化していたのだ。

まさしく何を言っても無駄。老い先短いことで必死になっている相手に一体何を言えるだろうか。

妥協案も折衷案もほとんど意味をなさない。他人に手の施しようがないのだ。


アクセルには時間がなかった。アベルは閉口するしかなかった。


「お前を母さんから救い出してあげたかった。解放してあげたかったんだ」


「お前らしいな、アクセル。お前は孤独だ。この状況で誰もお前のそばにいない。

だが俺はそんなお前に何かしてあげたいと思う気持ちはこれっぽっちもないね。

俺とお前で寿命が違うのは、この心臓が理由か?」


「ああ。そんなものを母が持っていたとはね」


「その差が今の俺たちの差だ。だが全然申し訳ないとも、かわいそーだとも思わない。

俺が今ここに立っている理由はビビを助けるためだ。もうお前に手は出させない。

先生はそんなお前でも死ねば悲しむだろうが、まあしょうがないよな」


「お前の言う通りだろうな。さて、仕方がないから認めてやる。

お前たちは私にとって邪魔だ。目障りだ。取るに足らないちっぽけな存在だと思っていたが。

だからこうするとしよう。さよならだ弟よ」


それはそうだ。と、アベルはアクセルが言い終わった瞬間に心の中で思った。

アクセルの分身がニコの剣を振るった瞬間、次元に穴が開いたのだ。

それから起こったことはわざわざ言うまでもないことではあるのだが、アクセルは目の前にいた邪魔者を排除した。

次元の狭間へ飛ばしたのである。これが一番簡単で確実なのだから。


「さて、邪魔者はいなくなった。ところでルシフェル。眼球の方はどうなっている?」


「胸糞悪い眼球だ。お前の弟は潰したと思っているようだが、ほれ、眼球だけで俺たちを見ているぞ」


わずかに眼球を動かす筋肉が、眼軸に付随して垂れ下がっている目玉がルシフェルの頭の横あたりに浮いているのは、どこかシュールな笑いを呼び起こす光景だとアクセルは直感した。


「フッ、少年に取りついてるのはもうやめた、とでも言いたいのか?

その眼で見つめられても関係ない。今は、な」

そういえばこの話は既に一度したかもしれないし、してないのかもしれないので念のためもう一度。

ドイツ語で眼球は「augapfel "眼のリンゴ"」と言うそうで、神々のリンゴという名前はここからとっています。

むろん、エデンの園の"禁断の実"にも一応ちなんではいますが。

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