第24話 むかしむかし あるところ
「どういうことじゃ……それも悪魔の遺体か。だとしたらアクセル以外の者にそれが出来るとは思えぬが」
「詳しいことはわかりません。私は占いの魔法が使えますが何でもできるわけじゃないですからね。
それより、あの人は一緒じゃないんですね。二人きりだなんて」
「奴は……どうやらあの方に話があるようじゃな。胸の大きい女が好きじゃからのぉ」
「胸が大きい女性が好きってことはやっぱり、母性を求めてるんでしょうかねぇ。
この場にいる私たち三人とも、それはないみたいですね」
「僕を計算に入れないでください!」
「先生がもっと甘えさせてあげないから、そんな風になったのでは?」
「聞き捨てならぬな」
先生は腕組みした指の先をぴくっ、と動かして反応。
本人なりには静かに淡々と、だが傍から見れば単なる知り合いとの世間話の域を超えた熱をこめて抗議を開始した。
「私は十分甘えさせておるっ。この間など胸を――」
うっかり失言しかけたことに一瞬おそく気づいた先生は、無駄な努力と知りつつごまかした。
「そ、その話はやめておくが、とにかく!」
占い師セルフィは未来だけでなく、空気も読める。先生が何を言いかけたかくらい長年の付き合いなのでわかるが、あえて何も聞かないことにした。
「わかりましたって。実のところ、男の人はみんな胸の大きいのが好きとも聞きますし」
「むしろ私は甘やかしすぎたかと思っておる。
やはり"母親"として接しないように気を付けても、どうしてもそうなってしまうのじゃ。
あいつのことが……好きで好きで仕方がない。意志が弱くて困ったものじゃ」
「そんなことはないですよ。とても立派にやられてると思います」
「あのぉ」
ビビはかけがえのない絆のようなもので結ばれているらしき二人の会話に割って入ることに抵抗は覚えたが、勇気を出して口を挟んだ。
彼は続ける。
「そのですね、二人は僕の知る限り、知り合うきっかけがなかったような気がするんです。どうなってるんですか?」
「ウム……聞かれたから話すが、そうじゃな。今から三十年以上も前のことじゃ。まだ初代皇帝が現役でおった頃のことじゃ。
ビビ、お前も知っての通り私は帝国のとある町で囚われの身になっていた……己が生み出した悪魔によってな」
「はい。でもあれからどうなったかわからないですよ。
化け物が現れて全部すっかり切り取られて、何もわからないじゃないですか!」
「そうあわてるな。手短に話してやろう。
小僧は……アベルは当時、信者を募って暴れる私を何とかするため帝国の死神騎士団に見つからないように捜査を続けた。
私を見つけたが、同じ死神騎士団と戦いになり、負傷。セルフィに介抱されたことは覚えておるな?」
「はい。孤児院……のようなものを経営してたんですよね。今もあそこが無事ならいいんですが」
「あの後、私は……というより私自身の悪魔、魔女イザベルの悪魔はアクセルとの戦いになった。
そして肉破れ、骨砕ける、肉親同士の壮絶な死闘……何しろ私もアクセルも不死身に近い肉体じゃったからな」
「そうでなくても、あのお城は血みどろでしたね」
「うむ。私の分身はアクセルとの戦いに敗れたらしい。
アクセルは父親だけでなく、母親までも手にかけていたのじゃ。
なるほど、"被造物として創造主を超克する"などという大それたことを言うだけのことはあるものじゃな。
いや、あれは私から生まれた分身だからある意味妹のようなものかもしれぬな。
まあともかく。それからしばらく、私とセルフィとアベルは行動を共にした」
「だからなんでその三人になるんですか! 大事なところを飛ばさないでくださいよ!」
「やれやれ……手短にと言っておろうに。そこをつまびらかにすると、話が長くなるのじゃがな」
先生はため息をつきながらもビビのために、次のような過去の話をもう少しだけ続けてくれた。
「そもそも私が何故魔女と人々から恐れられるほどの戦いを行っていたのか……?
それは、当時帝都に存在していたある"もの"にある。それが三十数年前のことじゃ。
そしてそれから十年ほど時間はかかったが、アクセルはそれを手に入れることに成功した。
二十二年前、例の皇女殿下と、小僧の別れが訪れたあの事件のことじゃ」
「その"もの"というのは?」
「まあそう焦るな。私はそれをおいかけて必死になっていた。結論から言えば、あれは宮殿にあった。
初代皇帝がこれを盗んだのじゃ。それだけではない。初代皇帝は、玉座すら盗んだものにすわっていた。
本来はあのような下賤な男が座るべきではなかった席なのじゃ」
「なんか、段々わかってきましたよ……?」
ビビは元来、頭は悪くないほうだ。ビビは二人に自分の推理を聞かせ、そして子供ながらにビビの推論は確実に真実に迫っていた。
「なんか大げさな……悪魔の遺体みたいなスーパーパワーをもたらすものみたいなものを勝手に想像していました。
でも違うんですね、もっと個人的な……パワーとかに関係なく大切な思い出のこもったようなものが、初代に盗まれたんですよね?」
「ご明察じゃ、ビビ」
「すごいねビビちゃん。当たらずとも遠からずだよ!」
「まあセルフィの言う通りじゃ。この帝国は五十年近く前、小僧とアクセルが築き上げた国じゃ。
二人が築き上げたものを、初代皇帝が狡猾にも奪った……そしてその証拠となるものを、奴は宮殿という最も警備の厳重な場所に隠した。
実際、今でも皇帝は皇帝のままじゃ。アクセルはそれを公表したり、皇帝を追い落として自分が権力を握ろうとはしておらぬようじゃな。
仮に私が同じ立場だったとしても、同様にしていたじゃろう。それは単なる思い出にすぎぬ。
"証拠"にはなりうるが、そんなことは関係なく、アクセルは取り戻しておきたかったのじゃろう」
「それは一体……?」
「すでに言っている通りじゃ。"それ自体"は大したものではない。大切なものというだけなのじゃ。
それより、お前が聞きたかったのは私とセルフィのことについてじゃろ?」
「はい。名前も変えてしまったようですが」
「セラは三十数年前、あの日に死んだのよ。それからは私は、ただ自由に……そう、私のために生きることにしたのよ。
孤児院には二度と顔を出していないわ。持ち主がいない以上、その後どうなったのかは大体わかるでしょ?」
「それはその……はい。残念です。
今はもうみんな生きていたら大人なんでしょうけど……当時何があったんですか?」
「やれやれ。時間もそんなにないし、手短に話すわね。魔女の事件のすぐ後のことだったわ。
あの町に、まるでカビのようにゆっくりとした速度で、カルトが浸潤してきたの」
「カルト?」
「後で先生に、アクセルという男が作り出した"教団"だと教えてもらったわ。
彼は"魔女イザベルの悪魔"を倒し、弟も殺したわ」
「えっ。でも待ってください。アクセルは二十年ほど前まで死神騎士団にいたんですよね。
その殺した弟と一緒に働いてたんですよ。どうなってるんですか?」
皇女殿下の話を聞く限りでは、彼女は未だにアクセルのことを師として慕っているようである。
少なくともビビはそう考えていたので、セルフィの説明だけでは納得がいかないものであった。
「そうね。私も後でそれを知って驚いたわ。
アクセルは母親である先生ですら何を考えてるのかさっぱりわからない化け物なの。
もちろん、その実力は計り知れない地上最強の魔術師なのは間違いないわ。
でもそれと同じくらい、精神的にも理解の遠く及ばない怪物みたいね。
ごめんなさい、答えになってないかしら?」
「すいません、変なことを聞いて」
「私もわからないのじゃ、すまぬな。アクセルは確かに、子供のころは弟を可愛がっていたが」
先生の言う通りで、ビビも話を聞く限り、弟が立ちふさがってきた時でない限り、アクセルは弟には何もしていないことを理解していた。
そして状況を整理すると、どうやらアベルという男は死神騎士団と闘って負け、その後孤児院で介抱してもらった後すぐにアクセルに負け。
十数年後には、また帝都の宮殿で負けているということを認めると微笑を禁じえなかった。
だが、何を急に笑い出しているのか、と話題がそちらのほうへ流れると、この話はうやむやになってしまう。
一度流れたら、この話はあまり二人もしたくないようなので軌道修正はできないであろうと考察したビビは必死で笑いをかみ殺しながら質問して場をつなぐ。
「ていうか、アクセルに負けた後あの人はどうなったんですか?
お兄さんがもう一度アクセルに敗れるまでに十年以上の時間があるようですが」
「数年後、彼は死神騎士団になったの。これも後でしったけど、その時にはもう団長としてアクセルがいたみたい。
何しろ、魔女イザベルの討伐という大功をひっさげた魔術師が来たんだから、すぐに団長まで昇進して当然かもしれない。
まあでも、実はそいつが一番危険な奴だったというのは笑える話よね」
「それで、どうなったんですか?」
「私の孤児院にはミリーって子がいてね。あの子が魔女イザベルと領主の城から、傷ついた彼を救い出してくれたの」
「その子は今どうしてるんですか!?」
何故食い気味にビビが聞いてくるのかはわからないいが、セルフィは聞かれたことには正直に答えた。
「言ったでしょ。私はもうあの子たちのお母さんじゃないの。今四十過ぎってところでしょ。
どこかで家庭でも持ってるか……いずれにせよ連絡を取り合う方法はないわね」
「そんな。薄情な」
「ミリーは彼を連れて帰ってきてくれて、彼は記憶が抜け落ちていたの。
それから数年一緒に暮らしてたんだけど、そこへカルトが浸透してきた。
やっぱり、先生とアクセルも親子だからね。考えることは似ていたってわけ。
先生も魔女時代はたくさんの信者を抱えていたからね」
「カルトというのはアクセルの部下というわけですか。彼らとはどうなったんですか。やっぱり戦ったんでしょうか」
「そうね。私はあんまり戦うのは得意じゃないけど、そうも言ってられない状況だからね。
街を守るために戦って、私と彼の間には子供も生まれたんだけど」
「ちょっと待ってください」
衝撃的な情報に一瞬ビビは耳を疑った。だが同時に、ようやく一連の昔話が、一番最初に質問した答えへと繋がってきたのだと理解した。
セルフィは何食わぬ顔で続ける。
「私たちの子も三十過ぎだからね。連絡はそれなりにとってるけど今は一緒にいないわ。
カルトとの戦いの最中に生まれた娘を守りながら戦ってたんだけど、段々多勢に無勢で……戦いは劣勢になってきてね。
その時たまたま駆けつけてきてくれたのが先生だったの。つまり私たちは義理の親子でもあるのよ。
なんだか友達みたいだって言ってたけど、まあ当たらずとも遠からずってところかしら?」
「そういうわけじゃ。小僧は自分の娘とほぼ同い年の女の子じゃったかつての皇女殿下を溺愛していたのじゃろう。
まさか自分に子供がいるなど、本人は想像だにしていないじゃろうがな」
「本人は自分のことを人形とか言っていましたが」
「向き合うのが、考えるのが怖いのじゃ。自分の膨大な過去を。覚えのないしがらみを振り返るのが。
私にすべてを捧げて、人形として仕えることが楽なのじゃと思う。
ただ、もはや小さな子供ではなくなったとはいえ、皇女殿下にはやはり興味を示しているようじゃ。
今頃どんな話をしているのやら」
「あのぉ。セルフィさんはそれでいいんですか。先生に何か口止めでもされているんですか?
かつてはその……二人はご結婚されていたわけなんでしょう?」
「いや結婚はしてないけど」
「そうなんですか!?」
「そういうこともあるわよ。先生だって、別に"孤独の悪魔"と結婚していたわけではないみたいだし。
子供もとっくに独立していて、おまけに私のことも覚えていないんじゃ、空しいだけでしょ。それに……いや、なんでもないわ」
ビビには、「それに」に続く言葉がわかる気がした。
それはおそらく、セルフィが五十をとうに過ぎているだろうに異様に若々しいことと関係があるのだろうと思われた。
ここはそれほど首を突っ込まないという選択肢もありえたが、ビビはあえてこう口にした。
「話してください。聞きたいです」
「また直球で聞いてきたわね」
「私が記憶を直接見せようかの?」
「それには及びません、先生。それにその目、もうだいたい何があったのか察してるって感じね、ビビちゃん」
「まあ、少しは想像つきます」
「そう」
セルフィは先生に探るように目配せし、先生は仕方がないな、と言外に言う時に使うあのお決まりのしぐさをした。
つまり肩をすくませ、手を広げて目を閉じ、首を軽く縦に振ったのである。セルフィは壮絶な過去を平坦な調子で話し始めた。
「カルトとの戦いは妊娠中に始まってね。そろそろ生まれるって時期に私……カルトに襲われたのよ。
災いの子。腹を裂き、その血を大地に捧げねばならない。そんな教団の信者たちの声が聞こえてきたときは顔面蒼白になったわ。
彼らの恐ろしい所は町にいる誰がその協力者になってるかわからないところでね。ちょっとした罠にはまって捕まったの」
「まさか……」
「その時先生が助けてくれたの。先生もまさか、私のお腹に孫がいるなんて思ってなかったでしょうけど。
血まみれの妊婦に先生は言った。生き残るか、人として死ぬか選べと。選択肢なんてなかった。
私は見ての通りだけど娘も特異体質になってね。
彼は……娘の特異体質を治療するカギは宮殿の"王立魔道書庫"にあるはずだと言って出ていったの。
その書庫に入るには死神騎士団に入らないと。驚いたのは、すでに騎士団の団長だったアクセルに接触してみたら、喜んで彼を推薦したらしいってことね」
「何故アクセルはそんなことを?」
「私に聞かないでよ。まあ、二人は双子でそっくりだったわけで、団長の能力に疑いのない団員は反対しなかったみたい。
彼はその中で教育のかたわら、古今東西の魔法の知識が集約された魔道書庫で研究を行ってたの」
「ていうか、先生に聞いたら早かったんじゃないですか。治療の仕方を。先生の影響でそうなったんですから」
「それが私の人生最大の後悔の一つじゃ。何も事情を知らない私はすぐに立ち去ったのじゃ。
よりによってその子は私と血がつながるがために、予想していなかったことが起こってな。
セルフィと次に連絡を取ったのは十年近くが経過したあとじゃった。
まあ、これが私とこの占い師が旧知の間柄である理由じゃ」
「うーん……特異体質とか今その子がどうしてるのかとか聞きたい気もしますけど」
ビビは期待せずにこう言ってみたが、やはり詳しい話はまだ聞けそうになかった。
「まあ機会があればね。こうして色々昔話をしたけど、長らく続いたアクセルとの戦いも、今かなり惜しいところまで来ている。
残る遺体の反応はもうほとんどないそうだし、必ず残った遺体の場所にアクセルはいるはずだと先生は信じてるわ」
「アクセルは私に興味はないが、逃げ隠れも好きではない性格じゃからな。自分に絶対の自信があるので、逃げたりはせぬ。
セルフィのような犠牲者を出さぬためにも私は足を止めるわけには行かぬのじゃ。
これは私のまいた種。始末は私がつけないといけないのじゃ」
「わかりました……すみませんでした」
「結局ものすごく長い話になってしまったのう」
「ほんとですね先生。これでもすっごく言葉を選んで短くまとめたんですけどねぇ。
ま、とりあえず私との過去はアベルには内緒ってことでお願いねビビちゃん。
自分がいたのに守れなかった……その重圧からたぶん逃げる形で、私たち親子から離れて四半世紀前に、帝都へ行ったんだと思うの」
「そうですね。本当に帝都の宮殿にカギがあったかわかりません」
「でもそこにいたからお姫様を守れたのよね。
そう……あの時だけは、彼は、何があっても守りたかったのよ。
姫様を守るために命がけで。文字通り捨て身で守ったんだと思う。
私にはわかるわ。あの時の姫様のことを、たとえ忘れてしまってもまだどこかで、きっと魂が覚えているんだと思う。
ビビちゃん、あなたが便利屋の二人に助けを求めてきたとき、娘と、姫様……二人の面影が重なったんじゃないかしら?」
「僕は男ですよ!」
「その時は女の子の姿だったでしょ。とにかく、彼はあなたの力になってあげたいんだと思う。
確か隣町の故郷に行くんだったっけ。よかったら鉄道に乗っていく?」
「えっ。鉄道って、列車ですか。乗っていいんですか!?」
「何をテンション上がっておるのじゃビビよ。もう船で行くと決まっておる」
「……はい、すいません」
「さて、私はそろそろ小僧を迎えに行ってくるとしよう。
二人きりで話したいこともあるじゃろうが、今はそれほどゆっくりしていられる時間はない」
「あれ、先生。もしかして二人に気を使っていたんですか?」
「私とて姫様とも旧知の仲じゃ。そのくらいの情はある。
ただ、私はそのついでに寄っておかねばならぬところが。
セルフィ、例の遺体を探している女の居場所は?」
「そ、そうでした。私のバカ!」
「どうしたのじゃ」
「占いで先生の居場所を知ってここまで来たんですが、彼女に教えたのもここだったんですよ!」
「こことは……あの、大きな船をたくさん持った大商人さんの家ですか?」
「そうなの。先生、しかしどうしてこんなところにおられるんです?
私は一体何の偶然があったのかと非常に不思議でして」
「偶然というか、運命なのやもしれぬな……もしかすると」
「どういうことか説明してもらっても?」
「ウム。ビビ、さっきも言った通りここの主は数十年前まで私の信者。
つまりは、魔女イザベルをあがめるカルト教団の一員じゃった。
それなりに重要な役職で、組織の金回りをよくするのに一役買っていた大金持ちじゃ。
この辺の町の商売で、この商人一族の手が伸びておらぬ業界はないと言ってもいい。
それとビビ、さっき会ったお嬢様の依頼、覚えておるか?」
「シンファミリーがどうとか……でしたね。
ちょっと待ってくださいね。今思い出しますから。
えっと、そう、好きな人がいるのにファミリーの男と結婚という話があるんでしたね」
「うむ。政略結婚の道具となっているからには、新郎であるシドという男はファミリーでも若頭的な立ち位置の、それなりに有力者なのじゃろうな。
ファミリーもあの商人一族を狙ってきとる。かつての私と同じことを考えておるわけじゃ。
そして……おそらくあの商人はアクセルに関係があるものとも考えられるのじゃ。
何しろ、セルフィの言った怪しい女が目指すところじゃからな。
私たちはその女と入れ違いにでもなったか……?」
「まだ中にいるかもしれませんね。あ、そうそう。
遺体の反応でヒメサマとお兄さんもいる場所がわかりますよね……どうです?」
「そういえば非常に近いが……いや、近づいてきておるっ!」
「なにっ。それじゃ先生、これも運命というやつですか?」
「いや。単に私たちがここにいるので、向こうも遺体の反応を見て近づいてきているだけじゃろう。
ここで待っておれ。私は屋敷へ一人で突入する」
「大丈夫なんですか? 二人を待ったほうが。凄く強力な魔法使いだと聞いてますし」
「心配することがあるとしたら、私が黒歴史に触れて魔女時代に戻ってしまうかもしれないことぐらじゃな」
「あはは……」
「あは……」
と、先生の笑いにくい自虐的なギャグを聞いて、特に何も言えずに笑うしかなかったビビ達。
二人はそれほどコミュニケーション能力が高いタイプではなかった。せいぜい普通程度である。
大きな商人の屋敷へ戻っていく先生の背中を見送りしばらく経つと、やはり例の二人組がやってきた。
未だに二人は性別逆転しており、皇女殿下たちが来るとわかっていなかったら、ビビ達にも知り合いの変わり果てた姿を見ても正体を推察することは出来なかったほどである。
「よう二人とも。先生はあの中に今いるのか?
残念だなぁ。先生の知り合いなんだろ、あのでっかい屋敷の一族は。
客間に招かれれば、いいお茶と甘いお菓子がもらえたかもな」
「僕そんなに子供っぽいですかね?」
「子供だろうが、どっからどう見ても。
それで……やっぱりあの屋敷、俺も行かないほうがいいかな?」
「何言ってるんですか。見ればわかりますよ」




