表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/60

第22話 オタカラ

オタカラといえば、ピクミン4でオタカラ要素が復活して嬉しいです。

シリーズでは、オタカラが初登場した2のファンなので。

「これが二十二年前の出来事じゃ。私もアクセルが当時、何を狙っていたのかは知らぬ。

じゃが、おそらくはヤツが死神騎士団に入ったこと自体、宮殿にあった何かを奪うことが目的と考えられるのう」


「まあ、そんなとこだろうな。俺はこの時のことは記憶があまりはっきりしないが、やはりあの時の少女だったのか、皇女殿下」


「あれから二十年あまり、私の肩代わりをして記憶の悪魔と記憶を取引したこともあったからのう。

忘れたことすら忘れてしまっていたのじゃろう」


「あの……お兄さんは今はどうなんですか?」


「どうって、なんのことだビビ?」


「だからですね、今でも先生と行動を共にして、アクセルさんを倒そうと思ってるんですか?」


「それは今も変わっちゃいない。過去がどうだろうと。俺がなんであろうと」


「それは!」


と声を張り上げ、ビビは強い語気で言った。


「それは今も自分が人形だからって、そう思ってるんですか!?」


「俺がなんであろうと、大した意味はない。人形だろうと、人間だろうと。

先生は独りだ。俺がそばにいてやらなくちゃならないんだ」


「それはやっぱり愛してるからですか?」


「恥ずかしいことを言わせるなよ。まあ、大切に思っているのは認めるけど。

記憶を見てみんなわかったろ。俺は先生のために存在している人形だ。

まだ信じていないのか。だったら見せてやるよ」


といって、小僧は自分の着ている服の袖をまくって腕を見せた。

もしかするとあまり日常生活で見る機会がない人もいるかもしれないので、一応、補足として説明しておこう。

成人男性の腕は、よほどの巨漢デブでもない限り、かなりくっきりと太い静脈が見て取れるものである。

特に手の甲などには青緑色をした山脈のような隆起が見られるのが常だが、彼の手の甲にも手首にも、血管らしきものは全く認められなかった。


さらに驚いたのは次の段になってからのことで、思わずビビはたじろいで声を出してしまった。


「うっ、何する気ですか!」


小僧はどこかから短剣を取り出した。むろん戦闘用ではない。

ナイフを振るより拍手を一つ打ったほうが小僧の場合早いし、効果も高いのであるが、これを携帯しているのは主に料理のためである。

そして、これの切っ先を昼前の太陽を反射させながら腕に突き立てた。


ガリッ、という岩石か何かを固いもので削ったような音がしてナイフが肌の上を目にもとまらぬ速度で滑り、腕には傷一つなかったのだった。


「見ての通りだ。俺は銃で撃たれても死ぬことはない。

俺が"動きを止める魔法"を使うのは、この体で戦うと相手のほうが危険だからだ」


「いつの間に……二十二年前までは確かにあなたの体は……!」


「俺はそもそも人間として生まれたわけじゃなかったんだ。

この体は二十二年間に、先生に改造を受けただけの話だ」


「なんで!」


「これでも俺は結構気に入ってるんだぜ。

先生に大切に思われてるからこそ、こういう過剰な防衛機能がついてるわけだろ?」


「そうじゃな。小僧、お前にはもう二度と二十二年前のようなことがあってはならぬ。

私はもう二度とお前のそばを離れないと決めたのじゃからな」


「ああ。俺も先生のそばを離れるつもりはない。ここが俺の居場所だ。

実のところアクセルにも親父の遺体集めにも興味はない」


一応振り返っておくが、先生が集めている遺体というのは、アクセルがバラバラにした孤独を司る悪魔の遺体である。

遺体は正確には死んでいないが、その力は息子であるアクセルの手で完全に封印されて四方に散らばっている。

そしてアクセルとアベル兄弟は、先生と孤独の悪魔が魔術によって生み出した生命体で、正確には実の息子ではないのがまたややこしいところである。


「首は突っ込んじまうことにはなったが、帝国の権力争いにだってな。

それに、俺自身の過去とか、"本来の俺"とかいうものにしたって、どうでもいいってのが本音なんだお姫様。

重要なのは先生の目的……それに従うことだけだ。まずは親父の遺体だな」


「そうじゃな。ここへ来たのも、それが目的だったが随分脱線してしまったのう」


「そういうわけだビビ。忘れたわけじゃないよな。行くぞ、お前の故郷へ。

そしてお前の身に何があったか暴く。お前に協力してやる見返りに、ファミリーをつぶす手伝いをする。

今からやるべきことだ。頭に叩き込んだな?」


「はい……なんか複雑ですけど」


「何が複雑なんだよ。俺がどこの誰であれ、お前には重要なことじゃないはずだ」


「何でしょう。それは正論なんですけどこう……釈然としないというか……皇女殿下のために何かしてあげたくなるというか――」


非常にわかる。とでもいいたげに、先生もビビの言うことにうなずいていた。

小僧は呆れたように少しため息をついてからこう言った。


「他人を助けるなんて自分に余裕がある奴のすることさ。少なくとも、俺には何一つ欠けたものはない。

大切な人がいて、そこに俺の居場所がある。ほかにどうしても必要なモノなんて、人にはないだろ?

だから俺はお前を助けられる。余裕があるからな。お前は黙って俺らに助けられていろ」


一人前の男じゃあるまいし、何をイキがって皇女様のために何かしてあげたいなどと大それたことを言っているのだ。

子供は黙って、大人に守られていればいいのだ。

とまあ、小僧の言ったことを直訳をすればこのようになるだろうか。ビビもおおむねそのように今の話を認識していた。


ビビは反論しないことを選択した。小僧には何を言っても通じはしない。

先生のことが何よりも、自分のことよりも大切だからだ。

過去に興味などない、などと冷たいことは言わないで皇女殿下にやさしくしてあげてほしい、というのがビビの本音だった。


しかし小僧にとっては今、この二十二年間一緒にいた先生が何より大事で、あとはどうでもいいという気持ちになってしまうのに納得する自分がいることも、ビビは自覚していた。


「そうですね……ここで話していてもあまり変わりはありません。行きましょう」


「よし。行くか二人とも。案内は任せたぞビビ。先生、船の手配は?」


「それを頼みに来たところじゃ。ちょっと耳を貸せ」


「ん?」


先生は小僧に少し背中を曲げさせてこう耳打ちしたのだった。


「皇女殿下のことじゃ。お前が頼めば嫌というまい」


「俺が言うのかよ。しょうがないな」


皇女殿下にかなり冷たくしてしまった手前、言うべきとわかっていても言い出しづらいのが人情というものである。

純粋な人間でなくても通常の人間心理を備えている小僧は、後頭部をかきながら目をスイスイ泳がしつつこう言った。


「あー、その、もしかしたらすでに話は通ってたりするのかなぁあ?

俺たち、ほら、あの、シンファミリーとかいうのを討伐しなきゃいけないわけだろう。

足が必要なんだよ。自動車とか船とかあったりしないか?」


「はい。連中は隣町にいるようですね。

その情報は入ってます。自動車なら今すぐでも用意できますが、運転は出来るのですか?」


「運転ねぇ……先生、どうだ?」


「私は機械の類はからっきしなのじゃ」


「じゃあどうする。アテはあると言っていたが」


「ひとつは皇女殿下。もうひとつは占い師じゃ。彼女は金持ちのパトロンがいるのでな」


「セルフィか……どっちにしろ金がかかるな」


「船か自動車が要る。別に金を使ってもいいのじゃが、返すあてがない。

今回の依頼の報酬は遺体、と約束しておるからのう」


「世知辛い世の中だな。この国一の金持ち一族の姫様が目の前にいるってのに」


「まあ、そう貧乏くさいことを言うでない。

このツテはあまり使いたくはなかったが、おカネがない以上は仕方あるまいな」


「おや。というと先生、移動手段にアテがあるってことなんだな」


「この町の交易商に知り合いがいるのじゃ。

こちらの言うことを確実に聞くと保証するので心配は無用じゃ」


「何それ……こわっ。昔その人、先生にどんな恐ろしい目にあわされたんだ……?

でもまあいいか、仕事が捗るなら何でもいいさ。

行くぞビビ。お前の家まであとをついてくるんだ」


「言われなくても。あ、それでは――」


小僧に返事をした後、ビビは後ろを振り向いて軽く挨拶をした。


「皇女様、少し寄り道にはなりますが、シンファミリーを壊滅させるために必要なことなんです」


「そうですね。詳しくはわかりませんが……あなたに協力して差し上げることが必要と聞いています」


「はい、それでは失礼します!」


「ああ、そうそう。お姫様。あとで二人で話せるか?」


「えっ、はい、なんでしょうか?」


そろそろここでの話も終わりかというところで、唐突に小僧が会話の継続を提案をした。

むしろ自分のほうから同じことを言いだそうかと思っていた皇女は内心ドキドキしながら聞き返した。


「二人で話したい。先生たちは先に行っててくれ。遺体があるから、先生の居場所は俺にはわかる」


「うむ、そうじゃな。積もる話もあるじゃろうからゆっくりしていけ。

それではビビ、ゆくぞ。何か途中で美味しいものでもおごってやろう」


「やった」


こうして三人は分かれ、先生とビビのみ城館をあとにした。

ちなみに筆者ですらうっかり忘れそうなことであるが、このとき小僧も含めて彼女らは女装している。


二人を見送ると、一見して年頃の娘にしか見えない格好の小僧が姫様に話を切り出した。


「先生の手前ああは言ったが、やはり隠されると気になってくるよな」


「えっ、何がですか先生?」


「俺があんたをかばって死んだのはわかったが、具体的な状況はあんたしか見ていない。

実際、先生が俺たちに見せた記憶は、ギリギリ先生が事情を知っている時点からのものだったな。

恐らく意図的に隠してるわけではない……先生も何度も記憶を失ったりしてるからな」


「私も詳しくは知りませんでした……まだ子供でしたから。

ただ、あのすこし後のことでした。

魔女イザベルという死神騎士団にとっての大敵というのが、先生を生き返らせてくれたあの恩人だったと知ったのです」


「それは聞いている。確か、アクセルはそのことを帝国から隠そうと動いたが……逆に先生はアクセルを追って宮殿まで来たんだ」


「そうだったのですね。アクセル様が騒ぎを起こしたので宮殿に入りやすかったという側面も恐らくはあったのでしょう」


「ああ……死神騎士団は壊滅だったからな」


「結局、それでも魔女イザベルが何をそこまで帝国の皇室に恨みを抱いていたのか……それにアクセル様の目的も。

今もって不明です。あなたをやったのはアクセル様でしたが……正直、戦いにおいての格が違い過ぎて何をしていたのかはわかりませんでした」


「そうか……無理もないか。だが今は違う。

姫様、魔法をコピーしてみせたがあれはすごかったな、さっきのやつ」


「はい。あ、そうだ。ぶしつけなお願いで申し訳ないのですが、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「私を外へ連れ出してはもらえないでしょうか。

私は男性になることが出来るはずですから」


「おいおい。男物の服はどうするんだよ」


「大丈夫です。服を変身させる魔法なら得意です。先生に教えてもらったんですよ。七歳のころに」


「えっ。服を変身させる魔法ってそんなに初歩的なことなのか?」


見栄があるので小僧は皇女にバレたくはないが、実のところ彼はそんな魔法は使ったこともなかった。


「学校では一年生で習いましたよ。だから心配はご無用です。あのときみたいに……ねっ?」


皇女殿下は十二歳の時と変わらずに、自分の先生には首をかしげて上目遣いでおねだりをするという、まるで子犬のような計算されたあざといしぐさをして見せた。

年甲斐もない、などといった言葉は言うまでもなく無粋である。

断ることは出来ないと最初から分かっている小僧は最初だけは抵抗した。


「ねっ。とか言われてもな」


「覚えてないならお話します。宮殿の外に出たことがないという私をあなたは外へ連れ出してくれました。

あの時はたった二時間で連れ戻されて先生、アクセル様たちにこっぴどく怒られてましたけどね。ふふふ」


「すまなかったな。無鉄砲というか、こうと思い立ったらすぐ行動してしまうというか、バカだな俺は」


「でも私は覚えています。あのたった二時間を、一分一秒を。

あれがあったから私は平気だったのかもしれません。もう、あなたと共有したいとは言いません。

昔のことを何度もお話するのもやめます。見苦しいですからね」


「そんなことは……」


「アベル様、先生と呼ぶのももう止めておきます。

それでも、何かできることがあれば私に言ってください」


なにしろ皇女は自他ともに認める口下手であるので、これ以上自分の想いを言語化することは困難な事業であった。

目の前の男のために何でもしてあげたい気持ちが胸を掻き立てて、居てもたってもいられない気分だった。

痒い所をかいてあげたい。痒いところがなければ痒くしてかいてあげたい。


自分が男装して外へ一緒に行きたいというのも何かの役に立ちたいという一心からの提案であった。

しかしその純情な感情は三分の一も伝わらず、相手を苦笑させるばかりだった。


「わかったよ。行こう。俺は出口の方へ行っている。

着替えて出てきてくれ。どこか案内しようか……飯屋とか、大通りとかはもう行ったか?」


「大通りの繁華街ですか。楽しみです。滞在期限までにどうにか行ってみたいと思っていたところです」


「滞在期限?」


「私は微妙な立場なんです、本来ならどこかに嫁に出して落ち着けようというのが当然、親や実家の考えでしょう?」


死神騎士団の最強戦力である皇女だ。親もたびたび結婚させようとはしてきたが、替えのきかない戦力である彼女の立場も理解しているため、無理強いはしてこなかった。

現在三十過ぎの彼女だが、血筋を考えればまだ嫁の貰い手はいくらでもいることだろう。

国内貴族や国外の王家などに降嫁させるにも使えるコマだ。

それが王侯貴族の女性に生まれたものの当然の運命であることに、議論の余地はないだろう。


「だがそうせずに、こんなところにいるわけだな。

表向きの目的は甥のラインハルト皇子などに会いに来た……か?」


「はい。そして裏では死神騎士団の一員として、シンファミリーの打倒を目的としてここに。

もっとも、それすらもう一つ裏がありますけど」


「その裏の裏の裏、というのは?」


「イザベル様と連絡を取り、ここで合流する約束をしました。

彼女と一緒にいる……そう、あなたに会えると思ったからです。

期限はあと数日。シンファミリーはまだ未確認ですが、アクセル様と繋がっている暴力団だとの情報もあります。

二十二年前、騎士団を裏切った歴代最強の団長。

それを追う手掛かりを見つけたと報告できれば、期限は無期限延期でしょうね」


「帝都に帰りたくない?」


「宮殿は我が家、帝都は故郷。嫌いなはずはありませんわ」


と言いつつも、この話に興味はないようで皇女はすぐ話を戻した。


「アクセル様を帝国が追っている理由というのも私はまだ教えてもらってないのですが、どうやら二十二年前、襲撃された宮殿から盗まれたものに関連してるようでして」


「死神騎士団の団長である姫様にすら教えられてないなら、トップシークレットって奴だろうな。

しかしアクセルもかつては同じ立場だったはずだ。どこでそれを知ったんだろうな?」


「さあ……ただ、私はまだ確証も何もないのですが予感がしているのです。

アクセル様が欲しがっていたもの、わが皇帝一族が取り戻したがっているもの。

そして、魔女イザベルが血眼になり、帝国に戦いを挑んだ理由。

それらはすべて一つのもの、"なにか大切なもの"だったのではないかと」


「二十二年前、宮殿に眠っていた"オタカラ"ってわけだな。

そりゃいいね。ミイラ化した親父の遺体を、先生と集めるよりは色気があるってものだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ