第14話 家族と再会
「夢……夢か。そうか。遺体は、ある」
かすかに額には汗をかいており、ベッドから起きてみたのだが、結局眠いし、月の様子を見る限り今は真夜中である。
やっぱりベッドに戻ることにした。先生は気持ちよさそうに眠っている。無防備な薄着だ。
ビビは先生と一緒のベッドに戻ることに若干の抵抗感を今更覚えたが、やはり布団に潜り込んで目を閉じた。
そして先生の胸のところに顔を預け、母の愛に包まれているかのような安らかな錯覚とともにまどろむ。
「……ん?」
ふと、ビビは恐ろしい考えに至った。さっきの夢、どう考えてもただの夢ではなかったはずだ。
ビビも人生経験の多いほうではないがさすがに知っている。
夢は自分の頭の中のものをつなぎ合わせた支離滅裂な芸術作品だということを。
材料は己の記憶だ。決して知らないことを夢に見ることはない。
だとすると、やはりさっきのは実際に起こった出来事の追体験である可能性が高い。
問題は、だ。
今この場にいる先生が、果たして魔女イザベルの悪魔と呼ばれる存在なのか、それとも先生本人なのかわからないと思ったのだ。
ビビは恐ろしくなって布団をかぶり、やがて夢の中に沈んでいった。
気が付くと、牢屋にいた。目の前にはさっきも見た、長年の幽閉によって疲弊している独房の先生がいる。
拘束は解かれているが、出ようという気配はないみたいである。
ビビは先生と目が合うと、すぐに話しかけた。
「あのう、先生。僕のことわかります?」
「さっきの子じゃな。もう一人はどうした?」
「帰りました。僕だけここに」
「なんとまあ。正義感か、面白半分か?」
「どっちでもないですよ。ぼくは――」
ゾクリと鳥肌が立って、冷や汗がビビの首筋を流れ、目の焦点が合わなくなった。
恐怖で足がすくんだ。というのもビビは、さっきよりもさらに恐るべき考えに至ったからである。
先生は数百年生きている。たかだか三十年ほど前のことなら決して昔のことではないだろう。
その数十年前、確かにビビは先生に出会っている。
今そうしているように、会話しているはずだ。もしこの夢が真実ならば。
なら、ビビを覚えていないとおかしい。初対面の時点で気が付くはずだ。
百歩譲って悪魔のイザベルのほうなら人間の顔などいちいち覚えちゃいないということもあるかもしれない。
ビビは、"現在の時間軸における先生"は"悪魔のほう"であると考えるとつじつまが合うという事実に戦慄した。
「どうした、何か言いかけておったようじゃが」
「何でもないです」
とビビはコメント。すぐにさっきの考えは撤回し、これはただの夢だと考えることにした。
未来で見る夢が過去に影響を及ぼすなんて、そんな訳があるまい。
つじつまが合わない、タイムパラドックスだと考えたのだ。
「僕はこの牢屋にいる人を助けたい。何人くらいいるのかなぁ」
「うむ。ビビとやら、私が渡したものはまだ持っておるか?」
「ああ、さっきもらったケースですか?」
「うむ。アベルとアクセルのように、私のこれとそれは兄弟なのじゃ」
と言って先生はビビが懐から出した小さなケースと、同じような見た目をした箱のようなものを見せた。
「必要ならば使うとよい」
「わかりましたけど」
意味不明である。どういう時にどう使えばよいのか全く先生は説明してくれなかった。
ビビもあえてそこに触れはせずに話を続ける。
「とにかく僕はここに来なければいけなかったんです。
あなた方を繋げられるのは二人を知ってる僕だけだと思うから」
「二人……?」
「アベルさんならここにいます。あなたの息子なら」
「なにっ」
「ここは地下。あの人は最上階付近にいるはずです。先生、一緒に来てくれませんか」
「それはまことか。アベルが、私に会いに来てくれたのだな」
「あの人はいつだってそうです。行きましょう」
「すまぬ。ビビとやら」
とうとう先生は重い腰を上げて立ち上がった。着ている服は最低限の面積しかない薄い布である。
薄汚れたグレーをしていて、いかにも囚人服という感じだ。
そんなことはもう関係ない。日光に弱い先生であるが、肌のほとんどをさらして牢屋を出てきた。
至近距離で先生の顔を見てみて初めてその目が開いていないことに気が付いたビビであった。
先生はいつも髪で顔の右半分を隠しているのだが、なんとこの時の先生は両目とも開いていない。
「そ、その目……まさか」
ビビが恐る恐る聞くと、先生は気さくに答えた。
「ああこれか。もう……見たくないのじゃ。そう思ったのじゃ」
「えっ」
「比較的日に当たるこの牢に長い間おった影響なのじゃ。
魔力は失せて、目も……やろうと思えば後で目は治せるかもしれんが」
「どうして治さないんですか!」
「私のせいで破壊されていくものを。この世の見たくないものを、もう見たくなかったのじゃ。
ビビとやら、今は違うぞ。もう一度見てみたい。愛する人の私を見つめる顔を。
アクセルに関してはもう諦めたが……アベルの顔を、お前がもう一度私に見せてくれるんじゃろう?」
「はい。お兄さんのハンサム顔、いくらでも見ていいですよ。
行きましょう。ちなみに戦いでは頼りにしてもいい感じですか?」
「情けないことを言うのう」
「じゃあちょっと待ってくださいね先生。今何とかしてあげます」
「なにっ」
魔力とは信じる力、思いの力。人々の思い次第で、イザベルという悪魔が生まれる。ここはそんな世界である。
ビビには、己には神々のリンゴと呼ばれる眼の力が存在し、目に関することならば何でもできると教えられた経験がある。
そうでなくては、先生に視力を渡すなどという芸当をやろうとは思いつきもしなかったであろう。
ビビは先生に視力を与えた。その詳しい魔術的メカニズムに関しては、悪魔のほうのイザベルを呼んでみないことにはわからないだろう。
「見える……ん、あれ? どうなっておる?」
「あれっ。もしかして見えないですか?」
「そうではなくて、私の姿見える。もしかしてこれはお前の視点かのう?」
「僕の視点が見えてるってことですか。ちょっとやりにくいかもしれないかもですが我慢してください。
もしあの人に会えたらその時は本当に目を治しますから」
「恩に着るぞビビ。ところでお前……その力、話に聞く神々のリンゴか」
「えっ」
「行くぞ、時間がない。話は歩きながらじゃ」
と言って先生はビビを置いて歩き出した。それについてくるビビに先生は話を続ける。
「その力は神々のリンゴ。天賦の才を持つ魔術師に稀に現れるとされる特異な能力じゃ」
「僕にそんな大それたことが……?」
「いずれは出来るようになるじゃろう。魔力操作、魔力の使用効率、回復力。
何よりも敵の術式の解読、そしてコピーに長けるはずじゃ。
詳しくは私の著書を読め」
「著書?」
「帝都の魔道図書館に置いてあるはずじゃ。暇なら行ってみるとよい。
私の名前を出せばいいはずじゃ。アクセルは帝都で働いていると聞いているからのう」
先生は言葉足らずだったが、要するに帝都でも中心部にある魔道図書館なる重要施設に権限を持つような、かなりの重役に息子のアクセルが就いていると先生は言いたいようだった。
そのことはビビも察してあげた。そしてこう答えた。
「よしっ……実はここに血があるんです」
「誰の血じゃ?」
ビビは懐から試験管のようなものを取り出し、先生に握らせた。
「アベルさんの血です」
「なんと!」
「僕にそんな力があるなら使ってみましょう。半分だけね。
残りの半分は先生が飲んでみてくださいよ。
確か、血をのむと力が出るって話でしょ?」
「言うまでもないことじゃが、私と血を分けたアベルの血なら通常よりも遥かにな。
何故そんなものを持ってるのかは聞かぬ。感謝するぞ」
血は、飲むものである。当たり前の話だ。
もし注射して使うならたとえばO型の人はO以外のすべての血液を嫌うので、他人の血を使って魔法を使おうとしたらたちまち死んでしまうことになる。
ビビはもちろんそれを知っているので迷わず飲んだ。先生に至っては、もともと吸血鬼の血が混じっているので躊躇しなかった。
同じ血を分け合った二人。かすかに口の端に垂れた血を舌でなめとったら、先生は少し声を潜めてこう言った。
「いいかビビ。どうやら向こうから敵が来るようじゃ。看守じゃな」
「看守って……いるんですか?」
ビビとミリーが最初ここへ連れてこられたとき、たしか城の近くの魔法屋さんにいた奴に付き添われた。
その男はこの辺のマフィアの一員であり、あくまで魔女の部下ではなく業務提携ということのようだ。
実際、牢屋に入れただけで後は影も形もない。
「看守って、知ってるんですか?」
「女看守じゃ。倒すのは造作もないが、あれは魔女の力で操られている"眷属"じゃ。
知ってると思うが、吸血鬼の血の混じった者は人間の血液に己の体液を混入させ……意のままに操れる眷属にすることが出来るのじゃ」
「僕、戦闘能力ないですよ!」
「心配いらぬ。アベルの血をのんだ以上は。私も回復した。多少は手伝ってやろう」
結果から言うと、先生は参戦せざるを得なかった。
ビビと先生が地下牢を出た直後、監視室から女看守が出てきた。
当時の技術的に監視カメラやモニターなどあるはずもない。気合で見張っていたのである。
「おお、看守久しぶりじゃな。五年ぶりくらいかのう?」
「ボケたかお婆さん。今朝も血を恵んでやっただろッ!」
看守という役割は人を攻撃的にする。
そればかりかこの女看守はもともと美貌に自信を持っており、これを加齢で失う恐怖にさいなまれていたところを魔女につけこまれた。
あとは大体わかると思うが、半永久的な若さを約束する代わりに眷属となった。
「なんだかわからんがくらえっ!」
とビビは小僧の真似をして手を叩いた。
魔力が放出されて女看守の耳に入り、先生はとっさにガード。
「何かわからんがくらえっ!」
ビビは追い打ちで小僧に教えられた通りに指を鳴らし、女看守は鼻と耳から血を流し始めた。
「おや……効かぬようじゃな」
「効いてないんですか!?」
「ふむ」
女看守は確かにダメージは受けたようだが、少しよろめいただけでまた顔をこっちに向けてきた。
「うひぃっ」
ひどい形相だった。ビビは腰が引けて半泣きになってしまう。
女看守の目からは血が流れ、白目部分は真っ赤になって鼻血が垂れている。
「眷属になったことで身体的に強くなっているようじゃ。一般人なら即死じゃな」
「ちょっと、助けて! 僕の力は!」
「そう、お前の力は身を守るのにうってつけじゃ」
「あっ」
僕の力は攻撃力に乏しい、と言いかけたビビだったが、先生に言われて己の本領を思い出した。
「必殺、ファントム……えー、幻術攻撃!」
「ぐがあああっ」
ビビの力は他者の視界をも操作する力だ。幻覚を見せて、一時しのぎではあるが敵の行動を止めた。
女看守は視界もふさがれ、こちらを捕捉するには数秒はかかる。
その間に先生はビビの頭に手を置いてこういった。
「よくやった。続きは私がやろう」
「先生の術式でやっちゃってください!」
「私のはあまり使うべきではないのだが……」
先生はあまり戦うのは乗り気ではないようである。
ビビはあの炎と氷の恐るべき力がみられるのかと思ったのだが、結果は随分予想とは違った。
先生は手当たり次第にその辺の鉄格子をつかんだり石畳の上で地団駄を踏んでいる女看守を指さした。
「殺しはせぬ。眷属ならば死なぬはず」
「えっ。先生、眷属なら先生の命令に従わないんですか?」
「えっ」
「えっ」
先生はびっくりしたみたいにビビのほうを向いたあと、少し考えるようなしぐさをしてから言った。
「そうじゃのう。そこのお前、直立不動の姿勢をとれ」
「はっ」
なんと女看守はビビに視界を奪われ、脳に直接魔力を注がれてダメージを受け、満身創痍のコンディションながら起立した。
ぴったりと指先を網タイツをはいた太ももに沿わせ、微動だにしない。
「どうやら術式を使うまでもないようじゃのう。どれ、お前に使ってやろうかビビ」
「なにを言ってるんですか、ふざけないでください!」
「私は本気で言っておる。術式発動。【蝶】」
「ちょ、ちょうですか。あのひらひら飛んでる蝶?」
てっきり炎と氷の魔法を使ってくるかと思ったら、先生は一瞬ビビのことを指さしただけである。
拍子抜けしたのもつかの間、ビビは女の子に抱き着いた時のようないい香りがフッと鼻を通り抜けたことを発見する。
この場には女は女でも、まともに風呂になど入ってるはずのない先生や死人である女看守など、お世辞にもいい匂いのする女の子はいない。
そして同時に気が付いた。突如襲ってきた猛烈な頭痛で立っていられないということに。
「これが私の術式。私の術式は毒じゃ。息子のアベルとは割と似たタイプの術式じゃな」
「なんで僕に発動したんですか!」
「体感したほうがいいかと思ってのう。私の術式は、魔力でガードすることが出来ぬ。
お前もそろそろ魔力でのガードを覚えたほうがいい頃合いじゃ」
じゃあ、なおさらガード不可能な不可知の毒攻撃とかいう反則技を使ってくるな、と怒りたいところだったがビビは我慢したのだった。
半地下の牢獄に敷き詰められた冷たい床石に膝をつきながらビビはこう言った。
「先に行ってください先生。必ず追いつきます。目も治ったんじゃあないですか?」
「うむ、そのようじゃな」
先生はビビのことも苦しんでいる女看守のことも虫を見るような冷たい目でしばらく見降ろしたあと、くるりと背を向けて続ける。
「見てみろビビ。倒れた看守がカギを持っておる。お前はここでほかのものを解放しろ……私は行く」
先生の足音が聞こえてこなくなったらようやく体も楽になってきたビビ。
立ち上がり、倒れた女看守の下半身をまさぐるとあの、お決まりの無骨な印象のある鍵の束を発見。
すぐに牢屋を検索して、他に人がいないか見てみた。ミリーも、他の牢屋に入れられている人を助けてやればいいのに薄情な子である。
すると、ほとんどの牢屋は空だったが、ある牢屋に子供が二人いることをビビは発見した。
どうやら自分よりも若干年下ぐらいの子供のようである。
牢屋の奥で寄り添いあって、少しでもビビから離れようと最大限の努力をしているさまがうかがえた。
「大丈夫、心配しないで。助けに来たんだ、ほら」
ビビが手を広げると、小さな女の子二人組はようやく緊張の糸がほぐれたようで、片方が話しかけてきた。
「ありがとう。私たち、人狩りでつれてこられて……!」
「人狩りとはなんてひどいことを!
この辺の出身じゃないってことかな?」
そういえば、とビビは思い出す。前に長々と説明したが、この辺りは大きな河川の川沿いである。
荷物を運ぶ船が大勢行き来する。その川を人を積んだ船が往来していてもなんら不思議はないと考えた。
「うん……お姉ちゃんも?」
「いや」
「父さんと母さんも魔女の人狩りで死んだ。もうどこにも行くところがないんだ」
「それでもここよりはマシだと思うよ。現にさっき、同じような人を助けてきた。
この牢屋にしがみつこうとする人をね。その人は愛する人にもう一度会いたくて、説得に応じてくれた。
それとも、二人は一緒にいられればこの牢屋でも構わない?」
と誘導されたので姉妹らしき女の子二人のうち、さっきから盛んに話しているほうが答えた。
「やっぱりよくない。外へ連れ出して!」
「そういってくれると思ってた。ついてきて!」
三人で牢獄の外に出ると、すぐに短い階段があってこれを上ると地上だ。
ビビはお行儀よく正面のファサードから出ていくことにした。
むろん城門には、警備を任されている"眷属"の男がひとりいた。
見張りの兵などはいない。魔女イザベルにとってはどんなコソ泥も身の危険にはならないからだろう。
警備は一人だけ。怯える二人を後ろに隠し、ビビはこちらに気が付いている男へ無造作に距離を詰めていく。
その距離百メートルほど。目は合っている。向こうは微動だにしない。
ビビはだいたい五十メートルほどの距離まで来ると、手を叩いた。
「これでどうだ?」
遠目から見ても効果はあった。うずくまり、唸り声を上げて眷属の男が苦しんでいる。
そのまま距離を詰める。詰めないと後ろの二人にまで自分の術式の効果が及ぶ可能性があるからだ。
「効果切れか……!」
ビビは己の体から小僧の魔力が抜けていくのを感じた。通常、それを検知するのは不可能である。
本人も気が付いていないが、魔女の言う通り、努力して身につけられる類のものではない才能の片鱗だった。
ビビは気が付いている。己の圧倒的な火力不足を。
通常、そもそも魔力自体を攻撃に使うというのが魔術師の常識にはない。
そのようなことは通常あり得ないことだ。
仮にそのような魔力操作ができたとしても普通の人間ではコントロールできるのは雀の涙程度で、戦いには使えない。
ビビはその常識を破れる魔術師になりうるが、まだ有力な師匠に師事していない才能だけの原石であるため、今すぐには出来ない。
だからビビにできるのは他人の視界をジャックして視界を狂わせたり幻影を見せたりするのがせいぜいで、殺傷力はない。
ビビは倒れた男を確認し、気絶していることを念入りに確かめてから後ろの二人を呼んだ。
「二人とも、急ぐんだ。早くここら逃げて、逃げて遠くで暮らすんだ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
「気を付けてね。あ、そうだ。一応聞いておこうか。
僕は男を女にする……またはその反対ができる魔法使いを探しててね。
二人の魔法はどんな感じなの?」
するとさっきからずっとビビに応対しているほうの活発な女の子がこういった。
「妹は魔法の才能があるんだって。魔女の器だって」
「へえ凄い。でもそれで人狩りになんて遭ってたら割に合わないね」
「そうだよ。でも妹は魔法以外、一人で何にもできないんだ。
私以外の他人と話すこともできない。私は魔法以外のすべてをやるって決めてるんだ」
「頑張ってね二人とも。僕のことは気にしないで」
「うん。ばいばい」
結局、姉のほうだけが喋って妹のほうは一言も話さなかった。
二人は一応ビビには感謝しているようだが、ビビ本人も気にしないでと口にしている。
ビビの前を通り過ぎ、一度姉のほうが振り返ったが、そのまま城門を出ていった。
そのときだった。ビビの耳にこのような声が城門のほうから聞こえてきた。
「おや、こんにちは。魔女の城から生きて出てくる子供がいるとはね。
魔女をかまどにでも投げ入れたのかな?」
などと、ヘンゼルとグレーテルをパロディしているような男の声が聞こえた。
さっきの姉妹の姉のほうがこういっていた。
「助けてくれた人がいるんです。あなたこそ魔女の城に何の用?」
「魔女の城にやってくる男は誰かって。決まってるだろそんなこと。
魔女を退治する正義の味方だ。じゃあね子供たち」
冗談交じりの軽いノリに、ビビはなんだか懐かしい親しみを感じた。
そして城門のほうからツカツカと踵を石畳で鳴らして歩いてくる声の主の男が、明らかに小僧そっくりであることに気が付くと鳥肌が全身を覆った。
「おやダビド・ルイスくん。寝てるのか?」
「も、申し訳ありませんアクセル様……!」
さっきの守衛の男が起き上がると全身に冷や汗をかき、この国に土下座の文化はないが、土下座に近い姿勢で平謝りしだしたのだった。
ビビも一応は情報として聞いていた。小僧の兄であり、顔の同じ男。アクセル。
詳しいことはわからないが悪の組織を作って暗躍してるとか、していないとか。
「結構君強かったはずだけど。まあいい。やったのは君か?」
とアクセルに指さされたビビ。一瞬頭が真っ白になって言葉が出てこなくなったが、臆しているところを見せたら負けだとビビも知っている。
たとえ、そうとまるわかりだったとしてもハッタリをかますしかないっ。
「あなたがアクセルですか。僕は……いや名前はどうでもいい。
あなたより先に魔女イザベルを倒す男だ!」
「男には見えないが……しかし君はなかなかいい目をしているね。
神々に与えられし目か。面白い魔法使いがもう一人いるはずだが」
「神々に……?」
「人狩りで連れてこられたのかな……まあ、とにかく災難だったね。
いや、不幸中の幸いで逃げられたならよかったよ」
「なんだかアベルさんたちから聞いてたよりいい人そうですね、アクセルさん」
「やれやれ。文句を言いたいのは実際、こっちのほうなんだけどね。
アベルに助けてもらったのかもしれないね、君は。弟に会いに来たんだ」
「城の最上階のほうで魔女と一緒にいるはずです」
「ふむ。では行こうか」




