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第18話 サヨナラ=ビビサン

「何の義理も縁もゆかりもない他人の僕に、どうしてそこまでしようとしてくれるんですか?」


先生はこの質問をうっとうしいとでも感じたのか、しごく面倒くさそうに短く答えた。


「無視は出来ぬ。必要ないなら他を当たれ」


「いえ、あのっ、はい、ありがとうございます!」


「決まりだな。ところで先生、いったいこの神々のリンゴとやらは何なんだ?

才能とか血筋できまるのか。それともサンタさんが寝てる間にプレゼントしてくれたのかよ?」


「それは僕も気になります!」


「不明な点は多い。じゃが才能や修練の点で私たちがビビより劣るということはないはずじゃ」


「まあ、さすがに年季が違うからな」


「わかっているのは、才能のある魔術師にごく稀に表れるということ……吉兆であるとも、凶兆であるとも昔から言われておるな」


「なるほど。もしかしてこの眼、未来が見えたりしないですか?」


「見えると案外困ることがあるかもしれぬぞ?」


「えっ、そんな。便利そうじゃないですか」


「そうでもない。少なくともその目を持っていることは隠しておいたほうがよいじゃろう。

幸い、知っているのは私たちとアクセルくらいしかおらぬ」


「うわっ、ヤバい人に知られてたんだった……顔も見られた!」


「そうじゃな」


「あっ、そうだ詳しく聞くのを忘れてたぜ。なあ先生、あの夢はどういうことか説明してくれよ!」


「うむ」


先生はどこかへと迷いなく歩を進めながら話を続ける。


「よいか。私には過去を改変する力がある……はずじゃった」


「はず?」


「じゃが、ルシフェルによって過去を大幅に改変することは未然に防がれたのじゃ。

私の"夢の力"は本来世界そのものを変えるはずじゃが……さすがに奴には敵わないといったところか」


「ええと……つまりゆうべ俺たちに先生は夢を見せたんだな?

そしてそれは過去を変えるためのものだったと?」


「ウム。アクセルの背後にルシフェルというこれ以上ない大物がいることを知ったのは収穫じゃったな。

夢の続きは今晩見せてやるのじゃ。ただし過去を追体験するだけのものじゃがな」


「あの後どうなったんだ……?」


「まあ、今は気にせずともよい。ところでビビよ。お前は性別を変える魔法を手に入れてきたのじゃったな?」


「はい。この血をのんで先生が魔法をかけてくださいよ」


と、ビビはまだ新しい血の色をしたビンを先生に見せたが先生は首を横に振った。


「愉快なことに、お前の性別が変わっていることはカモフラージュの効果を発揮しているのじゃ。

今はあまり見た目を変えないほうが得策じゃと思うがのう?」


「だいたい、女の子のままだとカワイイんだからさ、今のままがいいと俺は思うけどなぁ」


「他人事だと思って好きなこと言っちゃって。自分が自分でなくなっているっていうのが、何より大事なことなんですって!」


「ふむ、まあ女の子になるとなくなっちまうものもあるなぁ……?」


「それセクハラですよ。全くもう。じゃ、先生。お願いします!」


「いいのかよ?」


小僧に聞かれた先生は髪をかき上げながら挑発的な態度で言った。


「頼まれたら断れぬのが私の性格でな。それに初めて使う魔法は練習しておきたい」


「吸血鬼……なんだよな?」


「半分はな。さて行くぞビビよ……!」


「はい!」


「……と行きたいところじゃが」


先生はビビの手からビンだけ受け取るとこういった。


「男の子用の服を用意せぬとな。小僧のではちと大きすぎるわ。

宿に戻っておる。二人で買ってくるのじゃ」


「ううむ、それはもっともだ。おいビビ、行くぜ」


「はい、お兄さん」


しかし、意気込んで買い物に行った二人が帰ってきて、昨日泊まった部屋で先生にビビが魔法をかけてもらうと予想外の出来事が起こったのである。

というのも、宿屋の狭い室内でベッドにこしかけ、ビビは魔法をかけられて確かに年頃の男の子らしくは多少なったものの、声や背丈はほぼ変化がなかった。

髪も長いし、肩などこのくらいの年頃の子ならもう少しがっしりしているはずだが、不自然なほど柔らかくて肩幅も狭かった。

要するに、ビビはかわいいままだったということである。


「……あれっ。これ魔法ちゃんとかかってるのかよ先生?」


「えっ、ちょっと鏡、鏡。今僕どうなってるんですか!?」


「なんかお前……今までと変わらぬな、ビビ」


かけた本人の先生ですら目を疑うほど変化の見られないビビに、何故か小僧はちょっと安堵していた。


「ヒヤヒヤしたぜ。ゴツイ少年に変身したら俺はどんな顔をしていいかと」


「ゴツくないですよ!」


「仮にゴツゴツしてたとしても、元に戻したのだから変身とは言えぬな」


「それもそうか。まあ改めてよろしくなビビ。先生、これはどのくらい保つんだ?」


「保って数時間といったところじゃ」


「ええっ。僕はどうすれば!」


「かけた本人を見つけ出して解除させるか、殺すか……"解呪魔法"使いに依頼するか、といったところか」


「そんな魔法使いに知り合いがいるんですか。ああ、先生は長く生きているからなぁ」


「そうそう。年齢だけは誰にも負けないんだなこれが」


「おい、お前たちそんなことを言っていて私が協力すると思うか?」


もちろん二人ともちょっとした軽口のつもりだったのである。軽く怒られるとすぐ平謝りした。


「すいませんでしたあっ」


「悪かったよ。で、先生。解呪魔法使いに心当たりあるのか?」


「ふっふっふっ」


今日の先生は機嫌でもいいのか、さっきの年齢いじりも軽く流してくれたし、普段はあまり見せない笑顔も簡単に見せてくれた。

なんだその勝ち誇ったにやけ面は、と聞きたかったのは小僧もビビも同じではあったが、ここはぐっとこらえて先生にその真意を小僧が率先して聞いたのだった。


「あのぉ、先生」


「なんじゃ?」


「いうのを忘れてたんだが、ビビのためにも紹介してやってくれよそいつのこと。お願いします先生!」


「うむ。よかろうて」


「それで……その魔法使いというのは?」


「お前たちも知っておる人物じゃ。その人物にこれから会いに行くとしよう」


「そりゃあすごいな」


「正直……私もあの方以上の魔法の才能は見たことがない。ハッキリ言って私よりセンスは上じゃ」


「なんだって。先生がそこまで言うとは!」


「少し説明するのじゃ。小僧も忘れておるのでな」


少し咳払いしてから先生は続ける。


「よいか。魔法というのはそれぞれの個性に合わせて発動するが、結局理屈はすべて同じ。

魔力という燃料を使って"作用"を生み出す。それらの組み合わせなのじゃ。

精密機械と同じじゃな。あの方はそれを短時間で分析してその逆の工程を行う……と、言うのは簡単じゃがな」


「例えるなら、自動車なんかを見ただけで全部バラバラに分解してしまえる、見たいな感じか先生?」


「うむ。そういうことじゃ。解呪を生業とする魔法使い自体は探せばどこの町にもいるじゃろう。

じゃが、一軒につき最大数年以上の時間を要するのが当たり前の世界じゃ。

魔法をかけた側も開発に数年以上かけるのじゃからな。

その中であの方のスピードは群を抜いておる」


「それでその方は?」


「今から行くと言っておろうが。せかすな小僧。ではビビ、行くぞ」


ビビが男になろうが何だろうが先生にはあまり関係ないのである。

先生は何のこだわりもない態度でビビの手をとり、微笑みかけた。


「ずるいなぁビビばっかり優しくされて」


「お前も手をつなぐか、小僧?」



「冗談ぬかせよ。さて、その魔法使いのところへ行って解呪してもらったら次はこいつの故郷か?」


「うむ。それより前に、少しお前にも魔法をかけてやろう」


「ん? なんのだ?」


と聞いて答えが返ってくる前に、先生は魔法をかけていた。


「なっ、何を。何の魔法だあっ!?」


見る見るうちにみずからの背が縮んでいき、ついにはこちらを不敵な笑みを浮かべて見つめている、先生と同じ目線にまでなってしまった。

それに気づいた直後、小僧はさっき自分があげた悲鳴が甲高い金切り声であることも認識していた。


「ぬわっ、これはまさか……大人を子供にする魔法か……!?」


「お前はバカか小僧」


「なんだと!」


「これは性別を変える魔法じゃ。さっきまでの話、お前本当に聞いておったのか?」


「あっ、まあ言われてみればそうか。なんでこんなことしたんだよ、早く戻せよ!」


「でもお兄さん、その格好だとかわいいから、別に戻んなくてもいいんじゃないですか?」


自分も同じことを言われたため、これはビビにとっての意趣返しである。

それをわかっているので小僧には何も言い返すことは出来なかった。


「ぐっ……!」


「にらみ合ってないで行くぞ。ここから少し西へ……女子供三人なら人目を忍ばずとも、堂々と行けるじゃろう」


「入るのに面倒がかかる場所に住んでるのかそいつは?」


「ウム……滞在はあと数日。時間がないのじゃ。行くぞ」



最近、CIV6とかいう時間泥棒ゲーにはまってしまいまして、寝るときと外出時以外ほぼ全部の時間がciv6に取られてて、製作元を何らかの罪で訴えたくなります。

そのぐらい犯罪的に面白いゲーム。電子ドラッグと言ってもいいでしょう。

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