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第13話 母の胸

「神々のリンゴ。アウク・アペルと呼ばれる眼じゃ。恐らくこの子は目に関する術式を持っているはずじゃ。

本人が開発するまでもなく初めから持っている術式を所与術式という。

いわゆる努力では到達できない次元……"天才"と呼ばれる部類に入るのう」


「目に関する術式か。聞いたこともない」


「そうか? 私の思い違いとは思えぬが」


「いや……この子の能力は透明化だと聞いている。それがどうかしたのか、先生?」


「透明化ではないかもしれぬぞ。その逆じゃ」


「は?」


「この子の力は、他人の目に作用して己を見えなくしているということのはずじゃ。

およそ眼に関することは何でもできるはず。アベルとはどういう関係なのじゃ?」


「いや全然。関係はないけど」


「まあよい。久しぶりに面白い魔術師を見つけたものじゃ。

それに遺体の反応からして、こやつ遺体を持っておるのう」


「あちゃー、持たしてたのが裏目に出たか」


「なんじゃ、やっぱりお前の仲間なのではないか」


と言って、イザベルはビビの懐へ伸ばしかけた手を引っ込めた。

息子の仲間に危害を加える気はないようである。


「う……!」


うめきながら薄目をを開けたビビを発見した小僧はこうささやいた。


「おい、ビビ。俺の後ろだ。いいな、急げよ」


ビビが目に関することなら割と何でもできるとイザベルが述べたように、小僧も音に関することはほぼ何でも出来る。

その時、小僧にアイデアがひらめいた。イザベルでさえ容易には突破できない攻撃を。小僧はビビにさらに話を続ける。


「いいかビビ、お前は他人の視界を操ることが出来る」


「えっ」


ビビは頭の中に声が響いてくることに驚きを隠せなかった。

しかも驚いたのはそれだけでなく、自分の声も口からは出てこないのである。

小僧は音に関することならほぼ何でもできる。全能の音楽家といってよい。

普段、こんな能力は使う必要もないのであまり使わない。

音に指向性を持たせ、本来球状に広がっていくはずの音という現象を、任意の二者の間に往復させるという力だ。


早い話がテレパシーである。小僧は音を操る魔術師であると同時に、無音の魔術師でもある。


「俺は音を消す。五感を乱して戦うんだ。俺とお前なら勝てるかもしれない」


「わ、わかりました。やってみます」


ビビはゆっくり立ち上がり、脱兎のごとく駆け出して小僧の後ろへ移動。

これを確認すると小僧はイザベルを見下ろしてこう言った。


「先生。もう情けは請わない。俺も本気で行くからな」


「バカめ。お前たちの本気では私は死なぬ。終わったら頭を撫でてやる」


「行くぞ」


まずは小僧による無音の芸術が始まった。イザベルに入ってくるありとあらゆる音を、ギターの弦を指で押さえるようにしてミュートする。

彼女の耳には風のそよぎ一つさえ入ってこないまま、横っ面に小僧の右フックが入った。


「なにっ」


クリーンヒット。イザベルの下あごは吹き飛び、全身が強く床にたたきつけられて体をかばった右腕が複雑骨折した。

右フックが入ったので、小僧から見れば左のほうへ吹き飛んでいったイザベルは当然、右側が体の下のほうになる。

腕は骨折し、右側の鎖骨が真ん中のところで折れて鋭利な切り口が皮膚を突き破っていた。


「これでも生きてるのか……!?」


常人が食らえば全身が木っ端みじんになるような力で殴ったはずだった。

それでも一応原形を保っている母親の姿には驚愕したと同時に、ひどく空しく、悲しい気持ちにもなってきた小僧だった。

これは夢である。夢の中とはいえ、大切な人を本気で殴らなければいけないのはどういう因果かと、行き場のない怒りを覚えた。


「やりました!」


「やってねえ。視界の妨害を継続しろ、ビビ」


「あ、はい」


イザベルは起き上がる。負傷は治っていない、左腕でいうことを聞かない右腕を支えて立ち上がるのがやっとだ。


「さあ、どれだけの命を奪ってきた。どれだけの命を吸ってきた?

十万か、百万か。死ぬまで殺してやるから。最後まで付き合うからな!」


「うれしい……」


「なにっ?」


イザベルはいつの間にか顎を治しており、喋りだした。

小僧はあまりに不意を突かれて、自分の魔法でミュートしているのに、イザベルの声が聞こえてきたことがおかしいことに気づきもしなかったのだった。

イザベルは小僧の魔法を模倣し、小僧がやっているのと逆の手順でこれを攻略。

何食わぬ顔でこう続ける。


「嬉しいぞ。それって、殺したいほど愛してるってことじゃな」


「何を言っているっ」


「私もお前を愛しておるぞ。私もお前も、すべて同じじゃ」


「違う!」


「違わぬ。私もお前も同じことよ。気がつけばそこにいた。

私の年齢は十歳なのじゃ」


小僧は頭が真っ白になった。そして、頭が真っ白になったと顔に書いてあるような表情をして硬直。

しばし思考が停止した。しかし絞り出すようにしてなんとか返答をする。

会話を途切れさせたら何か悪いことが起きる気がしていたのである。


「ふざけんな、先生は何百歳だと思ってんだ!」


「本当なのじゃ。本当は全部嘘なのじゃ。全部、全部……!」


「そんな馬鹿なことがあるか。つじつまが合わないだろ!」


「アクセルや、お父様やお前と過ごした記憶も偽物じゃ」


「偽物なんかじゃ……!」


イザベルはとうとう我慢しきれなくなって小僧に抱き着いてきた。

胸の中に顔をうずめながらイザベルは胸の内を吐露し続ける。


「殺しても殺しても、吸いつくしても満たされぬ。

この渇きの正体は何なのかようやくわかった気がするのじゃ」


「何を言う気だ?」


「もうわかっているじゃろう。お前には私を止めるのはたやすい。

お前がどれだけ渾身の拳を私に叩き込もうが永遠に私を倒すことは出来ぬ」


「……だろうな」


「なぜなら私は悪魔だからじゃ。悪魔は真名まなを知る者が祓わぬ限り絶対に死ぬことはない。

実際、この悪魔のようにな」


「えっ」


イザベルは一体どこからそれを取り出したのだろうか。

異空間からなのか、髪の毛の中なのか、それは不明であるが、彼女の手元には小指が入っていた。

黒く変色して乾燥し、しぼんだ手の小指は小僧も見慣れた、"孤独の悪魔"と呼ばれる悪魔の封印された遺体だ。

先生はこれを集めていた。悪魔を封印するなどということは通常できるものではない。


「アクセルがこれを封印したらしいが……もう百年以上前のことになるか。

私も実際に体験したわけではないので詳しくは知らないのじゃ」


「孤独の悪魔の遺体だな?」


「ウム。アクセルならあるいは、私を封印することは出来るかもな。

奴はお前をも遥かにしのぐ強大な魔術師になっておるようじゃな。

お前と違って母親である私が何をしてても興味も示さぬ冷たい奴じゃ」


現在、いまだに小僧の誤解は解けていない。

先生が二人いるなどということは全くもって思考の埒外だった。

実は先生は悪魔で、思考が錯乱しているのだと小僧は認識していた。


「お前になら教えてやってもいい。わかるな、アベル。

お前でなければいけないのじゃ。お前だから後ろの者たちを救えるのじゃ」


「どうすれば?」


「古代文字は読めるな。悪魔との契約を行うための魔導書……グリモア。

私のグリモアはこの城にある。アンナ、案内をしてやれ」


「えっ」


半不死身のアンナはいつの間にか吹っ飛ばされた首を元に戻してイザベルの後方に控えていたが、呼ばれたので進み出てきた。

どうも、他人に悪魔の命ともいえるグリモアを託すのは反対らしい。


ここで振り返っておくと、悪魔には個人情報や契約要綱などをまとめた魔導書、グリモアというのが一体につき一冊存在する。

これは、悪魔が触れると超自然的な力によって天罰が下るので、悪魔は触れない。

よって、人間にこれを管理してもらう必要があるのだ。


なぜそのようなシステムになっているかというと、実はこれがこの世界の根幹だ。

この世界の創造主は悪魔王ルシファーと呼ばれる堕天使であり、元は神に仕える上級天使だった。


ルシファーは神をまねて堕天した先で、この世界を創造した。

人々の恐怖や負の感情のよどみは強大な力となって形成され、これがいわゆる"死の悪魔"とか"捕食の悪魔"などだ。

これらの上位に存在するのがルシファーで、彼は想像を絶するほど長生きでいたずら好きで天邪鬼だ。

ルシファーだけがこの世界で唯一本物の悪魔であり、その他のものはルシファーの眷属、いや、しもべ程度の存在に過ぎない。

そして人間たちはそのしもべである悪魔たちにとっては虫けらレベルの力しかもっていないという構造だ。


あまりにも暇なので、ルシファーは人間や悪魔に日々いたずらをして暇つぶしをしている。

ルシファーのせいで理不尽にひどい目にあう人もいれば、気まぐれでいい目を見ることが出来たりもする。

早い話が、グリモアというシステムはルシファーが悪魔たちを管理するために作ったシステムだ。

そのため、人間よりも力の強い悪魔はグリモアという大きな弱みを握らせざるを得ないシステムになっていて存外対等な関係なのだ。


人間は悪魔と契約して力を使う。その代わり悪魔の弱点であるグリモアを守る。

そしてグリモアには悪魔の名前、真名まなが記されていてこれを知っている人間だけが悪魔を祓える。


つまり、主人の生殺与奪を小僧に握らせるということだ。


「いくらアベル様とは言え……!」


「私に意見する気かアンナ?」


別段、凄んだわけではなかった。それでもアンナはおろかイザベルから発せられたわずかな怒気を受けただけで小僧もたじろいだほどだ。


「いえ……承知しました」


「なんだか妙な展開だが……あいつらが助かるんならいいか」


小僧としても、瞬間移動で先に行動をしていたビビとミリーがマフィアと何かひと悶着を起こしている可能性は認識していた。

まさかイザベル本人がこの町にすでにいて、しかもミリーたちのほうからイザベルに捕まろうとするとは全く予想の外だった。

小僧がアンナに連れられて行くのに前後して、目を覚ましたのはミリーと、そしてこの一件に外野から関与してきたぜんぜん関係のない男、アルだった。


「奴がいない。どうなっている……?」


アルは目を覚ましてあたりを見渡し、とりあえず大体の事情は把握した。

小僧のことだから、イザベルと話をして、子供たちのことは助けてくれるように約束を取り付けたに違いないと。

その予測はむろん当たっていた。まだ頭が痛む。脳が収縮しているかのようだった。


小僧の魔力による後遺症である。訓練されていない者だったら即死していてもおかしくない出力だった。

普段の彼ならば決して出さない威力だ。


「話は大体わかった。俺たちは魔女様のお情けで助けてもらったと……そういう話なんだろ?」


イザベルはアルに全く興味はない。ビビのように目を惹かれる特別な才能も見受けられなかったからだ。

アルに話しかけられて興味なさそうではあったが、今は機嫌がよいので答えてあげた。


「そういうことじゃ。生かしておいてやるから、消えるがよい」


「そういうわけにはいかん。よくわかったよ。俺は弱い」


「誇れ、お前は強い。人間にしては、じゃが」


「ああ。ガキども、さっさと逃げろ。俺はやる」


「やるってあなたね。どうあがいても勝てないでしょ」


ミリーは歯に衣着せぬタイプである。事実をストレートに言った。アルは意に介していない。


「それでもやらねばならない。力だ……力だけが俺を肯定してくれる」


「お前……ここへ来た時からニンニク臭かったのう。全く、バカなことをしたものじゃ。

まだ私が吸血鬼などではないということに気が付いていないのか?」


「なにっ」


「しかしちょうどよい。吸血鬼の能力は私の持つ手札の一つにすぎぬが、よし、使ってやろう。

お前はアベルの友人のようなのでな。そのよしみじゃ」


「まさか……俺を吸血鬼に?」


「処女、もしくは童貞の血を吸うことで私の眷属にしてやることが出来る。

しかし問題はそこじゃな。お前、過去に女を抱いたことはあるのか?」


非常にプライベートな質問である。アルは即答した。


「わからない。何も思い出すことが出来ない」


「ふむ……まあよかろう。純潔でなければアンナのように私のしもべにするだけのことじゃ」


というが早いか、イザベルはアルを指さした。

反射的にアルは身構えたが、まるで弾丸のような速度で彼女の指が伸びてアルの首筋に刺さった。

反応もできなかった。指は数秒ほどそのままになっていたが、イザベルは指を引っ込め、アルはその場にくずおれる。

首筋には常人なら死んでいるような大穴が開いている。女の細い指とは思えないほどの、直径三センチメートルくらいはありそうな穴だ。

噴水のように血が噴き出るはずだが、血は一滴も流れ出ることがない。


不思議なほど静寂で平和だった。首筋に空いた穴からのどかな青い空と白い雲がのぞいていた。

空を飛ぶ鳥の声がよく響き渡り、爽やかな風が一同を撫でていった。


「なるほど。純潔だったか。昔を覚えていないというが、まさか……?」


イザベルはここで初めてアルに興味を示し、見えない力でアルのニンニクブレスレットを外した。

そして、髪をかき上げて、帽子を取らせるなどして隅々まで検索。すぐに結論が出た。


「これはこれで珍しいのう。面白い、人狼が混じっておるのか。道理で覚えていないはずじゃ。

暴走して大切な人を殺した記憶を自分で封印……まあ、そんなところじゃろう」


人狼なら純潔で当たり前だ。相手がいないのだから。人狼は数が少ない。

この世界における人狼はハリー〇ッターシリーズなどでも採用されているようなタイプだ。

この世界における人狼は一種の病気のようなものである。人間は感染すると満月の日に人狼となるのだ。

感染経路などは不明な点が多いが、どうやら感染しても症状が出ない人と、出てしまう人がいる。

人狼は人間との間に子供を作ることは出来ない。


だが、人狼は狼と子供を作っても、別に変った所のない普通の狼ができる。

なんなら通常の狼よりも強く、たくましく、健康になるくらいだという。

このことから学会などでは人狼という病気の正体は狼にとりつく寄生生物である、という見方がされている。

狼にとっては寄生虫であるが、同時に自分を助けてくれる益虫なのだ。

人間は昔から狼から進化した犬と一緒に暮らしてきたので、いつしか狼と同じ寄生虫を共有してしまった。


本来であれば問題を起こさない大人しい寄生虫が誤って人間というイレギュラーな宿主に入ると不具合が生じるのだ、というのが多くの研究者の意見だった。

イザベルはアルの正体がわかると、もう興味をなくしたようにこれから顔をそむけた。


「人狼の力と吸血鬼が混じるとは歴史上初めてかもしれんのう。

じゃがどうでもよいか。私に興味があるのは……」


最期まで言い切らずにイザベルは南西の尖塔を見た。ミリーは、どうやらそこにアベルがいるらしいと思った。

正解である。ミリーは自分に自信があり、賢い子だ。合理的である。

そのため今の状況を整理して、次どうするべきかについてはこう考えた。


まず、自分とビビは空間魔法で逃げることが出来る。

小僧についてだが、これはイザベルと親子のようだし放置しても問題はないと考えられた。

今は自分たち二人が最優先。小僧もそれを望んでいるはず。


アルと地下牢の先生は、悪いが放っておくべきであろう。

二人ともここにいることを望んでいるようだったから。


「さようならアベル。あなたはいい人だった」


そう言い残すと、ビビの手を握り、目を閉じて家を思い浮かべた。

もう次の瞬間には、セラの家に二人は帰り着いていた。


「わっ、もう。二人とも、帰るなら玄関から入ってきてちょうだい」


キッチンで仕事をしていたところ、突然後ろにビビとミリーが出現したことに驚いたセラが言い終わると、ミリーは間髪を入れずに状況報告としてこう述べた。


「ママ先生。アベルは魔女イザベルのところに行ったわ」


「はい?」


「領主様のところにイザベルがいた」


「でも、えっと、イザベルは二人なんです」


「はい?」


ミリーは口下手なほうではないが、とにかく説明が下手なことに定評のあるビビが口を挟んだことによって一気にセラは状況がつかめなくなった。

ビビは頭が悪いわけではないが、うずまく思考に口と舌が追い付かないところがあったのである。


「えっと、イザベルは双子の姉妹でもいたの?」


「違うわ先生」


「アベルさんはイザベルのグリモアを取りに行くとか言ってました!」


「そうなの。悪魔と契約する気なのね。別にそれはいいんだけど……でもなぜ?」


「何か力になれることがあればいいんですけど。セラさんの魔法で何とかならないですかね?」


「ムチャ言わないでよ。私にできることはせいぜい占いぐらいしか……」


「占いでもなんでもいいですから。あっ、この家にミリー以上の天才魔術師とかいません?」


「いないわよ。あ、でも今日のラッキーな星座はみずがめ座、ラッキーカラーは赤よ?」


「僕違いますよ」


「私も」


「あらそう。私もなんだけど」


これは余談だが、イザベルおよび先生はみずがめ座である。

ラッキーカラーの赤に関しては、まあ言うまでもないことだろう。

常に赤はそばにある。要するに彼女にとって今日はラッキーであるということだった。


「占いはもう大丈夫です。ミリーちゃん、悪いけど僕をまたあの城へ送ってくれる?」


「何を言ってるのビビ。あそこは危険だらけ。神々のなんとかだか知らないけど、戻って何の意味が……?」


「僕は強くなるって決めたんだ。まさか魔女を倒して見せるなんて言うつもりはないよ。

でもここで何もしなかったら僕は一生逃げてばかりの人生を歩む気がする」


「自分を大切にすることは悪いことじゃないわ」


「私もそう思うけど」


「それに話を聞いてると、魔女は遺体を持っていた。僕の居場所もわかる。

ここにいてはいけないらしいんだ。居場所が探知される」


「ミリー、言うことを聞いちゃだめよ?」


とセラから念を押されたミリーは彼女のほうを見てうなずきもせずただ一瞬、目を合わせた。

そしてビビのほうを向き直ると、こういった。


「楽しかったよビビ。同い年くらいの子は周りにいないから新鮮だった」


「こら!」


「私はここにいる。万が一また死神騎士団がここに来たら相手をしなきゃ」


「そうだね」


「でも私の手では行かせられない。もし何かあったら私……きっと自分を責めると思うから」


とにかくミリーは嘘をつかない。女は嘘をつく生き物だというが、彼女に関してはその限りではない。

これ以上ないほどまっすぐな性格だ。思ったことをハッキリと口に出した。

ビビはあきらめたようにこう言った。


「悪いね。じゃあ僕はもう――」


ふと、ビビは思い出したことがある。これは夢である。なぜか夢を見ているうちにこんなシリアスな展開になってしまった。

だがよく考えればこれは夢である。何やら覚悟など決めちゃったが、そんな必要は全然ない。

そこで試しにほっぺをつねってみたのだった。気が付くと、目の前が真っ暗だった。

不思議な花のようないい香りがして、静けさの中、ビビは顔を上げてみた。


先生の胸はかなり大きめなので谷間もそれなりのサイズがあり、ビビはこれに顔をほとんどうずめたような状態だったのだと理解した。


「夢……夢か。そうか。遺体は、ある」


かすかに額には汗をかいており、ベッドから起きてみたのだが、結局眠いし、月の様子を見る限り今は真夜中である。

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