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第25話 石化病

「何言ってるんですか。見ればわかりますよ」


「すまん姫様。言ってみただけだ。ここで待っててもしょうがないから、みんなで飯でも食いに行かないか?」


「説明しておく必要があります」


「何をだ、ビビ?」


「あの屋敷で先生が会っているのは結構な要注意人物らしいです。

先生のことだから戦っても負けることはないと思いますが……戦いにならないといいですね。

この船、あそこの家のお嬢様に貸してもらったのであそこで戦いが起きると移動手段がなくなってしまいますからね」


「要注意人物ね。そうだ。要注意人物っていうならお前の"時間をも超える眼"で見てみたらどうだ?

何かその人物の特徴を聞いてないか?」


「若い女性としか……」


セルフィはここで彼女しかまだ知らない例の女に関する情報を与えた。


「そうそう。彼女には一つ不思議な点があってね。結構目印になると思うんだけど」


「それは初耳です、占い師さん」


「ごめんね、省略してもいいかと思って。実は女とは言ったんだけどすごく中性的な人だったの。

髪はショートカットで、服装は見ようによっては男物にも見えなくもなかったような。

体型は割と女性的で肌も奇麗だったわ。何より声が女性だった」


「じゃあ女じゃないか?」


「男装の麗人というやつですね。私と同じですね」


「いや姫様はもう完全に男だろ」


ビビは、軽く漫才を繰り広げる皇女殿下とそのかつての恩師の姿を新鮮な驚きとともに捉えた。

二人は過去の多少のわだかまり、ぎこちなさなどこの短時間で拭い去ってしまっていてるのである。

まるで魂が共鳴するかのような相性の良さであるとビビには思われた。


「なるほど。ちょっと見てみましょう。ここをその人が通ったのは割とついさっきのはずですよね?」


「入れ違いになったか、もしくはまだそこにいるか……遠くには行ってないはずよ」


「見てみましょう。それだけわかれば十分です」


「あの先生、あの子は?」


「神々のリンゴの力だそうだ。王立魔導書庫にもあの目が時間を超越するなんて書いた本はなかったかな?」


「私を見くびらないでください。あそこの本ならこの二十年間一日も欠かさず読みふけってきました。

今は帝都を離れていますが、本は持ち出していますよ。まあ皇族以外は持ち出し禁止ですから役得ですね。

皇族に生まれてよかったと思うことなんて、あまりありませんが。

層う言えば、先生の探してらっしゃった記述なら……」


「探してたって、なんのことだ?」


「初めてお会いした日からずっと――」


皇女が気になることを話し始めている気もするがビビはとりあえず、過去のこの世界の姿を見通す眼を発動した。

五分、十分、どんどんさかのぼり、ビビ達がここへ来た、だいたい三十分ぐらい前の時点まで来た。

先生と二人で歩いてくる自分の姿がビビの目に見えた。そこからさらに時間をさかのぼる。

すると、セルフィの言っていた特徴通りの女が現れた。間違いない、こいつだとビビは見つけた瞬間に確信した。


さっきセルフィが走ってきた道をそれとは対照的に、モデルのように自信満々で歩き、石畳で踵を鳴らす女は、確かに目撃者の証言通りの格好をしていた。

デニム生地のよくある量産品の短いパンツの下に、黒いタイツとオーソドックスな褐色の靴を履いている。

靴は男物の革靴だ。上半身は真っ白で胸元を石けんで思い切り泡立てたかのようである。

繊細な泡の塊のごとく、軽い風でもゆらゆらと揺られるフリフリのフリルが胸にあしらわれたシャツを着ている。

胸元がフリルなため、女性らしい胸があるかどうかは確認できない。

ただ、デニム生地がはちきれんばかりにお尻が大きく肩幅も狭いため、ほぼ間違いなく女性であると考えられた。

荷物の類は宿にでも置いてきたのか、今は持っていないが、パンツのお尻ポケットか、ベルトのところに何かひっかけて持ち歩いている。

恐らくランプであると思われた。何故ランプなのだろうか、とビビは疑問に思った。


これを日常的に使う人ということは、野宿をしたり洞窟を探検したりするタイプの職業についているのであろうか?

ともかくこの、顔だけ見ると美少年のような感じの摩訶不思議な女性は屋敷へ何の躊躇もなく入っていく。

家人と知り合いではないはずである。柵を飛び越え、ずんずんと迷いない足取りで玄関へ向かっていく。

何やら玄関先に出てきた使用人らしき人と二、三言葉を交わすと中にいれてもらっていた。

と、ここでビビは過去を見るのをやめて現在に戻ってきていた。


「――以上です。石化病を解くために私も勉強を続けましたからね」


「すごいなぁ。で、石化病ってなに?」


「ある条件を引き金に体が石化する病です。さらに肉体的な老化が遅いと聞きました。

遺体を求めて旅をしていたらどこかで聞いませんか。いつまで経っても赤子の話を」


「さあなぁ。で、条件って?」


「日光に体が触れることです。先生などは吸血鬼の血が入っていてもある程度大丈夫なようですが」


「待てよ。じゃあなんで俺は昔、石化病を直そうと?

先生の息子とはいえ、別に俺は何ともなかっただろ」


「ええ、そうなのですが……ベル、という名の女の子に心当たりは?

石化病の彼女を治すために……私はそう聞いていましたが」


「ベル……美女ということか。ありがちな名前の子だな」


ビビはさっきから聞いていていつ皇女がベルの正体やその他もろもろに関しての爆弾発言をかますかヒヤヒヤしながら黙っていた。

だが、どうやら皇女はアベル先生の娘について、寡聞にして知らないようである。

二人は相思相愛ではあったものの、個人的なことは全然話してなかったようだ。

ビビと同じことをセルフィも思ったらしく、二人の話に注意深く耳を傾けているが、素知らぬ顔で黙っている。


「おそらく体が石化するので老化しないのでしょう。

文献によればかつて、錬金術師が不老不死の事件を行って生み出されたとか」


「石化病ね……錬金術師と言えば、俺の親父は錬金術師だったらしいぜ。

もっとも、それは人間としての仮の姿だったことは言うまでもないよな」


「ええ。孤独の悪魔は"創造主"になることに憧れていたんでしょうか?

その息子が"創造主を超える"ことを目指す結果になったのですから、皮肉なものです。

しかしそう考えるとアベル先生はあの一家で例外的な存在ですね」


「どういう意味だ?」


「すごくまともです。優しくて、いつも自分ではなく誰かのことを優先して考えていて」


「アクセルのようにぶっ飛び切れないだけさ。俺は凡人だな」


「それが何より大切なことじゃないですか。私はこの二十二年、ベル……あるいは石化病の少女を折に触れて死神騎士団に探させていました。

錬金術師の実験の犠牲者なら、犯人を見つけなければいけませんからね」


「ふーん。それならちょうどいいのがいるじゃないか」


「ぎくっ」


と、セルフィが言ったのではない。彼女はかろうじて平静を装うことが出来たが、予想だにしない会話の展開に仰天して妙な声を漏らしたのはビビであった。


「ギクッてなんだよ。ギクッて。おいセルフィ、占ってはもらえないか。そのベルとかいう子のことを」


「実はその……えっとね」


「なんだ、歯切れが悪いな。占いは百発百中じゃなかったのか?」


「だからその……錬金術師が……そのぉ」


「錬金術師がなんだって?」


「とにかく、今はだめ。先生が出てくるのを待ってからにして!」


「先生が何の関係あんだよ。全くセルフィ、今日はおかしいぜ」


「何でもないわ。こっち見ないで!」


「えぇ……おいビビよ、まったく女心っていうのはわからないな?」


「僕に話を振らないでください」


「俺なんか悪いことした? 一応謝っとくけど……?」


「何やら事情がありそうですね。先生が戻ってきたら話してもらうとしましょう」


どうやら皇女殿下はベルとかいう子が、語られていないアベル先生の過去に何か深い関係があると察した。

ここで判明した新たな情報の一つ、ベルという石化病の少女の存在が、今まさに目の前にしている豪邸の中で行われている、先生と謎の女との話に何か深いかかわりがあるような気がしてビビはならなかった。

一刻千秋の想いで先生が玄関から出てくるのを待っていると、意外なことにもめごと一つ起こさずに、先生は屋敷から一人で出てきた。

当然、先生が一行のもとに戻ってくれば一番最初に皇女がこう聞いたのだった。


「こんにちは先生。これでいつでも出発できますね?」


「うむ。ビビの家に寄ったら間髪を入れずに隣町"アルメリア"に攻め込むぞ。

これだけの戦力があればひとたまりもないじゃろう」


「あの屋敷で何を話していたので?」


「詳しい話は聞けずじまいじゃったが、やはりあの家はまだ"カルト"が抜けきってはおらぬようじゃ。

中に、アクセルの手の者がおった。殺してもよかったが意外に協力的じゃったので、殺すのはあとにする」


「協力的とは、何か有益な情報を話してくれたので?」


「遺体の正体についてじゃ。女が求めておった遺体とは、どうやら私の遺体らしい」


「えっ。でも先生は生きてらっしゃいますが」


「"魔女イザベルの悪魔"の遺体。アクセルはそれを部下に競争して獲得させる余興を行っているとのことじゃった」


「魔女の遺体……やはり三十数年前、アクセルとの戦いに敗れた時に封印されていたんですね!」


「そうじゃセルフィ。その遺体も例によってアクセルに封印され、分割され、おもちゃにされているようじゃ。

特にあの家では家宝として崇め奉られていたようじゃな……それをあの女は受け取りにきたようじゃった。

私が来たので主人の猛反対を受け、取り損ねておったのはちょっと面白かったがな」


「もう一つの遺体争奪戦……なるほど。こいつはチャンスだな。ぜひ遺体は頂いていこう」


「何を言っておる小僧? 私の遺体など全くもってどうでもよかろうに」


「先生こそ何言ってんだ。遺体を取り戻せば悪魔を殺す力を持ってるアクセルでも手出しできないだろ。

確かに今までやろうと思えばそれは出来たんだろうが、出来ないようにしないといけないだろ。

だって、悪魔が死ぬと先生も死ぬっていうことだろ?」


「それはそうじゃが……厄介なことに私の遺体は自分の遺体と引き合うことがない。

どうやら"お父様"の遺体を封印した時よりアクセルの技術が進歩しているようじゃな。

セルフィの占いなら何とかなるかもしれぬが今はそれよりも――」


「あ、そういえばセルフィがさぁ、ベルっていう石化病の子がどこにいるのか占ってくれなんだよ先生」


「ベルのことを? 下らぬ。どうでもよいことじゃ。行くぞ貴様ら。仕事の時間じゃ」


「先生まで。何を隠してる? わかりやすい態度だなぁ」


「何を言うか。ばかものめ。何言うか。アホちゃうか」


「おおっ、先生がマジで焦ってる時に出る奴だぞこれ。みんな、今のは貴重だぞ!」


「そうみたいですね」


先生は出身地が帝国の中枢、帝都ではない。そのうえ生まれた時代も非常に古いので、本来の喋り方はこのように訛っていても当然である。

一応喋り方には気を付けており、普段は現代人とも難なく意思疎通できるが極度に焦ると素が出てしまうことも時々はあった。

しかし一千年近く生きている先生の時間スケールにおいての"時々"であり、一世紀に一度、聞けるか聞けないか程度の頻度であった。


「大体、あれ探せ、これ探せじゃと。少しは遠慮というものを知るがいい!」


「うっ、それはそうなんですが……!」


小僧は先生に叱りつけられると条件反射的に逆らえなくなるのである。

この場は結局、きわめて隠し事に対する不信感を増大させているが何も聞けない小僧と皇女殿下は引き下がった。

そして、この街から出るわけにはいかないのでここで街を出る一行とはセルフィはここで別れることに。

皇女もまた、これ以上部屋を空けていることは出来ないので城館に戻ることを宣言し、結局ビビ、先生、そして小僧の三人だけになってしまった。

しかしこれで25話。連載期間も半年。

いや言っている間に一年が経とうというのに物語の一割も進んでいないような気がする。

情景描写や心情描写もかなり少なめでカットも多く、小説というよりも戯曲を読んでるような感覚でサクサク進行しているはずなんですがね。

まあ、序盤に伏線を張ったり、複雑な構成にした分、後半でまとめに入れば一気に回収できる……はずです。

チキンなハートなのであまりハードルは上げたくないですが、こうご期待。

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