表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

第23話 黒歴史

「二十二年前、宮殿に眠っていた"オタカラ"ってわけだな。

そりゃいいね。ミイラ化した親父の遺体を、先生と集めるよりは色気があるってものだ」


「全くですね。ご兄弟を倒すというのは複雑な思いもあるでしょうが……」


「ないね、まったく。ヒメサマの口からそんな言葉が出てくるとは驚いた。

内輪もめ、お家騒動は王侯貴族の最も得意とするところだ。

それとも、俺に気を使ってそんなことを言ったのか?」


「背伸びをしてるなんて言わないでくださいね。私はもう大人……あなたよりも年上になったのですから。

妙な気分ですね。今のあなたは、むしろあの頃よりも一段と若く見えます」


「さっきおっしゃった通りでございますよ。

あんたが大人になったってことだろ、お姫様」


皇女殿下は、相手がそろそろ話を切り上げたそうにしているのを察してか、会話を打ち切るようにしてこういった。


「そういうことに、しておきましょうかね」


残酷なことに、皇女の想像通り小僧は別にこれ以上の話を望んでいないという証拠に、すぐにこれに乗っかり、終了宣言を出した。


「……さて、俺はそろそろ行かないと。先に外で待っている。

男に変装して出てくるんだったな。大丈夫か?

姫様の部屋から知らない男が出てきたらちょっとした騒ぎになる。

ましてや未婚の……まあ、既婚でもどっちにしろ同じことだが」


「あっ。それは考えていませんでした。まあ大丈夫です。

私のことが少々噂になるかもしれないというだけですから……行きましょう」


「あのなあ、もっと自分の……いいや何でもない」


二人が多少柔らかな雰囲気で話していたちょうどそのころ。

ビビと先生は目的地にたどり着いていた。

そこは港湾区域に存在するちょっとした屋敷だ。もしも現代であれば、そこはおそらく高層ビルになっていただろう。


この屋敷は今でいう商社の本社としての機能を有する大商人の邸宅だっただからだ。

この間小僧と先生が襲撃したシンファミリーの邸宅と一緒で、芝生がよく手入れされた大きな前庭があり、住んでいても迷いそうだ。

家を出発してから、家のカギを閉め忘れたかどうか気になった時など、確認に戻るのも一苦労である。


「こんなところに本当に知り合いがいるんですか?」


「うむ。ビビ、お主も知っておろう。私の黒歴史を」


「黒歴史って……魔女時代ですか?

先生の場合、何百年前とかじゃないですもんね。たった二十何年か前なんてつい最近のことでしょ」


「う……うむ。穴があったら入りたいのじゃ。私は帝国があの方の遺体に目を付けたことを知っていた」


「あの方の遺体って言うとアクセルがバラバラにしたっていう?」


「そうじゃ。悪魔の封印された遺体などというものは、通常出回ることはありえぬ。

悪魔は基本的に死ぬことがないからのう。

魔界においても屈指の強大な悪魔の遺体が人間の手に入るなどあり得ぬことじゃ。

それが現実になってしまった……どうなったと思う、ビビ?」


「わかりません。でも、スーパーパワーは得られそうですね」


「その通りじゃ。それほどの呪物を使えば世界一の強大な魔法使いにも簡単になれる。

私があの方の遺体を集めているのは何も、愛する方のためだというだけではないのじゃ」


「それで……その魔女時代が何か関係が……?」


「だからこのコネは使いたくなかったのじゃ。私の魔女時代のコネなのじゃ。

この商社は老舗での。三世紀も前から、すでにこの町で海運業をし、成功を収めていた商船の……ム?」


「おや、あの人は……?」


ビビと先生はほぼ同時に、屋敷から若い女性が出てきて、これが知っている顔であることを認めた。

潮風吹き付ける港町に似つかわしくないような白い肌である。

それだけで、この町においては箱入り娘としての証明となる。

そうでない家の娘はほとんどが朝から日差しを浴びながら家業を切り盛りしているか、畑で農作業をしているかのどっちかである。


「あ、どうも便利屋さん。家まで来てくれたんですか。あの件、お忘れじゃないですよね?」


向こうもこちらに気づき、同じく知った顔の者が門の外にいることを認識していたことがはっきりとした。

先生は面倒くさそうにしながらこう答えたのだった。


「お父上に用がある……お邪魔させてもらうのじゃ」


「父上に? あ、船が入り用なら私のを貸して差し上げましょうか?」


「え、よいのか?」


「もちろんですわ。私には好きな人がいるのです。

ファミリーのものと結婚させられるくらいなら何でもします!」


「あれ……先生、話がすんなり通っちゃいましたよ」


「ウム……少々拍子抜けじゃったが、まあ問題はないじゃろう。船はどこに?」


「案内させてください。すぐそこですから」


なるほど確かに、老舗の海運業者の屋敷だけあって、自家用の船を置いている船着き場は家から徒歩一分ほどの極めて近いところにあった。

この時代にはすでに蒸気機関がある。お嬢様の船は自家用であるにも関わらず、動力を備え、帆をあげずに水の上をゆくことが出来る最新式だった。

サイズは一般的な漁船と変わらない。これを使えばさぞ遠洋漁業が捗りそうだが、むろんほとんどこの船は使われていない。

無駄遣い、あるいはぜいたく品と断言してしまってよいだろう。


父や祖父たち、海に生きる男の大事な娘にあるまじきことに、お嬢様は船酔いするし、泳げないし、言うまでもなく船を操縦することは出来ないとのことであった。


「僕たちに船が操舵できるわけありません。船だけ貸してもらっても……ね?」


「問題ないと言ったじゃろう。ここは港町じゃぞ。三百も出せば、三日ほど体を貸してくれる海の男はいくらでもいる」


三百は、だいたい日本円にして三万円程度だと思ってくれてよい。

この国ではすでに紙幣が普及している。史実でも、ここまで時代が進めばアメリカやヨーロッパでも紙幣は用いられていた。

ただしまだ、金貨や銀貨といった"その貨幣自体に額面と同じ価値がある"古い貨幣も併用されている、まさに貨幣の過渡期にあった、という点でもこの国と欧米は同じだ。


先生は紙幣は持っておらず、銀貨を三百枚束ねたものを払おうということだ。

このように百枚単位で硬貨の中央に空いた穴にひもを通して束ねたものは帝国で一般的だ。

銀貨三百枚というとものすごい金額のようだが、実はそうでもなかったりする。

この国の銀貨はメッキがされた、単なる鉄板である。

純銀の含有量は一パーセントにも満たない悪貨なのだが、昔から流通しているのでこれを使うほかない。


内政も優秀な現在の二代目皇帝は、就任直後に純金の金貨を制定し、発行。

むろん日常生活では高額過ぎて金貨など使えないので、現在は紙幣も発行している。

これと金貨を兌換だかんするという約束で紙幣はその価値を保証され、一般に使用されている。

むろん、紙幣を偽造した者は、死神騎士団が現れて魔法で抗うことのできない尋問をされ、洗いざらい喋った後は一族郎党皆殺しという極刑に処される。


「それは確かに。じゃあ依頼の件、お願いしますわね。でも父に御用があったのでは……?」


「それはもうよい。船を貸して欲しかったのでな。ご厚意に感謝する、お嬢様」


「どういたしまして。あ、肌が焼けちゃう。もう行きますわね」


肌が焼けることを気にするのはどこの国でも大抵変わらないもののようで、お嬢様は日差し照りつける海辺の船着き場を忌々しそうに睨みつけてから、そそくさと家へ戻っていった。

玄関から出て何をしようとしていたのかはわからないが、お嬢様はもしかすると用事を忘れて家に戻ってしまったのかもしれなかった。

仕事をしてくれる海の男はすぐに見つけるとして、それよりも先生のコネのことがビビは気になっていた。


「さっきの口ぶりからして、あのお嬢様のお父さんって?」


「ウム……二十二年前までは"魔女イザベル"の信奉者じゃった男じゃ。

お金があったので利用させてもらっていた。

もうこの町に来ることもないと思っていたのじゃが、ビビ……お前が遺体を持っていたのでな」


「持たされていたんですよ!」


「そうじゃったな。お前に遺体を持たせたのが誰かはわからぬ。

じゃが遺体について詳しく知っておる者は、帝国の宮廷、あるいはアクセルのどちらかしかあり得ぬのじゃ。

お前はすでに奴らの陰謀に巻き込まれている。最初会った時、守ってやると言ったのはそのためじゃ」


「陰謀……どこからが陰謀なのでしょうか。僕が女の子にされたこと?

それとも両親が死んだことまで含めて……でしょうか」


「わからぬ。が、可能性はある。それでは海の男を探しに行くとするかの」


「はい。でも忘れないでくださいよ、最初は僕の家ですからね」


「わかっておる」


二人が船の操舵手を見つけるまでの話はカットでいいだろう。

約一時間ほど魚市場を散策し、魚市場で魚などを売っている女性たちに聞き込み。

彼女らの夫や息子などで手が空いている者がいないか聞いてみたところ、一人の女性が父親を紹介してくれた。

その女性は見たところ四十代くらいの魚屋のおかみさんなので、父親ともなると恐らく見た目から察するに八十近い老骨である、というのがビビの印象であった。

このオヤジは引退した海兵であり、さっきのおかみさんは、海兵時代に海軍基地のすぐ近くで働いていた女性と結婚してその間にできた娘だとのこと。


彼女が地元の漁師に嫁いだので、今は漁師の妻として魚市場で商売に精を出しているようだ。

父親は安い軍時代の年金をもらいながら、老いた妻と暮らしているため、得意な船の仕事がもらえるなら歓迎であるということを先生たちは知りえた。

要するに、この時代のこの町においては実に平々凡々の幸せな家庭の話である。

信用できそうな男だと思ったので先生は出会ってすぐに引退した海兵と契約を結び、例の波止場へと案内した。

そこで、オヤジが船の中に入って船の仕様を確認している待ち時間に先生たちが談笑しているときに話を移そう。


「ム、ビビあれを見よ」


ビビと向かい合って話をしていた先生が突然ビビの後ろを指さした。

振り返ってビビが見てみると、後ろの比較的大きな通りには二人の知り合いがこちらへ歩いてくるのが見て取れた。


「あの人は確か占い師の……?」


「セルフィが何か用か……あまりよい予感はせぬが」


セルフィは見た目は若いものの五十過ぎである。

二人は気がついてしまったので、向こうが歩いてくるのをぼーっと待っているのではなく歩いて彼女との距離を詰めていく。

砂っぽい道の上には、ノラネコが抜け目なく海の男たちや、それを売りさばく市場の女たちから盗んだ魚の骨が、時間の経過で粉々に砕かれたものなどが数えきれないほど落ちている。

いずれは黄色ではなくて白い道になってしまいそうなほどである。もっとも、アスファルトが敷かれるまでの話だが。

二人がセルフィのほうへ歩いてくにしたがい、二人の踏む道は黄色っぽい砂の割合が多くなっていく。


「どうしたのじゃ。店はいいのか?」


「店はいいのかはこっちのセリフですが。先生」


「金持ちの依頼人が二人もいてな。しばらくは暮らせるのじゃ」


「まあそんな話はいいです。二人とも、緊急の件があります。アベルにもぜひ教えておいてください」


「どうしたのじゃ?」


「占い師さんから緊急の話って聞きたくないなぁ……怖そう」


「まあそういわずにビビちゃん。もっとも、確かに不吉な知らせではあるのだけど」


「ていうか、どうして先生の居場所がわかったんですか。それも占い?」


「まあ、そんなところですねビビちゃん」


「用があるなら話してみよセルフィ」


「はい」


占い師セルフィはここまで歩いてきただけなのにちょっと息切れしていたので、先生に話をするよう促されるとしばらく呼吸を整える間をおいてから話し出した。


「実はさっき、遺体……それもミイラ化した遺体を欲しがっている客に出会いまして」


「興味深い話じゃな。じゃが遺体の反応はない。そやつ自身は遺体を持っておらぬようじゃな」


「ええ。若い女性……私が魔法の扱いに長けていることも見抜かれていました。

それで、少し不思議なことがあったので報告にと」


「まったく。けられておらぬじゃろうなセルフィ。

その足でまっすぐここまで来たんじゃろう」


「すみません。慌てていたので……!」


「して、不思議なことというのは?」


「彼女は、このような遺体を探している、と言って雑嚢から遺体の指のようなものを見せてきました。

遺体は常に魔力を放っており、強い魔力を帯びた血を吸い込ませると生気を取り戻すといっていました。

そのことから、探している遺体は占い師の私なら造作もなく見つけられるだろうと」


先生はここで葛藤にかられた。次の二つある選択肢のうちどっちを先にセルフィに聞こうか極めて悩ましい、そう思ったのである。

ひとつは、"遺体の場所を教えてやったのか?"

ふたつは、"そいつは今どこにいる?"


ただ、話の腰を折ると余計な時間がかかりそうなので素直に話を聞くことにした。

セルフィは続ける。


「それで不思議なことというのは、先生。この町で新たな遺体の指を発見されたそうですね?」


「そうじゃな。ビビに出会ったことがきっかけで手に入れることが出来た。

これでもう遺体の大部分は集め終わったのじゃ。

仮にアクセルが遺体をどれだけ細分化しようとすべて見つけてみせる」


「そうなんです。念のため聞きますけど、悪魔の遺体っていっても、人間の姿なんですよね?」


「そうじゃが?」


と答えたところで、ようやく先生はセルフィが何を言いたいのかわかった。

話を横で聞いていたビビもいくらか違和感を覚えたらしく、先生に代わって新たな質問をセルフィにぶつけた。


「妙ですね。遺体同士は感応しあうので、持っていればお互いにその位置がわかると聞いてます。

でも先生にもその依頼人にも、そのようなそぶりはないみたいですねぇ……?」


「そうなのよねビビちゃん。それに彼女は、指を一本持っていた。先生、もう一度だけ確認しますね。

悪魔の遺体は大部分をそろえた……遺体は人間と変わらない姿をしている。ということは?」


「ちょっと待つのじゃセルフィ。話を聞く限りでは、まるでその女が、私の知るのとは別の遺体を集めているように聞こえるのじゃが……?」


「だからここに急いできたんですよ先生。やっぱり、指は十本ちゃんとあるんですね」


「足も併せて二十本じゃ。率直に言って、その女に興味がわいてきたのじゃ。どこにいる?

もしも遺体の場所を占って教えてやったのならそこに案内してくれると嬉しいのじゃが」


「そもそも、なぜ彼女がこの町に来たのかは知りませんが、気になるのはビビちゃんが老人から受け取ったという遺体のことですよね。

ひとつ確かなのは、そっちの遺体のほうは先生が探してるほうで、あの女性のものは違うということです」


タイトルすらつけないでこの作品は見切り発車しました、

自分はストーリーを考えるのは好きなんですが、タイトルはあまり興味がないので。

タイトルにすごいこだわる人も多いんでしょうけどね。

今更タイトルを「肉と骨」に変えようかとも思ってるんですが、あまりにタイトルが変わりすぎるのでやめておきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ