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第5話 変態か!?

「あ、はーい。お兄さんちょっと待ってくださいねー」


などとドアの向こうの遠くから声がしたと思ったら、一秒後には玄関の向こうからさっき便利屋あるいは何でも屋をやっている二人に依頼をしてきた少女が顔を出した。


「ああ、声で分かったけどやっぱりお兄さんだ。先生さんは一緒じゃないんですね。

でも僕にはわかりますよ。だって僕も遺体を持っている点では同じなんですからね」


「そりゃ俺も知ってるよ。先生は後、俺が先だ。お前、俺と一緒に来い」


「え?」


「俺たちはここを壊してシンファミリーを壊滅させる。

仕事を引き受けた以上、結果を出すのは絶対だ」


「だ……ダメです。そこまでして遺体が欲しいんですか!?」


「まあそりゃ、遺体は欲しいよ。

お前のことは守ってやりたいけど、あくまでファミリーに忠誠を誓うっていうのか?」


「僕にはここしかないんですよ。話聞いたでしょ!?

こうなったら僕のとっておきの術式であなたを……!」


精一杯怖そうな顔を作って小僧をにらむ少女。

だがこの子は可愛いので、せいぜいコンタクトレンズ入れ忘れたのかな、程度の目つきの悪い顔しか出来ていなかった。

小僧も恐怖は一切感じず、余裕しゃくしゃく。むしろ少女を挑発しだした。


「やってみな。お互い譲れないもんがあるってことみたいだな」


「行きますよ。ハァ~!」


何やら手の先から""が出そうな、体の前で両手を合わせて花を咲かせるかのような形で少女が気合を入れた。

そうかと思えば、小僧の目の前の少女が見る見るうちに姿を消していった。

そして残ったのは空っぽの玄関だけであった。

悪魔を封印するほどの力が込められた遺体も一緒に消えているあたり、本人の実力はともかく魔法の能力自体は強力なのだろう。


「おおっ、どこへ消えた。超スピードか!?」


「僕はこの手のポーズをとっている間透明になれるという能力なんです!」


「そりゃすごいな。そのまま動ける?」


「動けます」


これを聞くと小僧は玄関前のタイルを思い切り踏みしめて、地団駄ふんで子供みたいに悔しがった。


「クソーッ、惜しい。ある意味女の子が持っててよかった能力だな。

俺がもしその能力を持ってたら女湯……いや、とにかく恐ろしい能力だ!」


「それは僕も思います。惜しいと言えばこの状態で攻撃しづらい点ですが……その弱点は補えるんですよ」


「ほう。どうやって?」


いや、そういった直後に小僧は余裕をかましたことを後悔した。

少女が透けているので玄関の向こうの家の中の様子がうかがえる。

玄関の方へ人が歩いてくるのだ。いかにもマフィア、という感じである。

身なりはよく金はありそうだが、それに持っている気品が追いついておらず、肩で風を切ってるくごつくて目つきの悪い男だ。

肩のところにファミリーの紋章だろうか。特徴的な刺青が入っている。


家なのでラフな格好だが、すでに二ケタは人を殺しているであろう男が寄ってくるとさすがに小僧も多少は気を引き締めなければならないことを悟った。


「ビビ、どこ行った。まさか逃げやがったのかあのガキ」


「あ、ここにいますアニキ。魔法で消えてるんです!」


「へえ、そいつビビっていうのか。おっさん、俺はここへ来た客だ。もてなしてもらおうか」


「俺はまだ二十五だ。それに招かれざる客だろう」


「お、そろそろやるか?」


「ビビ、仕事だ。お前の透明の能力と俺の"溶解魔法"があればこの世に倒せない敵は居ねぇ!」


「はい、頑張ります!」


「おいおい、他人も消せるのかよ」


と言ってすかさず小僧はパチンと指をはじいて甲高い音を出した。


「なんだそれは。何のつもりだ?」


「お前が教えてくれたんで俺も話すが、俺の能力は音を聞かせた相手をダメージを与えることだ」


「俺はどこにもダメージを負っていない。ビビ、俺をつかめ」


「はい!」


男の姿が消えた。ビビとかいう少女がこれをつかんで一緒に消えたようだ。

小僧はそれは気にせず説明を続ける。


「俺の音を聞いたものは耳から微弱な魔法……おい、説明ぐらいさせろよ」


ビビたちも気づかないうちに彼らは姿を現しており、ビビの能力は無効化され、男の姿もあらわになった。

二人とも身動き一つとれずうつろな目を青々とした芝生に向けている。


「確かに透明化とは厄介だがお前の能力俺と相性最悪みたいだな。

俺の音を聞いたものは問答無用で行動不能。見えなかろうが関係ない。

さて、胸ポケットの口紅だったな?」


小僧はビビの肩をつかんで着ていたジャケットの胸ポケットに手を伸ばしたのだが――


「あうっ! あ、ごごご、ごめん、ごめんって、わざとじゃないって!」


胸ポケットから口紅ケースを取り出そうとしてうっかりその下の柔らかい脂肪の塊に手がちょっと触れてしまった。

たかがそれだけのことで小僧は顔を真っ赤にして飛びのき、一瞬遺体のことも忘れてしまっていた。


「フッ、お兄さんの弱点……やられた後にわかっても意味ないな」


「誰が弱点だこの野郎、今のは事故、事故おっぱいだからな!

油断してたからだ。触るぞーって思って触ったらなんてことはない!」


などと意味不明な言い訳をしながら、真っ赤な顔をして小僧は手を伸ばす。

爆弾処理班が爆弾のコードにはさみを伸ばす時さながら目を血走らせて胸をドキドキさせながら、なんとか事故おっぱいせずに小僧はジャケットの裏地にある胸ポケットの口紅ケースを回収した。


用心深いところがあるので、小僧はちゃんと中身を確認。

指が入っているし、控えている先生にもちゃんと反応しているので本物の遺体だ。


「よし、回収完了。他に遺体はなさそうだな。

何でお前らが俺の依頼主に狙われてるのかは知らん。

悪く思うなよ。食うか食われるか。あるのはそれだけだ。

ビビとか言ったな。お前はどうしてもここがいいんだろ?」


「はい」


「しょうがない奴だ。弟子にしてやろうと思ったのによ。

人の出会いは様々だな。おーい先生、もう出てきて構わないぞ」


「わかった。小僧」


小僧の横に先生が来ると、まだ固まっている少女が先生の顔を見つめる。

先生は小僧から受け取った遺体を懐にしまいながらこれを無表情で見つめ返していたが、やがて気分が乗ったみたいにこう言い出した。


「小僧、この少女を連れていけ。私はこの屋敷を焼く」


「やめて、僕はどうなってもいいからファミリーの屋敷だけは!」


ビビとは対照的に男の方は割と余裕があるようだ。


「へっ、ボスや側近の皆さんが帰ってきたらお前らなんか瞬殺だぜ!」


「そういえば私はお前たちに自分の魔法を伝えていなかったな。

それでは教えてやるとしようかの。私の魔法は炎熱と氷雪じゃ」


先生はなんと、屋敷にではなく空へ向かって火柱を打ち上げた。

熱によって上昇気流が発生。

周囲一帯が耐えがたい高温になり、先生以外はまぶたをぎゅっと閉じて目を守る。

炎が上昇気流で上へと打ちあがっていくのと反対に、気温は冷えて屋敷の前庭の芝生に霜がおりた。


「正確には熱の操作。熱を奪うとその分の冷気も発生する。

つまり炎を使えば使うほど私は強くなる。逆もしかりじゃ」


「それだけの威力の魔法だ。相当な縛りがあるはず……!?」


当然、縛りがあればあるほど魔法は威力を増す。

悪魔との契約でも代償は大きければ大きいほどより多くの力を悪魔に貸してもらうことが出来る。

悪魔と五感や寿命、四肢を交換するものはザラにいる。

だが先生は白い息を吐きながら冷たい目で男を見下ろして、造作もなくこう答えた。


「何も。そのような常識は貴様らクズ魔法使いの考えそうなことじゃ。

ビビとか言ったか。お前にしてもそうじゃ。なんじゃその両手を使えなくする縛りは。

縛りは強いので魔法はそれなりに便利なようじゃが、誰か味方を頼って攻撃を担当してもらおうという魂胆がすでに二流じゃな」


「まあまあ、この子には才能ないようだけどそこまで言わなくても」


「二人ともひどい……!」


「ま、俺は女の子の涙には動かされる主義だからな。話をしてやる」


小僧はまだ凍り付いているビビという少女にまじめ腐った顔で、話を始めた。


「俺たちはプロ。金次第で仕事を引き受ける何でも屋だ。

お前の持ってる遺体はもらった。これは別件の依頼主からの報酬として正当に頂く」


「そんな理不尽な。返して!」


「要らないと言ったのはお前だろうが。俺たちは筋は通すぜ。

さっき言った通り仕事の正当な報酬だからこの遺体を返すわけにはいかん。

だが、お嬢ちゃんの暗殺依頼を聞かないとは言っていない。

何か他の物を差し出してくれるなら俺らも仕事はする。

俺たちの強さはわかっただろうし、そんなに悪くない話じゃないと思うが」


「何か出せるものと言ったって、僕には体くらいしか……」


小僧はそういわれてビビの体を見渡す。まだ少女なのでそこまで熟れてはいない。

未成熟で、胸や尻も大きくはないが、別に少々小ぶりでも食べられるなら何でもいいタイプの男が小僧だ。


「ふむ、まあそれもありかもしれないが」


「おい」


「冗談だって先生。俺と先生は二人で一つの便利屋だ。

先生も納得のいく報酬じゃなかったら意味がないだろう。

俺はビビ、お前のこと守ってやりたいとは思ってるんだぜ?

殺したいやつを代わりに殺してやりたいとも思ってる」


すると、小僧の話に先生が割り込んできた。


「小僧、仕事の話じゃが、我々の受けた依頼は"シンファミリー壊滅"のはず。

それは皆殺しという解釈がふさわしい。どうするビビとやら?

今ここで、自分はファミリーと関係ないと宣言すれば助けてやらないことも――」


「僕はファミリーとは関係ありませぇんっ!」


「ふはっ」


先生は楽しそうに笑ったかと思うと、横のファミリーの男を指さした。

それが全身氷漬けになり、代わりにビビの足元で彼女を拘束していた氷が解けた。


「やっぱりお前面白いぞ。最初会った時も思ったが……生きる力の強そうな子じゃな、小僧?」


「ううむ、そうだなぁ。まあ俺的には可愛い子が旅に加われば大歓迎だが」


「私は可愛くないじゃと?」


「言ってないし!」


小僧がさっきのビビのように脚を氷漬けにされたところで、動けるようになってきたビビは二人に話をしだした。


「仕事だから事情は聴かない、そう言っていましたよね二人とも。

それなら僕から事情を説明させてください。もう仕事じゃないんでしょう?」


「うむ、仕事ではない。お前を助けることに、報酬を要求するつもりもないのじゃ」


「よかった。やっぱり二人とも、最初に会った時に思いましたけど優しい人ですね」


「先生は時々怖いけどな」


「小僧は黙っとれ。事情というのは?」


「僕はビビアンと言いまして、男なんです」


「……ん?」


人生経験の長い先生でも、これは小僧と一緒に首をかしげてぽかんと口を開けて閉じなくなった。


「……なんじゃと!?」


「ああ、あんっ、ちょっと何すっ!」


もみもみ、もちもち。先生はビビのジャケットを脱がした。

そしてすかさず、薄着で地味なTシャツの上から胸を丹念に、そして一切遠慮なく揉みしだいた。

当然、横で小僧はこの様子を尋常でない集中力で凝視する。


「ふむ、パッド入りブラをしているようじゃな。お前さんもしかして変態……!?」


「あれはニセ……じゃあもっと触っときゃよかった。

もとい、よくも俺に偽パイを触らせやがったな変態ヤロー!」


小僧は可愛い子と旅が出来ると思ってテンション上がっていて先生からの氷の制裁も気にならないくらいに気分が高揚していた。

その分、思った風にはいかないこのもどかしさと失望で歯茎が見えるぐらい歯を食いしばり、涙しそうなほどだった。

まさか、てっきり女の子と思っていたのが女装野郎だったとは。


「違いますよ。僕は正真正銘女です!」


「だからどっちだよ!?」


「バカにしておるのか?」


「だから、男を女にする魔法使いに被害を受けたんですよ!」


「男を女にする魔法使い……それに心当たりは?」


「ありません。女を男にも出来るかは知りませんが、元に戻してもらいたいですね」


「えー、別にいいじゃん。そのままで可愛いよ。男になんかならなくても」


「バカ言わないでください。他人事だからって!」


「別に他人事とは思ってねーよ。お前のことは俺が守るよ。

その魔法使いってやつを探すのも手伝ってやるから」


「お願いします。僕は男に戻りたいんです。そりゃあ、役得はありますけど」


「やっぱ楽しんでるんじゃねーかこの野郎!」

何がきっかけか覚えてないですけど、自分の性別さえもあやふやなのを主要キャラにしようと強く決めてこの作品を書き始めたおぼえがあります。

記憶喪失の主人公も含め、自分を取り戻していく、というのが基本的なテーマですからね。

もちろん徐々に自分を取り戻していくというのは「遺体」に関してもそうですが…

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