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第34話 決まりですね

「何故分かったの。おっぱいソムリエなの!?」


「ニセ乳は触ればわかる……人には言ったりしないから安心しろよ。

さて、もう一度言うがお前に興味はない。失せろ」


この時小僧が使ったのは、孤独の悪魔が使うもう一つの力だった。

悪魔の力には二種類ある。引き寄せる力、引力と、"突き放す力"、斥力であった。

うっかりすると人を殺してしまうが、自分の腕力も強すぎて人を殺しかねない。


軽く斥力を出して女を突き放すと、小僧は格闘時に乱れた服を整えるとこういった。


「じゃあなお前ら。お前の仲間がアクセルのお嬢ちゃんに情をうつしてるらしいが、俺の知ったことじゃあない。

邪魔するならこれでは済まさない」


「い、いいの……?

このコ、医者を呼ばないと死んじゃうわよ。いや医者を呼んでももう……!」


「俺の力をそいつは吸収している」


「血をのんだってこと?」


「"引き寄せる力"があるからそのぐらいじゃ死なない。首が飛んだらさすがに無理だが。

そのうち起き上がるだろう。午後にはファミリーは壊滅している」


さて、筆者からは少々お詫びなのだが、シンファミリー壊滅の模様はカットである。

理由としては、先生と小僧の二人が強すぎてまるで勝負にはならないということ。

何より、物語的に、ファミリーそれ自体には大した意味がないという点にある。

ここまで述べてきたように、アクセルが率いる"カルト"はもともと母である魔女イザベルが、百年以上もの間にわたって育てた組織を乗っ取ったものである。


これには帝国全土の様々な非合法的な組織が含まれ、その中でもシンファミリーは大きなものであるものの、あくまでも下部組織のひとつにすぎない。

実際、アクセルの部下であるモードレッドたちも別に二人がファミリーを壊滅させに行くことを止めに行かない、という程度の存在であったのだ。

ただし、次の小さいシーンが終われば少しだけ先生たちのほうに話を移すことにしている。


さて、ビビ少年が意識を取り戻した時には、モードレッドが膝枕をしてくれていた。

目を開けるとさっき小僧が揉んだ、あの胸が朝の日の光を遮っていた。


「あなたはモードレッドさん……先生たちは?」


「行ったみたいね。あなた、さっきの男には完敗だったのね?」


「はい……あれでもまだ"音"の悪魔などの力は使ってなかった。まるで歯が立ちませんでした」


「いいたいことは勝ったほうが言う、と言っていたけどこれじゃ何も言えないわね」


「その時点から見てたんですね。頭が痛い……僕、ちゃんと生きてます?」


「出血は止まってるわ。普通より頑丈なのは間違いないけど……それよりねえ君、あなた面白いわね」


「そういえばあなたは、兄さんと知り合いだそうですね」


「それ抜きにしても面白いわ。私と彼は協力者だけど仲間ってわけじゃないのよ。

でも弟のビビ君となら仲間になれるかもしれないわね……?」


「何の勧誘ですか。何の目的が?」


「その話は食事でもしながらでね。少し離れましょう」


確かに、さっきドンパチをやってたので未だに野次馬が残っている程度には、ここではビビは目立ってしまった。

そこで二人は場所を変え、市場の奥にある軽食屋さんに入った。

自分のおごりだとモードが言うのでビビは適当に、「あなたと同じのでいいです」と答えた。


ガラスの器にバニラのアイスクリームに付け合わせでコーンフレークのようなものとソフトクリームが乗った、いわゆるパフェに近い食べ物が二つ、ウェイターに運ばれてきた。

それをおともに話は始まった。


「私はモード。私はある人物によって、魔女の遺体を探す命令を受けている。

表向きは……もっともそれすら裏だけど、アクセル様の余興のために遺体を集めてるんだけどね」


「ある人物って?」


「まあまあ、順を追って説明するわ。魔女の遺体はアクセル様が分割したの。

手の指十本、頭、両腕、胴体、そして両足。つまり十六のパーツに別れているのよ。

私が今持っているのは指八本と胴体よ。半分以上は終わってるってわけ」


「そんなこと聞いてないですよ。ある人物って?」


「……死神騎士団の現団長。帝国の初代皇帝の孫娘。

シロル皇女殿下。帝室でも始まって以来の魔法の才能と言われるお方」


「え? ちょっと待ってくださいよ」


時間にしてコンマ三秒ほどのことだったが、ビビは記憶をたどり、シロル皇女と、先ほど聞いていた情報をつなぎ合わせることに成功した途端立ち上がった。


「なんだって。じゃあシロル皇女殿下こそが……!?」


「そう。魔女イザベルをこの世から完全消滅させようとしているのよ、あのお方は。

理由は……まあ、あのお方のことを知っているものなら大体理解できるわね」


「アベル、という人のためですか……?」


「聞くまでもないことよ。魔女に支配されているその男の解放。

私はそういう風に聞いているわ。表向きの理由は魔女の遺体を集めて魔法の研究に役立てるってことだけど」


「僕にその協力をしろと?」


「陰ながら観察させてもらっていたわ。聞けばあなたも同じ気持ちなんじゃないの?

あの男のこと、まだ助けてあげたい気持ちがあればの話だけど」


「聞くまでもないことでしょう。僕にできることがあったら言ってください」


「あら、あなたお兄さんと違っていい子なのね。彼が私を信用するまでにかなりかかったわよ」


「今はただ、この力を誰かのために使いたい。皇女様は僕を助けてくれましたから」


「気に入ったわ。遺体のパーツ探しをしてもらう必要はないわ……漁夫の利が必要なの」


「漁夫の利って……?」


「わからないかしら? シンファミリーは遺体を持ってるのよ。正確にはアクセル様に持たされている。

あなたの知り合いが彼らを壊滅している間に遺体を回収するのよ」


「大事なものだったら、どこかに隠してるんじゃ?」


「だから手分けしましょう。ただってわけじゃないわ。ちゃんとお礼はするから」


などと言ったかと思うと、ビビの手をなれなれしくテーブルの下でモードは握った。

そうすると、彼女は上半身をかがませる姿勢になり、胸がテーブルに押し付けられて楕円につぶれた。

つややかな肌が午前中の強い日差しを反射し、胸の谷間の影が余計に強調されて、思わずビビも年頃の男ではあるので目が胸にくぎ付けになった。


もちろん、ビビはモードが元男であることは知る由もない。

ビビの心の動きを手に取るように察知しているモードはこれに満足を覚えつつ、話を続ける。


「いやあ、安心したわ。ですよね姫様?」


何故、姫様と言われて同じ店にいた後ろの席の男が返事をするのだろうか。

むろん、この男がモードによって変装させられている皇女殿下ということである。


皇女はビビの女の子になってしまう魔法を、見た瞬間に解いてしまっていた。

あの時は言わなかったが、実はこれをかけたのが皇女の仲間だと彼女はその時にはもう悟っていた。


「うむ」


「えっと……まさかあなたは、シロルさまですか?」


「ビビ君でしたか。やはりあなたはこの物語を見届ける資格を有している。

ただの巻き込まれた子かと思っていましたが」


「お人が悪いですね。全部わかっててとぼけてたんですか?」


「モードはですね、三重スパイなんですよ」


「えっ?」


「アクセル様たちの組織、"スペルビア"に潜入させたとき、わざと二重スパイになるようにと。

二重スパイをしているように最初から見せかける三重スパイなんですよ。

そのことを気取られるわけにはいかなくて。私もこの通り、彼女と会う時は必ず変装を」


「なるほど。よくわかりませんけど」


「さて、話をしましょうか。私はこの通りです。死神騎士団の団長として、シンファミリーの壊滅は任務です」


「しかし……あの二人が行ったのでもう加勢は必要ないのでは?」


「精鋭の部下をすでに現地に向かわせてあります。何故だと思います?

恐らくこの町が決戦場。すべてが決する……アクセル様も相応の手練れを出してくると予想されるからです」


「続きは私から……でいいですね?」


「ええ」


ということになり、モードが皇女から話の主導権を譲渡され、説明が続けられる。


「私は、性別を変えられる能力の使い手。正確に言えば体を変化させること全般ね。

完全なサポート役ってわけ。姿は見せられないけどすでに仲間が二人。

団長にも匹敵するほどの精鋭よ。と言っても、そのうちの一人も支援型。

感知タイプなの。あなたの目ほどじゃないけど、それなりの感知能力があるわね」


「ということは残る一人は戦闘タイプということですか」


「ええ。団長と同じ、かつてアベルとアクセルとかいう兄弟に魔法を教えられたらしいわ。

まあ二人とも覚えちゃいないでしょうけどね。で、感知タイプの仲間が教えてくれてるの。

どうやらここに悪魔がやってくる。とびきりの大物がね」


「大物の悪魔って言うと、ルシファーさんとか?」


「そいつが来るとしたら、アクセルも来るはず。そう結論されているわね。

早ければ今日、決着がつくわ。遺体集めも、カルトとの戦いも、何もかも。

あなたのお兄さんや、両親の仇も。掛け値なしに全部がこの港町でぶつかるのよ」


「――ですからここは危険になるので、私としては子供にはその……安全な場所にいてほしいのですが」


「なんて言って聞くと思いますか、団長。この子はもう覚悟を決めた男の目ですよ」


ビビはあえてそれは否定せず、むしろこれに乗っかってこう答えた。


「ええ。駄々っ子みたいにわがままに、目につくもの全部手放さない。

そう決めたんです。兄さんのことも、僕は正直諦めていました。

もう殺すしかないって。だって"カルト"に自分から入って、僕を捨てて出ていった……そんな人だと思わなかったから」


「まあまあ、彼にも事情があったのよ。

不器用すぎるうえに、あなたを例の二人が守ってくれるっていうのも違いだったみたいだけど」


「"遺体"を回収すれば、アクセルの娘は犠牲にはならない……あっ、皇女様はアクセルの娘のことは?」


「モードから聞いています。利害は一致しているようですね?」


「僕を仲間に加えてもらえますか?」


「決まりですね、殿下」

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