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第28話 リリス

「異議あり、シワクチャババアより万倍ましだ!」


まあ、その後の模様はカットでいいだろう。結局結論は出なかったことは言うまでもない。

我に返った小僧は立ち上がり、みんなと一緒に店を出た。

そして四人組で、例の安宿に戻った。やはりオヤジの姿はなかった。

四人は口々におかみさんの前でこう言ったのだった。


「ええっと……先生はババ上と同じ部屋でいい?」


「かまわん。さて、では母上、私たちは当面仕事を終えるまではここにいるはずじゃ。何かあれば――」


その時だった。キィと安くてぼろい木のドアが悲鳴を上げて開き、若い女と、娘らしき女の子が出てきた。

四人はそれに一瞬振り返ってすぐにおかみさんの方へ向き直った。


「わー、パパ―!」


ガッシ、と五歳の女の子が小僧の着ている最近買ったばかりなのにババ上の包丁で破かれた服の裾をつかんだ。


「えっ、パパ?」


「リリスがおやすみしてるあいだにパパ、ほうきで来てくれてたの?」


「あっ、うちの子がすいません!」


「なんだぁ……?」


ビビや先生は事情を超速理解した。この子供はどうやら小僧をアクセルと勘違いしているようであると。

そうであるならば、廊下の向こうにいるその母親らしき女はアクセルの仲間であると。


「そこの女。人質はこちらにある。大人しくしろ」


「ちょっと待ってよ。私たちは交戦しに来たわけじゃないんです」


「ちょっと、もめ事ならよそでやってもらえるかしら?」


「おかみさん、ちょっとシーだよ」


と小僧が指を唇に当てたしぐさをした。無視しておかみさんが口を開いた。

ところが、本人でもすぐに声が出てこないことに気が付いた。


「かっ……はっ……!」


のどに手を当て苦しそうにするおかみさん。

彼女に対する一応の気遣いのようなものを小僧は見せた。

若くて美人な女性じゃなくても優しくしてあげられる心の広さが一応はある。

むしろ先生が指摘している通り、その他の人にはまっとうに優しいが、若い美人には挙動不審になるのだった。


「無理して声出すなよ。それでお姉さん、この子はアクセルの子供なのか?」


「それは違うな」


「んっ、お前は爆弾男」


それなりに緊迫した空気がたちこめていた宿屋に入ってきた、のは当然爆弾男ボマーである。

彼はこの一触即発の状況に一切動じずに入ってきて、小僧に抱き着いているリリスお嬢様の頭をひと撫ですると小僧の前で冷静にこう言った。


「話をしよう。そちらとしても無視できない状況だろう。それにお互い、ことを起こすのは本意ではない」


「なんだよ一体。次から次へ。条件は?」


「俺とお前が一対一で話すことだ。コーヒーの美味い店があるんだが、そこへでも行かないか」


「そうだな……俺はコーヒーは嫌いだ。俺だけ甘いミルクティーでもいいか?」


「わー、やっぱりパパだ!」


「だから違うって!」


「全く双子だけあって好みも似てるな。来い。リリスもおいで」


「うん、わかった。パパと一緒なら」


「パパじゃないけどな」


あまりの事態に先生もビビも、またババ上も絶句して身じろぎ一つできなかった。

何故か小僧だけは落ち着いていたが、ともかくその後の模様はカットしよう。


小僧とリリス、そして爆弾男はお近くのカフェへ。

残されたのはババ上と先生、口を金魚みたいにパクつかせるおかみさん、謎の女、そしてビビの五人であった。

おかみさんがしゃべりたそうにしているのに声が出ないので他の四人はシンと静まり返っていたが、ややあってビビが最初に口を開いた。


「ババ上様、なんかすごいことになってますね。まさかこんなところまで追ってこられるとは」


「そのようじゃな。お主魔法は使うかの?」


「いえ全く。先生は……あの、先生?」


先生はビビに肩を叩かれて我に返り、振り返った。


「あ、ああ。正直動揺しておる。アクセルにも娘がいるのか……十中八九ろくな生まれ方をしてないと思うのじゃが、なついているようじゃな」


「なんか気が引けちゃいますね。戦いにくいですよ。全く卑怯な!」


「なんか、初めから勝った気でいるみたいで失礼しちゃうんだけど。

あんた、ビビでしょ。ビビアン・ヴァン・ダイク。バージルの弟」


「僕を知ってるんですか。あなたは確か、モードレッド……でしたっけ?」


「よく知ってるね。モードって呼んで」


「そろそろ話してくれませんか。話してくれれば先生も命まではとらないと思いますよ。

バージルとかアクセルとか、その他いろいろ。あとアクセルの娘とか」


モードは脅しのようなビビの言葉をせせら笑うように微笑んだ後、話を始めた。


「そうね……私がここへ来たのはあなた達がここへ向かったと聞いたからよ。

アクセル様の娘……さっきのお嬢様はわんぱくでね。自分一人でどこかへ行っちゃうことも多々あって困るわ」


「兄さんは?」


「アクセル様のもとで見習い修行中。まあ筋がいいからそのうち幹部にしてもらえるんじゃない?

あ、そうそう。私の魔法についてはもう知ってるよね。その様子だと」


「性別を変える魔法、ということですか」


「できることはそれだけじゃないけどね。肉体を操作する系統なら大抵何でもできるわ。

困るのよね。まさか解除までしてしまうとは。

バージルもどこで魔女イザベルたちのことを聞いたのか知らないけど、大したものだわ」


解除したのは先生たちではないが、それを言うと面倒くさいことになるのでビビは何も言わないで置いた。


「確かにそれは僕も気になるところですが……」


というところで言葉を切ってビビは先生をちらっと見た。

顔面蒼白で唇が震えている。何を考えているのだろうか。


「アクセルがケッコンなど考えられん……かといって身寄りのない子を引き取るなどもっとあり得ぬが」


「私に聞かれても知らないわよ。全く、私があなたに会ったと知られたらお兄さんに怒られちゃうわね?」


「何が目的でこんなことを?」


「知らされていないなんて可哀そうね。まあ、知ったら知ったで可哀そうなんだけどね。

あなた、横にいる人が誰なのかもよくわかってないわけでしょ?」


「数十年前恐れられた魔女だってことは知ってますけど」


「やれやれ。でも本当にびっくり。あの人アクセル様にそっくりね」


「か、会話する気がない……!」


モードレッドとかいう女は、ビビに質問したかと思いきや無視してひとりごとをつぶやきだしたりと極めて落ち着きがない。

もはや会話する気がないようだと判断し、ビビはそれをそのまま口に出した。

どう反応するかと思ったら彼女はこう答えたのだった。


「あなたの両親が死んだのは魔女のせいなのよ。それでもバージルはあなたを魔女に託したってことかしら……?」


「何を言っているんですか。何を知っているんですか!」


「同じことを何度も言わせないで。彼は命がけで遺体を手に入れ、あなたに渡るように仕向けた。

予想通り、遺体を探しに魔女がやってきたわけ。

要するに思ったよりいろんな思惑の中心にあなたがいたわけ。わかる?」


「全然わかりませんけど!」


「ニブイ子だこと。バージルとは大違いなんだから。まあいいわ。

別に私の口から説明する義理もないんだけどせっかくだから説明しておくわ。

お嬢様が帰ってくるまでやることないでしょ?

私はね、ある人物の命令で動いている。アクセル様にも忠誠は捧げているけどね」


「なんじゃこいつ。ビビの話をするのかと思ったら自分の話じゃ」


「あの方の思惑は、魔女イザベル……あなたを今度こそこの世から葬り去ること」


「なにっ。そいつは何者じゃっ!」


「まだ言えないけど、アクセル様やあなたのこと、かなり深いところまで知ってるみたいね。

アクセル様は不老不死であるあなたを殺す方法……つまり悪魔自体を祓ってしまうことも出来たはず。

でもしなかった。意外と肉親に情があるみたいね。双子の弟も、殺そうと思えば殺せたでしょうし」


「それは……それは、確かにそうじゃ。お父様の遺体だってアクセルなら消そうと思えば……」


「でもそうしていないでしょ。あの方は違う。悪魔の遺体を回収して消滅させ、魔女イザベルを殺すつもりよ。

昨日も話したと思うけど、私は悪魔の力が欲しくて遺体を集めているわけではないわ」


「では、なんじゃ?」


「私はあの方の役に立ちたいだけ。何も持っていない私の存在理由そのものだから。

それについて話してもいいけど私の話をするのは気に入らないんだっけ?」


「どうでもいい……要はやる気があるかどうかじゃ」


要するにお前を今ここで殺してやろうか、と先生は言ったわけである。

モードはこう答えた。


「ムリムリ、私じゃあなたどころか占い師さんにさえ勝てないわ。

でもいいのかしら。大事な息子さんを彼と二人きりにして……彼は強いわよ?」


「小僧のことなら問題ない。死んだらまた作り直せばよい」


「まあ、ひどい。そんな母親でもアクセル様は大切に思っているのね……おや、帰ってきたみたいよ」


モードが安宿の人でごった返す雑多なラウンジの入口を指さした。

帰ってきたのは小僧と小さい女の子だけで、爆弾男は消えていた。


「あの野郎、仕事が適当なんだから。彼はどこかへ行ったの?」


「コーヒーを飲み過ぎてトイレに行ったんだ」


「バカじゃないの。カフェインは利尿作用があるってなんかの雑誌で読んだことがあるわ」


「おい小僧、何か話をしたのか?」


「ああ、この女の子が何者なのかもな」


と言って小僧はなれなれしく、足元にいる謎の少女の頭をぽんぽんと軽く手で触れながら答えた。


「なにっ」


「結論から言うとこの子はアクセルの娘だそうだ。

確かになぁ、俺もさ、この子の顔を最初見た時に思ったんだよな。

すごく似ているってさ」


「アクセルにか? 顔は知らんじゃろう。兄弟と言ってもまるきりお前と同じではないが――」


ここで、小僧は先生の言葉を腕をまっすぐ伸ばし、指をそろえて手のひらを先生に向けて遮った。


「先生にだよ。まるでミニチュア版だ。先生の遺体から再現したものらしい」


「そ、そんなことをして何がしたいのじゃ。理解できん。何もわからぬ!」


「お兄さん、説明してください。何か聞いたんだったら!」


「説明せい小僧!」


予想以上にみんなから詰めてこられて小僧も動揺を隠せないが、みんなのフラストレーションはもう限界であった。

次から次へと新情報。モードはそれなりに情報を明かしてくれるが、むしろ明かされるほど謎が謎を呼ぶばかりですべてが消化不良なのだ。

なにか、核心的な謎の一つくらいはそろそろ解けてほしいというのが総意であった。


「いいか、アクセルは狂気の沙汰のイカレポンチだ」


「知ってる」


「知ってます」


「知っておる」


「まあ、違いないわね」


「違うもん!」


など周りの意見は様々だったが、小僧は気にせず続ける。


「特に先生とは、オヤジの遺体をバラバラに分けてゲームをしているわけだ。

全部回収したら褒美に面会してやる、というわけか?」


「私にそのつもりは毛頭ないし、アクセルにもできれば会いたくはない。

会えば愛するわが子をこの手にかけることになるからな」


「バカみてぇな不毛なゲームだ。だが先生はやらざるを得ない。

で、どうやら身内向けにもう一つゲームを開催しているらしい。

これはつい最近始まったプロジェクトらしいがな」


「それが私の遺体をバラバラにして部下に探させている……ということか?」


「ああ。どうやらアクセルは"魔女イザベル"時代のカルトをそのまま吸収して率いているらしい。

教団の新たな指導者としてな。そいつらとゲームをしている。

これを揃えた時、この子は器として捧げられ、魔女が復活するのだそうだ……その器というわけだ」


一同、小僧の話の理解に時間がかかった。理解したくなかった、というべきであろうか。

これを聞いている少女自身は何事か全然わかっておらず、生来の活発な気質と愛想のよさが相まって、もうラウンジで子供好きの大人に相手してもらっていた。


「どういうことじゃ?」


「そのまんまの意味だ。あの子は器で、それを知った爆弾男はアクセルから隠したいらしいんだ。

もうずいぶん前のことのような気がするが、先日あの男……ボマーが襲ってきたのは俺たちの力を見極めるためだったらしい」


「そのために悪魔の力まで使うとは気合が入っておるのぉ。

どんな代償を払ったか知らぬが……そういえば奴は偽名か?

爆弾の魔法を使うボマーなんていくら何でも冗談のような名前じゃ」


「さあな。どこまで本当かも怪しいもんだが……モードレッドとか言ったか?

あの子は命令通りに連れて帰るってことでいいのか?」


「見つからなかったと報告すれば済むことよ。私とボマーの利害は一致している。

魔女を殺すのが私の役目。ボマーは彼女を守りたいだけ」


「あっそ。俺たちの言い分もはっきりさせておこう。俺たちはお前たちに、もう興味はない」


「まあ。そっちから接触してきたくせに……まあ今回はこっちからだけど」


「みなさん、まあ色々と事情もあるだろうから勝手にしてくれ。

俺たちは仕事があるんでな。世知辛い世の中だがお互い頑張ろうぜ」


「本当に顔以外はぜんぜんアクセル様と似てないわねあなた」


「誉め言葉と受け取っておこうかな?」


「誉めたつもりよ、これでも。楽しかったわ……よかったら今夜合コンでもやる?」


「お、いいね合コン。合コンって何をするところなのかは知らないけど」


「今夜は飲むわよ」


「茶番はやめにしろ二人とも。行くぞ、敵を壊滅する」


「わかったよ先生。ファミリーは遺体を持ってると思うか?」


「わからぬ。あれば回収しよう。さすがに自分と同じ魔力を放つ遺体じゃ。近くによれば違和感くらいは感じ取れるじゃろう」


「探し物が増えたな。行くぞビビ、準備はいいな?」


「待ってください!」


もちろん、待ってくださいと言われて本当に待つ人はいないので小僧と先生は足早に宿屋を出てしまった。

ビビはこの二人とかなり長い時間、しかも濃密な時間を一緒に過ごしていた。

そのため二人の人となりや考え方はかなりの部分をわかったつもりになっていた。

少なくとも、これほどにその人の人生やその道中で起こってきた事件を詳しく知っている他人などいない。

仮に親友と呼べる友達や、肉親であってもその人生に何があったかそこまで知っていることは少ないだろう。


だが、二人のことはまたわからない人たちだなという評価にビビの中で落ち着きつつあった。

器として消費されかけている幼い少女をかくまおうとしている男を見て、何一つ声もかけないのである。


宿屋を出て二人、街道を何事か話しながら歩く後ろをビビは追いかける。


「すいません、いいですか?」


「なんじゃ改まって」


「いいんですか。アクセルの娘……イケニエにされちゃうって話じゃないですか。

あのボマーって人とかに協力してあげたほうがいいんじゃないんですか?」


「知るかよ。助けなら俺が借りたいぐらいだ。でも段々わかってきたことがあるぞ」


「何がです?」


「どうやらお前は俺が思っていたより、俺たちと関係あるらしい。

色々、厄介ごとに巻き込まれた気の毒なガキだと思ってたんだがな」


「同感じゃな」


「一応自分の肉親にあたるあの女の子を助けたいとかないんですか……?」


「何でも俺に押し付けるな。さっき会ったばっかの子だぞ。何もわからないだろ。

聞いたことだって本当かどうかわからない」


「そうやって逃げているんですか!」


「なんだと?」


「やめんか二人とも」


「先生も先生ですよ!」


とビビは先生にまでかみつき、さらに続ける。


「どうしてそんなに落ち着いているんですか。今、あなた達に期待がかかっているのに。

皇女殿下も、そして兄さんだって二人のことを!」


「いずれにせよ、その皇女殿下に頼まれた仕事を我々はするのみじゃ。

お前の口出しすることではないぞビビ。私の孫だと。私の知ったことか」


「ベルのことも……ですか?」


「なにっ」

リリスとは旧約聖書においてどうのこうの……とウンチクをたれようかとも思ったんですが、こういうの読んでる人はとっくに知っている基礎知識でしょうから言わないでおきます。

余談ですが、もともと主人公がアベル、というのだけ聖書の引用で決まってて、兄はアクセルではなく「カイン」にしようとしてたんですよね。

しかし、それはそのまんま過ぎるので適当に語呂のいいヨーロッパあたりの歴史上の人物を探していて、「アクセル・オクセンシェルナ」という人がいたのでよく知りもせず使用させてもらった次第です。

この作品の元となった作品の、そのまた原案の段階の話なのでもう五、六年以上前の話ですが。

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